サイボーグカブトムシ〔童話〕

楠本恵士

森の王さま・1話完結

 ある森に、とっても立派で大きなツノを持つ大きなカブトムシがいました。

 普通のカブトムシよりも体も大きく、力も強かったカブトムシは、いつも木の樹液がたくさん出てくる森の食堂でいばっていて。

 甘い樹液をひとりじめにしていました。


「どけどけ、ここはオレさまのナワバリだぞ! おまえたちは、オレの食事が終わってから吸え」

 チョウチョウもカナブンも、力が強く乱暴者のカブトムシにはかないません。

 しかたなくチョウチョウやカナブンは、カブトムシが吸い終わった甘くない樹液を我慢して吸っていました。


 そんな森の昆虫たちの様子を見て、カブトムシはますます「自分が一番森で強いんだ、王様なんだ」と思いこんでしまいました。

「この黒光りするツノは王様の王冠だ、エッヘン」

 立派なツノに森の虫たちは、おそれて、それを見たカプトムシはさらにふんぞり返って、自慢のツノで虫たちを威圧するようになりました。


 そんなある夜、カブトムシは森から離れた工場の明かりを見て。

「あんな光る場所は、オレさまの城にちがいない……どんな城か見てこよう」

 そう言って、夜の工場のに向かって飛んでいきました。

 工場の中では、ベルトコンベアーが動いていて、流れていく荷物が人間たちの手で分別されていました。

(この城では何をしているのだろう? あの流れている黒い川のようなモノはなんだ?)

 カブトムシは、もっとよく見ようとベルトコンベアに近づいた、その時でした。

「うあっ!?」

 近づきすぎたカブトムシは、ベルトコンベアにツノが巻きこまれて、カブトムシの体がグルグルと回転して、ツノがボキッと折れてしまいました。

「痛い、痛いよぅ」


 なんとか、ツノが折れただけで命だけは助かって、床でのたうち回っていたカブトムシは痛みにたえながら必死に飛んで工場から逃げだしました。

 ツノが折れてしまったカブトムシは、ある家のマドまで飛んでくると。フチにたおれました、もうこれ空を飛んで森へ帰るだけのチカラは残っていません。 

(もうダメだ……あぁ、こんなことになるのなら、森でいばらなければよかった)


 カブトムシが、そう思った時、人間の声が聞こえてきました。

「おや? こんなところにツノが折れたカブトムシがいるぞ」

 マドを開けたのは、白いヒゲを生やした古い時計屋のおじいさんでした。

 おじいさんは、ツノが折れたカブトムシをつまんで、虫カゴに入れるとカブトムシのエサをカゴの中に入れて言いました。

「かわいそうに……よしよし、虫ゼリーを食べて元気におなり」

 カブトムシは、おじいさんの優しさに涙を流しながら虫ゼリーを食べました。


 数日後、虫ゼリーを食べて元気になったカブトムシの折れたツノの代わりに、おじいさんは時計の部品を加工して作った銀色のツノをカブトムシの折れたツノのところに接着剤でつけてくれました。

 歯車がついた、変わったツノにカブトムシは、少しだけうれしくなりました。

 おじいさんが、カブトムシに言いました。

「元気になったら、森へお帰り。もう人間の町には近づくんじゃないよ」

 少しだけ重くなった新しいツノをつけてもらった、サイボーグカブトムシは空を飛んで森へと帰っていきました。


 森の昆虫たちは、金属の変わったツノをつけてもどってきたカブトムシを見て笑いました。

「うわぁ、変なツノのカブトムシ」

 変なツノと言われてしまったカブトムシは、すっかり自信をなくして、昼間はかくれていて夜になるとコッソリ出てきて、誰もいない森の食堂で一匹で樹液を吸うようになりました。


 月明かりの中、サイボーグのカブトムシは泣きながら食事をしました。

(あぁ、誰もいない森の食堂で食事をするコトが、こんなにさびしかったなんて……いばっていた自分が恥ずかしい)


 そんなある日、森におそろしい小鳥がやってきて、森の食堂で食事をしていた昆虫たちを襲いました。

「うまそうな虫どもだ、一匹残らず食ってやる」

 逃げ遅れた一匹の虫が、小鳥の鋭い爪に捕まってしまいました。

 逃げた他の虫たちは、葉っぱの後ろや木の穴に隠れて、今にも仲間を食べようとしている小鳥を見ても、小さな昆虫たちはおそろしさに震えるばかりで、どうするコトもできませんでした。


 小鳥に捕まった虫は、必死に仲間に助けを求めます。

「助けて、誰か助けて!」

「森の虫は、オレさまをおそれて誰も助けてなんてくれないさ。あきらめろ、おまえはオレさまのエサになるんだ」


 サイボーグカブトムシも、木の穴の中から仲間の昆虫にクチバシを近づけて食べようとしている小鳥を、おそろしさにふるえながら見ていました。

(オレだって虫を食べる小鳥はこわい。でも、ここで逃げたら森の王さまとして失格だ)

 サイボーグカブトムシは、勇気をふりしぼって穴から出てくると小鳥に向かって、サイボーグのツノを振り回して怒鳴りました。

「やめろ! オレが相手だ!」

「なんだ? おまえは? いいだろう先におまえを食ってやる」

 カブトムシと小鳥とのバトルがはじまりました。

 鋭いクチバシの小鳥に、金属のツノを振り上げて立ち向かうサイボーグカブトムシの戦いを見ていた森の昆虫たちの中から、やがてカブトムシを応援する声が聞こえてきました。

「がんばれ、サイボーグカブトムシ!」

「負けるな、サイボーグカブトムシ!」

 やがて、昆虫たちの声は森全体に響き、冷や汗を流す小鳥はだんだんとカブトムシの勢いに押されていきました。

 やがて、カブトムシは。

「えいやっ!!」

 と、小鳥を木から歯車のツノで地面に突き落としてしまいました。


 生まれて初めて虫に負けた小鳥は驚き、森から飛んで逃げながら。

「こんな強いヤツがいる森には、二度と近づきたくない……仲間の鳥にもあの森には近づくなと言おう」

 そう言い残して、遠くへ飛んでいってしまいました。

 森の昆虫たちは、小鳥を追い払ってくれたサイボーグカブトムシに、お礼をいいました。

「ありがとう、サイボーグカブトムシ」

「ボクたちの王さま」


 その後、金属のツノを持ったサイボーグカブトムシは決していばるコトはなく、森の昆虫たちもカブトムシのツノを笑うコトはありませんでした。

 カブトムシも、もう一匹でさびしく食事をする必要はなくなりました。

 なぜなら、カブトムシは黒光りするツノの王冠よりも、大切なモノを手にいれたからでした。

 サイボーグカブトムシは森の仲間たちといつまでも、楽しく仲良く森の食堂で食事をしました。


~おしまい~

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