真・エピローグ2 煉獄龍 ガハルナーム 決戦

 クライン達がこの選択を取ったのは、向こうの世界の生存者の為……と言うのは僅かながらにあったが実際はもっと、打算的な理由がある。

 まず、この機会を国防戦略の構築の為のデータにする為だ。

 この世界はもう地球ではない。

 故に地球の常識が通用するような敵もいない。

 “神”や”邪神”が平然と跋扈する世界だ。

 そんな中で人類はそれらと戦い生存しなければならない。


 アカリやアリシアのような特化戦力がいるので当面、安全とも言えるが彼らはあくまでライトロード共和国の戦力であり、新生ウクライナ軍ではない。

 同盟国とは言え、過度な期待をするのはナンセンスだ。

 それこそ、ウクライナ独自にアカリに追従する力が必要とされ、その為のデータや資源が必要だった。


 そして、今と言う状況なら現状友好国であるライトロード共和国の軍事支援を万全に受けられる。

 世界情勢が安定しつつあるとは言え、未だ混迷を続けており今後も安定した関係を続けられる保障もない。

 なら、この危機を「ピンチ」と捉えるのではなく「チャンス」と捉える事にした。

 ライトロード共和国の支援が受けられる時に想定敵と好戦する機会を得た。

 そのようにクライン達は考えた。




「アカリ殿。あなたの作戦をお聞かせ願いたい」


「覚悟は決めたようだな。良いだろう。とは言え、作戦とも呼べない初歩的な事ではあるがな」




 アカリはクライン達に作戦を授けた。




 ◇◇◇




 煉獄龍・ガハルナームは世界を喰らった。

 惑星を激らせていたマグマは冷たい岩石となり、母なる大地とか呼ばれた惑星は氷と死を司る惑星に変貌した。

 自らの行いの結果とは言え、高いエネルギーが無ければ、ガハルナームは生きてはいけない。

 惑星が死に……生命は死に絶えたこの星と心中するしかない。

 そのように考えた。


 しかし、そんな中でガハルナームの瞳孔が開く。

 何者かが時空のトンネルを開き、この世界に来た。

 そこから放たれるエネルギーにガハルナームは看過され、そこに向かって飛翔する。


 目的地に辿り着くとそこには小さな船のようなモノが見え、今にも時空のトンネルを通り、トンネルを閉ざそうとしていた。

 ガハルナームは懸命に馳走、閉めかけたトンネルを己の溜め込んだ火炎で以って無理矢理こじ開けた。


 自分で転移する事も出来るが、それは最終手段だった。

 それ相応にエネルギーを使うと知っており、ベビダのような敵が現れても良いように極力温存していたからだ。

 このトンネルはガハルナームにとって好機であり、もしトンネルが開くのが少しでも遅れていれば、リスク覚悟でこの世界の太陽を目指し、捕食するつもりだったからだ。


 トンネル内の時空湾曲の嵐の中を突き進む。

 どうやら、船が目指す先と己が目指す先は目的地が同じらしく船の跡を着ける事で割と簡単に移動出来た。

 そして……光が溢れ、世界に飛び出した。

 その瞬間、ガハルナームは驚嘆する。

 突如、自分の体に食い込み、大地に引きずり落とされたからだ。

 それと同時に無数の人間達が顔を出した。



 

 ◇◇◇




「砲撃を緩めるな!撃て!撃て!」




 新生ウクライナ軍はガハルナームに集中的な攻撃を行っていた。

 それもただの攻撃ではない。

 ガハルナームの四肢に着弾した光線が消えるとそこ部分が白く氷結し始める。



 

「ガァァァァァァァァァァァァ!!!」




 ガハルナームは苦しみ出す。

 ウクライナ軍が行っているのは”神火炎術”が得意とする”熱操作”を応用した”気化冷凍光線”だ。

 ガハルナームと言う存在そのものが超高エネルギーの塊を摂取して生きているような存在だ。

 つまり、かの存在はそのエネルギー無しでは生きてはいけない。

 それを水分が蒸発する気化熱に還元しつつ、冷却する事でエネルギーを奪う事でガハルナームの生命力をそぎ落とすと言うアカリの作戦とも言えない単純ゴリ推し作業と言う名の作戦だった。

