#1 異世界でも文化があってそれに触れると安心するよね


-3-


他の屋敷とは桁はずれだ、風体が現代世界に通じる外見で別の意味でも驚き。敷地は他の8倍、塀は白く、門の中央には例の紋章のレリーフ。門番の手で重厚な鉄の門戸を左右に開ける。音を軋ませながら真っ二つに分かれた。道の先に豪邸の玄関に続いていた、道端には芝生と庭園が広がり、発光燐石を仕掛けた灯篭により明かりを演出している。


吹き抜け天上の玄関先ではルイーンが、満面の笑みと歓喜の声で出迎えた。


「レージ殿!!長旅お疲れ様です!!いやぁ聞き及びましたぞ!先ほど取引先の方々を助けて頂いて・・・私から主人に変わって礼を申し上げます・・。本当はお疲れの所・・街中を歩いたそうで・・・・急いで馬車を用意すべきでした・・・失念してしまい申し訳ない!!」

「あ・・いや・・・そんな気にしなくても構いません・・・それに、しばらくお世話になりますし・・・そうだ!!フォル!!」


「主様、旅のお供様のお世話は私めにお任せ下され・・・。誠に見事な・・・逞しい角戦馬じゃのう、よーしよし。お前の為の小屋もある・・・」


フォルは馬番の人の良さげな爺さんに宥められる。最初睨んだがしばらくの後、一瞥の後、膝をつく。小柄な爺さんに無理をしない様なそぶりを見せた。


「フォルをよろしくお願いします。お疲れ、ゆっくり体を休めろよ・・・馬場長殿、お願いします。」

「しかと・・・私めに・・・お任せください。」


俺は相棒の面倒を買って出てくれたことに感謝を述べると、馬番の老人と共にフォルは裏手の馬房へと向かう。


改めてオリマーと一緒に豪邸の玄関に足を踏み入れる。小汚い浮浪者風体の俺が踏み込むにはあまりにも奇麗すぎる、まぶしい・・・まぶしすぎる。

目に入る紳士淑女の使用人たちが一同並んで会釈をする。うぉおお・・・すげぇ・・・メイドだぁ・・・執事だ・・小間使いの方々だぁ・・・。セレブな世界・・・ゴージャース・・・それしか言えない・・なんと語彙力の無い俺・・・。


無意識に・・・・緊張する・・・。


俺はここに来てやっと異世界の文明と言うのを全身で感じ取った。豪邸内の内装は白乳色の石畳と発光燐石を組み合わせた、間接照明の採光効果を高めた構造だ。深い夜なのに異様に室内が明るいのは魔法反応の応用を屋敷中に施しているのが伺える。・・・玄関先の焚いた甘ったるい香炉の匂いでガクッと意識が暈していく。


ルイーンが察し気遣ってくれた。明日お話ししましょうと締めくくり、パンパンと手を叩くと現れたメイドと話す。


「・・・、お客様は酷くお疲れです。すぐに休ませてあげなさい。」

「はい」

後はメイドに案内させると聞いてうっつらと頷く、よく分からない。


ボンヤリとついていくと最初は広々とした湯殿に案内された。広々とした風呂場に湯船が広がっていた。どっぷり浸かった上に、如何にも高そうな石鹸で溜まった垢と泥、脂と言う脂を流した。どうやって湯浴みをしたかすっぽりと抜け落ちている。

湯上りの後に清潔なガウンに似た寝間着に着替えると。案内された自室では、湯上りの冷たい柑橘系の香り水と、軽い塩気の強いスープ、甘く味付けされたパンが用意されていた。それをペロリと完食すると一気に強烈な眠気が帯びる。

長旅の達成感と都市文化。セレブな世界へとの目まぐるしい変化が、緊張からの解放された際に疲れが一気に溢れかえった。


「・・・もう無理だ・・・申し訳ないけど・・お休みさせてもらいます・・・。」


俺は安堵から来る惰眠に打ち勝てず、メイドの女性に挨拶を交わす。何を言ったか覚えてはいない、上等なベットに滑り込むと上質な感触が微睡の沼の底へ引きずり込まれた。


「はい・・ごゆっくりおやすみなさいませ・・・レージ様。」


-4-


夢を見た。

それはこの一年の記憶が走馬灯の様に駆け抜けた。それは激動って言えばいい。本当に海外のファンタジー小説みたいな冒険だった。


新霊峰フェーザーを中心とした新霊峰大陸。出発地アラヤットは北西に位置している。

俺は短い春、そして夏になる事を見越してまず、北方へ向かう事にした。その為一度、西に進み北の湿地帯を迂回する形で北へ向う。


北方はガラムの故郷で一度見てみたかった。北西海の荒い時化しけの海原を渡った。寂れた港町から黒く深い森へ世界の果てと言われる断崖山脈と北方大森林は魔獣の巣窟を駆け抜けた。


そこ試される大地そのものだ。


そんな森の中で暮らす剛毅な石造りの塀は罅と凹みが印象深い、寒村や小さな町を渡り歩いた。こぞって連中は笑って、物好きな奴だと口にする。数えきれないほどの熊や巨大鹿の虎等の大型魔獣とやり合った、時として居合わせた地人達の背中を任せ。言葉を交わす事ない血生臭く粗々しい交流を重ねた。

