#10 試験が終わったけど招かざる者が現れたんだけどさ。

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俺自身も難なく終わらせる事に安堵する。決闘台から降り、タンカで運ばれるカリスを余所目に受付の騎兵から、受験番号票を渡される。それをベルトの小物入れに入れて置おいて、ネイアらが駆け寄る。


「あのカリス元中等学徒長を完封するなんて!!」

「凄いですね・・・カリス・オーディーン先輩を・・あっさりと・・」

「しかし、かなり余裕をもって攻めましたが・・・」


「相手の技が大ぶりでね、そのお陰でつけ入る隙には事欠かさなかったよ。」


ネイア・ミスティ・ヴィラが対戦相手のカリス・オーディーンがどれほどの有名人か教えてくれた。聞けば幼年から神童と言われた天才で常にトップを走り続けていた学徒だと言う。常にトップ、常にリーダーをしていた、それによって培ったカリスマを持っている男だと言う。


釈迦に説法と思いながら、カリス・オーディーンの弱点を指摘した。両手剣の技だが一つ一つがデカすぎるリスクを考慮していない戦闘スタイル。当たればデカいが・・対人戦闘では全く無意味な部分を苦言として提示した。それを聞いたクシュリナは、やれやれ・・・と言う表情をし口を開いた。


「アイツは見栄っ張りな部分があるかなぁ・・・」


そして指した先は、カリスを抱えた担架に囲っているファン。彼女らは俺に凄い目で睨むファンの集まりだった。モノすんごいって言う顔でそれは殺気そのものだ。


やりすぎたか・・・・。俺は後悔したが彼が彼女たちを制止していた・・・。


-30-


『決闘堂』では観客席では一般客、受験者、野次馬も帰り支度をしていた。皆足早に帰ろうと既に閑散とし始めた。外はごった返しのは容易に想像できた。

ネイア姫は母ネージュの元へ、クリシュナは人の誘導へ、ヴィラは一礼をしてミスティアと共に帰路に向かう。俺もシェラハの用意した馬車がある事を話し、


「これにて、前衛ならびに騎兵学科の実技を終了とする!!渡された受験票を各々大事に持って行く様に。なお合否格発表は17日とする!発表場所は本校の『統合コロッセオ』にて発表する!!」


そんなアナウンスを耳に、今度会う時は合否発表とだなと話していた時だった。


突飛も無くそれが響いた。

つんざくく様な悲鳴が響いた。ハッと一同振り返る、そこには目を疑う光景があった。

色こそ違えど、厚そうな外皮に、四肢の腹ばい、曲線の整合度合いはどう見ても蛙。それが約2mの躯体が10~12体ほど現れ。辺り一面に尺取虫の様に飛び回った。


「鰐蛙!?」


突飛に俺は叫んで駆け出す、それに続いてヴィラ、ネイアが走り出す。そして誰よりも早く動いたのはクシュリナだった。


「キミ知ってる?」

「以前戦った事がある、色が違うが・・・・アレの外皮は厚く、表皮の粘液もあって斬撃や魔法が半減させる性質がある!!」

「はぁ・・?!」

「内側から突き立てれば何とかなる!!」


俺らみたいに応戦する者、驚いて腰を抜かす者、悲鳴を上げてパニックを起こす者、三者三様の反応をする。

ヴィラが狼の様に吠え。クシュリナを超えて真っ先に鰐蛙の一個体に切り刻む、ヴィラの駆け抜けた道筋はタカールの剣閃が竜巻状の残滓が巻き起こっていた。ドバっと体液交じりの血飛沫。

獣人は魔法は使えない、しかし魔法そのものが使えない訳ではない、戦技と言う形で放出させる攻撃は魔法と酷似しており、彼女らはそれを重宝する。


「なんですって・・・ぐ・・・!!!」


表皮の皮膚しか効果が無く、顰めて睨むヴィラ。後詰めのクリシュナが背面に携えたガードナックル付きの剣を抜く、直刀片刃のレアな一刀を引き抜いて一気にヴィラからの手負いの一体を真っ向勝負で突き立てる。


ズブシュ!!・・・・ヴォッ・・ゴォォォ!!!


