#9 とりあえず自分も試験を受けるんだけど
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「今度はなんだ!?誰か説明を!!」
——レイグローリー同盟学園、中央出入り口。受験で失格と言われた夢破れし者どもが歩いていく。彼らを整理する中、流れに逆らう一行が現れた。軍閥騎兵隊の中でも憲兵に相当する部隊の連中。物々しい厳つい大型の馬車を引っ張って現れた。
——憲兵を指揮する指揮官が軍馬を止め、私の質問に答えた。それは多国籍騎兵憲兵科に属する騎士、担当騎士のイェーガー殿だ。
「マリス・ガルガン殿・・・決闘堂の試験にて不正を働いた輩がおりまして。一連の関係者を拘束しに・・・。」
「ナニ!?・・・まさか・・・ネイア姫?!」
「ん?どういうことです?心当たりが?」
「むぅ・・実は・・・」
——私はイェーガー殿にネイア姫の決闘の件を話した。彼がそれを聞くとフムと首を傾げながら口を開く。聞けばヴェルソー・ナイアドは決闘を申し込んでおきながら、姫に不正な魔法具で働きかけ。再度仕切り直しを行った試合では、その試合では剣を棄て敵前逃亡を図ったと言う。それをクリシュナ教官が差し止めた・・・と。
——なんと・・・そんな事をすればナイアド家の名は地に埋まった様なものだ。あからさまな野次馬が出来上がっていた。周りの騎兵達が道を開ける為に、抑えに回る。
「ヴェルソー殿?!どうなされたそのお姿は?!」
——無神経な叫び声、間違いなくシャリーゼ・シャルルーラの声だ。ヴィルソー・ナイアド、その父ヴェグター・ナイアド。更に主審と副審の4名がごぞって並んで手錠姿をさらしていた。特にヴェルソーはボロボロの鎧に鼻の根元に特大のガーゼ、頬には特大の青痣。アレはクリシュナの拳だと分かった。
「ヴェルソー殿はネイア姫に決闘を申し込まれたはず?!こんなに早くそのようなお姿?一体どういうことですか?!」
——デカいデカい声がデカい、少しは考えろこの馬鹿・・・。その言葉にイェーガーが疑問に思った様子で口を開いた。
「シャリーゼ・シャルルーゼ殿それはどういう意味です?ヴェルソー殿が決闘を申し込んだんじゃ無いのですか?」
「これはイェーガー殿っ!!実は前よりネイア様からヴェルソー殿へ決闘の意思を示す手袋を叩き付けを行っております!!マリス・ガルガン殿もその場にいたので、確認が取れますぞ!」
——イェーガー殿が此方に目を配る。私はゆっくり頷いた。そしてイェーガーは頬を歪めた。憲兵である彼に知れた以上。ナイアド家の未来はない、目で懇願する面々に対し、私は首を横に振った。そして私の人生の心のつっかえの一つがやっと取れた。
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騒然とした一件は過ぎ、熱気が思いっきり冷え切った中での試験再開は。気分的には重い中で始まった。だが、回を重ねれば熱が沸く。ヴィラの相手は推薦候補の騎兵科受験者だった。中の下の相手で、基礎的な魔脈と身体の差で圧倒するその差は歴然だった。3分の勝負を1分で片付けるヴィラの試合は、ヴィラの格好も相俟って大いに沸いた。
「レージ様の出番はまだなんですね・・・」
「結構後の方だと思うんだよね・・・」
俺は歯切れ悪く、ネイア姫にそう答える。随分と進んで60試合ほど進んだ中での会話だ。既に名のある面々が対峙し好カード対戦が、先ほどの冷え込みはどこへやら。すっかり沸く様になった。俺の出番はトリだった。ネイアが思わずえぇ!!と声が上がった。どうやら俺が上位トップでクリアーした事を今知った様だった。
「レージ・スレイヤー!!前へ!!」
決闘台にはスポットライトが充てられており。ちょっと気恥ずかしさを覚えていた、しかし、その相手の名前でドッと沸いた。特に黄色い声援が凄い、オッサンの声は一気にかき消されるほどだ。
「カリス・オーディーン!!前へ!!」
目の前の男はマジで美形、マジてサラサラ長髪でうっすらとした流し目にすらっとした鼻筋、男性のフェロモンを骨格で表す差別個体の一種だ。マジでカリスマの塊と言える男だった。RPGでは主役を食ってしまいそうなアレと同格な風格を漂わす。フフッと俺の顔を見て嘲笑する。
「キミみたいな田舎者が、ボクの前に出て来るなんてボクは・・・自身の運命に正直がっかりだ・・・まぁでも君の汎用な努力が奇跡を起こして僕の前に現れるって事は、ボクに定められた運命の一つであって障害となる為の運命・・・悪く思わないでくれたまえ・・・」
ウーンこの・・・俺は「ハァどうも・・」と愛想の良い挨拶をする。
「ハジメィ!!」
主審の声が響いた。
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カリスは細太刀の片刃を構える、剣の拵えは完全に日本刀。彼は酷く長い刀身を難なく抜く。
長身で俺より背が高く、軽鎧は肩や籠手と最小限度にとどめており。黒革のインナーの裾は膝下までビラっとしている。一回一回の動作がもう何か、演技めいておりそれをするたびに黄色い声が凄いのなんの・・・。取り合えず引き攣てしまう。
「君も僕と対峙するのはつらかろう・・・即終わらせてあげよう!!」
彼は一太刀振る舞った、剣の輝きは魔剣適正のそれとは別格の代物だ。僅かな魔力の刃が帯びたそれを見極めて後方に回避した。早いと言うより厄介と言う類だ、それを見た黄色い声援らが一気に俺への野次へと変わる。
「ん?田舎者がぼくの剣を回避する・・・?」
「・・・まぁまぁ・・・3分もあるんだ・・・急かしてほしくないなぁ・・・。」
「そうだね・・・田舎にはこういう技もないだろう?後学の為に見せてあげよう・・・フン!!」
カリスがクルリと身をひるがえす、一々演技めいた動きをして今度は剣の切っ先から白いオーラを飛ばした。魔法と剣技を合わせた戦技の一つ、『戦刃』と言われる技だ。その刃が俺に向かって来る、観客席はワッと沸いた。見るも初めての者が多くどよめく。俺はふむ・・と見極めて剣の柄に手をかける。
「バカだな?田舎ナマクラの剣でボクの刃が・・・なに!?」
造作もなくヒュッと抜く。両手剣の厚みのある刀身、それを片手で振り抜きざまに奴の『闘刃』を真っ二つにし。
ドッゴーーーーーン!!!