小さな街道に出ると、新霊峰を迂回する形で北地東方から南下する形で下ってく。


夏の終わりから秋にかけては、南下して行く。北東地はほぼ鎖国で踏み入れられなかった、無意味な国境を越え。オマリーの渡された紋章を掲げる店に訪れる機会が多くなっていく。ゆく先々の村や町の話を見聞きする。レイグローリーの位置を度々、再確認しながら・・・そして時には問題、事件に直面し協力した。ほぼ大半は魔獣か蛮族か野党だ。


季節は秋の終わりになり、ある森でサークと同族の耳長の一行と出会った。

それは俺が野営の際にサーク直伝の仕掛けで彼らの罠を容易に見破った事で彼らは俺達に興味を持った。

サーク直伝の技術は自分達の手法と酷似していると話す。元々耳長の彼らは人間・・俺も信用しない。フォルはどうしてお前と共に?どこから来たか?何が目的か?どこに向かう?なぜそこへ向かう?・・・根掘り葉掘り聞かれた。

彼らは嘘が通じない事を知っている、正直に答えた。荒唐無稽な事でも素直に話した。

その甲斐あって彼らから信頼を勝ち取った、彼らは大蛇の魔獣を頭にした群れを討伐をしている。ただ、元より非力な彼らでは太刀打ちできない相手。俺は事情を知って助力を申し出た、この頃は魔獣っていうのを甘く見ていた・・・。


彼らと共に討伐した魔獣はキツかった・・人食い大蛇と鰐蛙の群れ。それは厄介な動きだった。四苦八苦の末に無事討伐を成功した、彼らは感謝され恩を返す為に隠れ里に歓迎され逗留する。

その時、彼らの栽培している植物に赤の薬草となる手法を教えた。それはアーシュ直伝の薬学術を基づいた手頃な精製方法をやって見せた。

彼らは大層驚き、俺はその手法を彼らに伝え、逆に彼らからは深い自然の知識を授けてもらった。

騎士になる為に西から北に上り、南下して南東にあるレイグローリーを目指していると話すと彼らは首を傾げ。急ぐ様に言われた、どうやら長く居すぎた。


彼らは、俺を引き留めた事を気に病んでおり。近道を案内してくれた。道を知っても行けない秘密の道と話し。馬や軍馬だけも行けない道、人馬の絆がその道を行く事ができると話した。

そこは『死の道』と言われる断崖絶壁を壁蹴りを繰り返し下山するやり方だった。フォルが意外とこういうのが好きらしい、命がけのロデオはスリリングだ。

俺の無い心を知ってか知らずか、耳長が語ってくれた。


「北から回る者は膝をつく事は無い、南から回る者は挫折し腐る。それが霊峰の教えだ。その御心のまま、進むがよい。」


こうして彼らと別れ、ようやくレイグローリーへとたどり着く事が出来た。


-5-


裂ける様な光が瞼を突き立てられて、目を覚ます。


「うおおぉ・・・」


と、俺は驚いた。脳内はクリアーだった。

此処まで快眠と言う言葉を当て嵌った感覚は初めてだ。しかも見た夢を鮮明に思い起こす。改めて辿り着いた事に感慨深さを前世の慙愧の念が晴れた様な気がした。命がけのはじめてのおつかいヤッター!!バンザーイ!!


「お早うございます、レージ様。」

「あっ・・はい・・・お早うございます・・・ええっと・・・」

「シャラハと申します、レージ様専属の給仕として仰せつかりました。以後よろしくお願い致します。」


昨日は覚えてなくてごめんなさいと、心の中で謝罪する。


・・・・全く持ってメイドである、これはクール系メイドさん。その筋の人には自分から裸土下座の懇願し許しを請うまで、自分を豚と言ってもしくは言われて、靴を舐めてさしあげたいタイプだ。・・・凍るようなその視線、体幹ぶれぬその姿勢。胸は下品にならない美乳を誇張した童貞殺しのメイド服を身に纏っている。背は長身で俺と近い。ぱっと見は年齢はちょいお姉さんかな・・・。


手押しのワゴンには洗顔用の洗面器と新調した御召し物が見えた。不思議に思い思わず口に出した。


「そういえば、周りがあんな荒野なのにここは水が潤沢ですねぇ・・」

「はい。学徒都市レイグローリーの地下には巨大な水脈が存在し、その水を汲み上げ生活用水として身分関係なく分け隔てて潤沢に生かしております。その源流は一説では新霊峰フェーザーから、四方八方に網の目に広がって居ると言われおります。」


彼女は機械的で熱の無いイントネーションで答える。

俺はシェラハの用意した洗顔用の洗面器、タオル。シェラハが俺を脱がそうとしたので、手で止めた。彼女は一歩下がり、一礼する。こういうのは風俗のお姉さんにしかしてもらった事しかナイよ?

流石にソレはマズいでしょ。だって庶民だよ?俺息子全開だよ?見せちゃだめでしょ流石に・・・。


「朝食の準備も出来ております。こちらへどうぞ」


シェラハの先導で食堂へ案内される。

着衣は上品な類と言うより、簡素で機能的なデザインだった。ブイネック系シャツに、所々に切れ込みを入れて遊びを増やしている。


食堂にはオマリーとルイーンは既に食事を終わらし締めの嗜好品の黒茶を飲んでいた。挨拶を交わし俺の前には執事長自ら朝食が配膳される。


食事に手を伸ばす、野営、野宿を半数以上過ごした俺にとって久方ぶりの食事だった。


口に含めたスープは五臓六腑に染みわたって、思わず笑みを浮かべた。

やっと、此処まで来たんだと・・・。

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