突き立てた剣から一気に炎が燃え上がる。魔剣越しの魔法攻撃。鰐蛙の一個体が一気に炎が包まれる、ぐらぐら揺れ動いて痙攣を起こした末にぐったり微動だにしない。クリシュナは毒突きながら剣を構えなおす。

「こりゃ手間だ・・・ん?」


「ミスティア!!そっちのタイミングに合わせる!!例の電撃魔法を繰り出せ!!」

「え・・でも!!巻き込まれる可能性が・・・」

狼狽するミスティアに、事前詠唱を促すも躊躇する。周りは一般客と応戦する学徒や騎士が入り乱れてパニックだ。それを危惧している。

「魔力誘引性を利用する!!俺の氷結刃で!!」


その一言でミスティアは、躊躇なく詠唱を開始する。直ぐに俺の狙いが理解しボウッと電撃の詠唱を開始した。


「大気に眠りし魔力のつぶてよ・・・其のつぶてを並べ、大気を切り切り裂く、輝きを繋げよ!!」


俺は、両手で氷結刃をナイフ投げの如く次々と打ち込む、約7体近い鰐蛙に突き立てる。すぐさま、ミスティアの魔力のピークを感知し一気に起爆させた。

「よっし!!!氷結刃!!」


俺の氷結刃が一気に鰐蛙を白く染め上げる。驚愕する一般と学徒らに「伏せろ!!」と俺は叫ぶ。学徒が一般人をかばう格好で伏せる。


「雷っ撃っ・・・雷っ衝ぉおおおおおおおっ!!」


ギュロロロロォォォオ・・・・ヴァッヴァッヴァッヴァッヴァッ!!!


電磁音と空気の焼ける衝撃が入り混じる、『決闘堂』の空気が一気に焦げ臭いにおいで充満。無数に飛び回っていた鰐蛙が一気に湯気を上げて沈黙する。


ミスティアの十八番の魔法が炸裂し、顔を見上げた面々。


「今のは一体・・・・」

「魔力誘引を利用した連動戦術か!?ほんとにアイツは新人か!?」

「魔力・・・誘引?」

「魔力で形成したモノは別の魔力で生成したモノにも引き寄せられる性質を持っている。魔法を学ぶ者にとっては副次的だが、連携を取るには必須な知識さ。」


ヴィラは驚き、クシュリナが講釈する。女教官はその知識より、それを実践で行う度胸に驚いた。


ゴゴオン!!


ミスティアを始めとした面子は爆発を起こった、それは一段と装飾と絢爛な一角が爆風に染まっており。恐怖の悲鳴とは違う声が起った、そこはネージュ様の居た貴賓席だったからだ。ヴィラが声を荒げた。


「ネイア!?あの子まさか!!」


どうやら彼女は一目散に母、ネージュの元へ向かった様子だ。現場の大半は既に閑散とし勢力も一転していた。


俺はネイアの居る貴賓席まで駆けだした。


-30-


——貴賓席には母が立っていた、既に数人の兵士がもんどり打って倒れる中で。母愛用の身の丈程の大きいマジックロッドを構えていた。無数のカエルを従えたそれは最初は目を疑った。

