試験編

異世界でも上京したけど無双するにはまだまだ程遠い

序章 人助けをする事に迷っていたら未熟って訳じゃないからね


-1-


新霊峰フェーザーがはるか遠くに背にした。


この新霊峰大陸と言われる所以、実のところこの大陸の人々は新霊峰を中心に旅をする。どこに行こうともそれを目印にする、夜も、昼も、雨も、雪の日ですらフェーザーは見届ける。


今日は鈍色の空、太陽傾きかけている。今季、最後の冬空だった。


まるっと一年弱、来週俺は15になる。そして目的地へも少々早くたどり着いた事に安堵する。自分はせっかちなのか、前世の人種の気質なのか。


「あれが、レイグローリー・・・やっぁと着いた・・・」


小高い岩肌切り出す、大小様々の山峡のその一角。相棒の角戦馬のフォル、随分この一年で一回り立派になってしまった。

目に飛び込んだのは自然の城壁、囲う様に広がる荒原の中央に位置する建造物。


学徒都市レイグローリーが姿を見せていた。しかし、寒空に花火が飛ぶ。救難信号の為に使われる合図だ。


咄嗟に谷底の麓に目配せする。

ある商家の一団が土煙を巻き上げて走っていた。10台程の馬車が猛スピードで走らせている。商人がなりふり構わず走っている。


「フォル・・・一仕事だ!!」


そう言って俺は、抜刀し手綱をグッと握る。


-2-


「急げ!!荷物は捨てろ!!」

「くそ!!死にたくない!!死にたくない・・・だれか・・・だれか・・・!!!あぁ・・・」


後ろを振り向けば、黒い影の一団が土煙が巻き上げてジワジワ追って来る。

スピードは連中のほうが遥かに上だ。難無く追いつこうとする、商家の馬は既にへばっており。先頭の魔獣が、商団の最後尾の荷馬車からの土煙をかきわけて迫った。


「なんだあれは!!崖の上だ!!化け物!?」


俺に指をさしてきた、どうやらこっちに気が付いた様子だ。


「はぁあああ!!!!そのまま突っ切れ!!殿しんがりは任せろ!!」


フォルが断崖を駆け降り、一回、二回、三回と難なく跳躍し・・・。殿に追い上げる黒い影へ突っ込んだ。


魔獣、弩豪牛という黒肌の牛の魔獣だ。

連中が群れるのはせいぜい2~3頭。だが今回の連中は10頭はいる、あからさまな巨大な黒い牛。全長ざっと3mは下らない首周りは大男の胴回りほどだ、奴は群れの扇動の為に先行しており。距離6m程先走っている、そこを絶妙なタイミングで奴の前を横切る。



愛馬着地に人馬一体の一閃、着地と同時に、灰色の空にぽぉんと黒い影と鮮血の赤のコントラスト。


弩豪牛のボスの首の切断面から血の噴水、明後日の方向へ走り続け枯れ木に突っ伏す。

着地点から咄嗟に愛馬の旋回し勢いを殺さず、減速する群の後方から。憤怒の雄叫びに合わせてフォルが踏ん張り首を下げて、二太刀目を振り抜く。


ブッシャァアアア!!!


ホースから水でも噴き出すような爽快な音、深紅の噴水が雪の名残を訴える鈍色の空をまた赤で染め。鼻孔に生臭い匂いがさす。


黒い牛の頭3頭。ぐらりと揺れて地に突っ伏した、更に白亜のフォルが地を蹴り旋回。俺は、視野に目に飛び込んだ。

それは都市部から一個小隊の面々が土煙を上げてこっちに向かう、巡回騎兵は知らせた様だ。商家の一団と合流する。


「よし・・・一気に行くぞ!!フォル!!ハァ!!」


俺の呼吸に首をまた低くした赤の斑模様の白亜の相棒は。荒い砂地に脆い土を踏み砕いて物怖じせず突貫。すぐさま踵を返す一閃、左2頭、右1頭の首がまた飛ぶ。

再び死角に飛び込む勢いで切り返しの旋回の勢いを乗せて、横一線。また2頭の首がパックリ開く。


「・・・すまない・・一太刀で終わらせる・・・」


最後の1頭は目に見えて戦意喪失だった、白亜の角戦馬は介錯を促す様に駆けた。俺は非情に、切先を突き立てた。骨まで突き抜けた最後の一撃を引っこ抜くと、弩豪牛は事切れてその場に重い音を上げて倒れる。

ドバドバと赤い血を一面広がった。


辺り一面は黒と赤と灰の三色に染まっていた。水墨画に朱墨を塗り付けた様な光景だった。


白金色の年季のある軽鎧をまとった、精悍なシブイ男性が近づく。初見のフォルの図体におののいた様子だが年の功か、すぐに気にもしなくなった。


「お見事なお手並み・・・私はレイグローリー警邏けいら騎兵大隊長。マルス・ガルガンともうします。もしよければ・・・貴殿の名は?」

「レージ・・レージ・スレイヤーです・・先ほどの商家の方々は?」

「全員無事です、ですが。相当無理をし半数ほどの者が打撲や打ち身をしました。我々の技量では心もとないですが・・・後詰めの救護の者が此方に向かっております。」


俺は刀身の血を軽く払いながら、目配せし遠巻きに救助の一部隊が色々揉めている様子だった。それが耳に入ると、マルスさんと目が合ってしまった。

彼はバツを悪くし、部下の不手際に顔をしかめ諫める。俺は、自然と納刀し現場に向かいながら協力を申し出た。


「私も救護を手伝います、心もとないですが医学の心得は得ております、あと・・・自身で拵えたモノですが・・・赤葉も持っております。」


そう言いながら現場に。

この1年でフォルは軽く4m近くにまで成長していた。角もすっかり大の地人の腕並みに野太い。処置に当たった騎兵達も最初は皆ビックリし思わず手を止めてしまう。俺にはその反応が見慣れた光景で意に介さず下馬。