二つに分かれた刃は後ろの野次馬学徒に直撃し土煙がボウッと上がった。悲鳴と驚きで騒然となる。
「あぁ~~~~~~~~~!!!!おいおい!!いくら何でもこっりゃマズくね?」
「あああ・・・??ボクの闘刃を・・・切り捨てた?」
「受験者共は気にせず続行せよ!!」
「はぁっ?!主審さん???・・アッ・ハイ・・」
悲鳴が上がって騒然となる中、主審御厳しい声が飛び睨まれて委縮。
ちょっと大技は控えた方が良いな・・・。と俺は頭によぎった。奴の技も相殺した方が良い、絶対でなきゃ後衛学科の二の舞だ・・・。
「そんじゃ、しっかりアピール・・・頑張りますか・・・」
「ボクの技は完ぺきだ・・完璧なんだ・・・・あんな田吾作上がりの騎士の真似をしている奴がががががが・・・・ふう・・おちつけ・・まぐれだ・・そう・・まぐれだ・・」
奴はブツクサ言っているが長太刀の両手持ちっていうのは間合いが離れているから意味がある。奴さんの腕の長さも合間って、その間合いと死角は酷く大きい。
魔脈が未熟の所為か、大ぶりの戦刃は連射・乱射が出来ない様子。今度の『闘刃』は『氷結刃』で完封する。
「にゃにぃい???・・・ふっ・・やる・・」
カリスが一瞬に顔が歪んだ、俺は下から上への切り上げ、奴は衝撃を受け流す。剣をワザと手放し打ち上げた刀を跳躍し直上で掴む。
そのまま、グルグル体操選手の如く落下し一気に俺目掛けての一太刀。
がぎぃいんん!!!!
奴も魔法放出を混ぜた一手の勢いに衝撃波が一面に広がる。もちろんその勢いは俺のモノだが、奴もなかなか。反動を利用し後方着地し剣技のお時間は終わりだ。
今度は魔法のお披露目、俺は掌を突き出す。
「ほい!ほい!ほい!」
と掌に光球を三連発を撃ちだす、それが辺り一面に漂い、熱がぼんやりと帯びている。
「なにぃい!???炎だと???氷だけでなく?!」
カリスは驚愕する、魔法の属性の偏りは一種の癖。俺が氷と炎と言う真逆特性を俺がポンポン出してきた事に驚いた。俺は放った光球を低速で配置し障害とし。奴は俺に気を向いているのを利用し、死角となった赤い光球がゆらりと近づく。
「灼炎爆!!」
ぼぉおん!!!とカリスの後ろが爆発。ぐぉ!!と悶絶する奴を狙って、俺は突貫。しかしカリスも咄嗟にカウンター狙いの戦技を放った。
流石に手練れ、でもソレが誘われている事を本人は自覚していない。隙をついての二発目の『灼炎爆』を起爆、奴はぶへぇと姿勢を崩す。
「ぐぬぬ!!・・・この!!!猪口才な!!あんの田吾作っ!!」
奴は見栄を張る様な技だけを極めており、小手先の技は一切学ばなかったようだ。
それでも、前の試験で2位を取るだけの男。厄介な光球を『闘刃』で切り捨て様と目論んだ様子、そうは問屋を下ろさん。なんせ振りのデカい技だ、バレバレである。
「ほい!氷結刃!!ほら?ソレ、外野に被害はマズいでしょ?」
「ニャニ~~~~~~!!!!」
「可哀そうだからここらで、ここいらで灼炎爆!!」
「ぎゃぁあああああああ!!!!」
カリスは己の『闘刃』が氷結その直後の爆風で、跳ね返った氷の破片と爆風で見事吹っ飛び、場外へ転落した。
整然とした空気の中で地に突っ伏したカリス。悲鳴が上がる中、主審は俺の名前を高らかに上げた。
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