——軽く大の大人より一回り大きい眼鏡をかけたカエルが、法衣を纏っていた。指と指の間には蛙特有の膜が張っておりそこには魔法力の輝きが帯びていた。

——私は気合の声と共に片腕に佩刀を振るった。思いの外、体の割に腕の外皮は薄く呆気なく腕が落ちたのだ。そのまま燃え移ったまま焼失する。


「ム!?」


「ネイア?!」


——ゆっくり構えなおす私を見て驚いた母、蛙人間はさも珍しそうに私を凝視する。フムフムと言う感じで斬れた腕と私の剣を見回す。その声はまるで聡明な老人を思わせた。


「いや!!まさか!!これほどの魔剣とその使い手が・・いやはや立派な娘さんが居て鼻が高いでしょう!!」


——蛙人間は声高に叫ぶ、母がマジックロッドを声の主を構えて睨む。私も構えなおして距離を埋める。だが母の発した言葉に動揺する。


斯様かような振る舞い・・貴様ゲルニカの手の者だな?」

「如何にも、いやはやこのレイグローリ同盟学園も10年を迎えます。少々マンネリと化した、この試験にちょっかいを出すと言う趣旨で参加をさせて頂きましたよ。ヌフュフュフュ・・・遅くなりました私は魔皇都市ゲルニカ、魔導局局長グロロックと申します。以後お見知りおきを・・・」


——刹那に返答する、蛙の魔導師グロロックと名乗った紳士。モノクルをかけ、ぎょろっとした目に割けた口にドジョウの様な髭をシンメトリーに揃え、おしゃれに整えた小洒落た法衣を着こなした。蛙の教授と言う印象・・・。切断した腕が再生し私は静かに驚いた。

——しかし、そんな驚きも一瞬で途切れ。気づけば三方に膝程の高さの蛙が口を開けそこに魔力の力場が形成する、周辺の兵士が一気に床に突っ伏した。私や母は膝を折り堪える。


「ヌフュフュフュ・・・私の使役する魔獣はちょっと特殊でして、私の眷属として遠隔で魔法を展開出来まして・・・どうです?捕縛の魔法です、動けないでしょう?」

「ぐぅうう!!・・・これは放出と圧縮で一定区間で・・・??!」

「ヌフュフュフュ・・・如何にも・・ほおぉ!!賢いお嬢さんだ!!魔法の知識も豊富!!いや!見事!!・・・では警戒し・・・コレは如何かな?!」


——私が魔法放出と圧縮の複合と看破し。私を危険と判断した魔族は更に魔力指向を変更した、一気に私と母に圧しかかったその勢いと反動が周辺に放出時轟音が響く。悲鳴すら上げられない母は突っ伏すも、幸い私は『叡智の魔導師エルシャ・エルフィーア』の修行の賜物で練り上がった魔力を放出し母の盾となっていた。母がそれに驚くも、一歩も動けず状況が好転しない。軽率だった・・。そう思った・・。


「素晴らしい!何、丁重におもてなしを致しますよ・・・豪勢な手土産を入れられそうですね・・・ヌフュフュフュフュ・・・」

「申し訳ない・・・ですが・・・折角のおもてなしも・・・む・・だ・・になると思いまして・・・」

「ネイア?何を?」


——奴は目を見開いた。恐ろしい魔力の密度が貴賓席に向かって飛んでくる。それは覚えがあった。一瞬力のゆるみを感じ、私は咄嗟に母を抱いて貴賓席出入り口まで飛ぶ。その軌道はカエルの魔導師に向かっている。


それは一度見た轟音と爆音を発した、螺旋の閃光と影。その影は知っている。


——ああ・・・!!レージ様!!


「すまない!!ネイア姫!!ちょっとぶっ壊した・・・けど・・ネージュ様はご無事だな・・・アイツが親玉か?!!」

「はい!!・・・私も迎え撃ちます!!」


——母は茫然とレージ様を見る、彼は眼帯を外し私に投げ。私はそれを受け止めた。心底申し訳なさそうな眼で私に訴えた。


「それを預ける、俺が訳あって家族代表でネージュ様の恩を返しに来たんだ、ネイア姫!悪いが俺たち家族の恩返しの手伝いをしてほしい。頼む・・」


——私は二呼吸して、「はい!!」と答えた。手に眼帯を握って。

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