ざっとみて苦悶と苦痛の渦中、呻き声が一帯を染めていた。・・・酷いな・・・。

逗留の間に拵えた赤葉の鎮痛剤に効く薬草を、すべて手透きの騎兵にすべて渡した。騎兵は驚いていたが治療にすぐに取り掛かる。

ざっと見てケガ人は30人ほどいた。横一列に並んでおり、簡単に診察しその中から、症状の酷い者から優先し鎮静、治癒の魔法と応急処置を行った。


後々やって来た救護部隊が到着した時は、約半分は終わらせた。処置を施しても動かせない者は商家の男も手伝いに出張って指示し。開けた荷車に、怪我人を乗せ運んでいく。


怪我人の応急処置がすべて終わったのはすっかり空が宵に染まり始めた頃だ。


-3-


俺は騎兵隊の彼らと共にレイグローリー幕壁へ歩を進める。関所へ向かう際、分かりやすく紋章を見せる。マルスは直ぐに理解した。有名な指折りの富豪らしく、直ぐに部下の伝令兵に店の者に伝える様に命令した。


何人かの番兵、時同じくして訪れた来訪者たちが騒いだ。それは返り血で全身赤斑模様姿の俺とフォルの所為だった。すぐさまマルスさんが声を上げた。


「皆の者っ!騒ぐでないっ!!私は騎兵局の者だっ!!この者は先に魔獣の群を打ち払った旅の者だ!!危険はないっ!!私が保証するっ!!安心せいっ!!」


「有難うございます、マルス殿このような手間まで・・・。」


思わず頭を下げた、何もなく此処へやって来るとしても騒動になるだろう・・・とマルスは笑った。やはりそれはフォルが原因だろう。彼は意に介さず応える。


「貴殿は編入受験者であろう・・・なぁに、この場限りながら先程の礼に比べたら些事な事よ・・・それでも、力添え出来て何よりだ。」


関所の向こうでは、懐かしい顔が目に飛び込んだ。オマリーさんだ。相変わらずの恰幅の良い姿で元気そうであった。フォルもブルンと鳴いてオマリーに向け嘶く。


「オマリーさん?!なんで?どうして・・・」

「ふ~ん、実はルイーンの小間使いとしてやってきましてね。聞きましたよぉ?派手にひと暴れをした様でフォルも坊ちゃんもご立派になられましたなぁ・・・立ち回りはラグナ殿に似てきましたかな・・・?」

「すまない。せっかくの再会なんだが・・・こんな返り血姿で・・・出来れば先にフォルを奇麗にしてやりたい。しばらく待っててほしい。」


俺の無事な姿に涙するオリマーに見届ける中で、マルス・ガルガン立ち合いの元で関所の手続きを滞りなく終わらせる。彼とはそこで別れの言葉を交わす。


オリマーとの再会、荒々しい不毛な荒野のど真ん中にある幕壁の向こうの世界は、別世界の様に不思議と活気のある光景だった。


異世界の大規模な都市と言う光景に、俺は思わず声を上げて感動してしまった。前世の記憶にあった都会の明かりとはまた違った暖色の世界が広がる。


魔獣の返り血姿の俺と相棒は酷く悪い意味で目立った、歳近い都市内巡回兵に職質を3回。その度に足止め、解放された際は軽く半刻ほどは過ぎ。


解れた所を、縫い合わせて着続けていた。汗と脂にまみれ、独特の癖の強い匂いが抜け切れていない。すれ違う際に顔をしかめるものも何人かいた。


「見事にボロボロになりましたなぁ・・・嬉しい事です。」

「流石に何度も手直しをしたんだが・・・面目ない」


そうこうしていると。歓楽街から一際厳重な関所を渡ると一転して、閑静な住宅街へと様変わりした。扇状の区画で段々畑の様に広がって、高い塀で一つ一つ囲った重苦しい所だ。


「ここは・・・?」

「ここは豪商達が贅を凝らした屋敷を連ねる区画です・・・絢爛豪華な豪邸と庭園。持ち主はこの大陸中から集まった豪商達の家です。もうすぐです」


冬の空は見えなくなり、星も見えない寒空の中。段々畑の様な緩い坂を上る。

最上段の一際立派なお屋敷に指をさすた。遠くから見て異世界の豪邸とは思えない、いぶし銀の様なシックな贅で拵えた見た目。ラグジュアリーな海外のヴィラを彷彿とさせる物件を指さした。


「最上段のアレです。」


俺は絶句した。

他の豪邸たちの群れを従えるリーダーともいえる風格を醸していた。


まさしく・・「デデーーーン」な効果音がピッタシだ。

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