 ゲーム的に言えば、ガハルナームは”氷結攻撃”に凄く弱いと言う事だ。


 気化し冷却された部分はガハルナームの熱ですぐに溶かされるが、軍が四方から気化冷凍光線を発射する事で再び、氷結する。

 氷結、融解、氷結、融解を繰り返す事でガハルナームの体温と熱量はどんどんと奪われていく。

 それを繰り返す内にガハルナームの動きは鈍くなる。

 苦しく、藻掻いてはいるが、軍が展開していた杭打機になり、体を固定され、身動きが取れず、逃げる事も出来ない。

 そのまま、気化冷凍光線を喰らい、遂には力尽きたように地面に倒れた。




「敵の倒れたぞ!我々の勝利だ!」




 ウクライナ軍は歓喜に沸いた。

 強大と思われた敵を人的な被害を殆ど出さず、完璧に近い形で勝利したからだ。

 誰もが勝利の余韻に酔い痴れる……だが、突如黒い影が動いた。




「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」




 耳を突き破り、体全体を揺さぶるような咆哮が響く。

 凄まじい生命の咆哮に兵士達の全身を揺さぶられ、脳が動く事を拒絶した。

 それで見えたのは杭打機から伸びたワイヤーを力技で無理やり引き千切り、兵士達に飛び掛かるガハルナームの姿だった。

 兵士達の歓喜は一気に戦慄に変わった。

 視界に走馬灯が奔り……死の世界に誘われる……事はなかった。

 何かがガハルナームの頭部側面を駆け抜けたかと思うと……ガハルナームは失速し転倒した。

 そして、その首はいつの間にか切断され、頭部が真横に転がった。




「戯けめ。油断するなと言っただろうが。この手の魔物は知性が高い。お前達を油断させる事も警戒しろと言っただろうが」




 そこには右手に大剣を携えたアカリの姿があった。

 その剣には血が付いていた。

 それがどう言う意味か分かり、皆を代表してか、現場にいた大佐が苦虫でも潰したような顔になって頭を下げる。




「面目ない……せっかくアドバイスして下さったのに……警戒心が足りていなかったようです」


「そうだな。警戒心が足りていない。そして、侮りもあった。人間の頭脳を過信したとも言える。それは驕りだぞ」


「はい……」




 アカリは厳しい顔であったが途端に笑った。




「だが、まぁ……及第点だな」


「えぇ?」


「初めてにしてはな。アレだけの強敵を前に誰も逃げず、しっかり統率が出来ていた。その点は胸を張っても良いと思うぞ」




 アカリはそう言いながら大剣を”空間収納”に格納し大佐に背中を見せて、転移でどこかに言ってしまった。




「……やれやれ、どうも最近、会う女達は頭のネジが飛んでいて、それでいて優しい事だな。全ての掌の上、か……」




 大佐も思わず、笑みを零した。




 ◇◇◇




 ガハルナームの素材は大変、優秀だった。

 その鱗から出来た素材は”氷結攻撃”以外の熱エネルギー、運動エネルギー、電気エネルギー等の各種エネルギーを吸収、より強靭な鱗となりそれらのエネルギー蓄積する事ができた。

 その鱗から出来た鎧は後世において、この世界に侵攻してきた神々の攻撃を悉く防いだ。


 更に牙は各種エネルギーを吸収する事で強度を増し、エネルギー場を形成する事で高い切れ味を誇り、その牙から造られた剣は神々の鎧や鱗を易々と切り裂き、使い手次第では大地をも抉ったとされる。

 後にガハルナームは国家安寧の象徴的な竜となり、その防具を持つ事は大変名誉な事とされた。

 この防具や武器は国家で厳重に管理されているが、唯一の例外として、”煉獄殺し”であるアルテシア・ロンフォードだけが個人としてこの装備を所有しており、彼女の2つ名は国家安寧を司るガハルナームから取り、”煉獄の守護者ガハルディナ”と呼ばれるようになった。




 ◇◇◇




「アカリ、ガハルナームの鱗は……」


「あぁ、ここにあるが……こんなモノをどうするつもりだ?」


「これを使って、ちょっと面白い事をしようと思ってね」


「面白い事?」


「この鱗……エネルギーを吸収する特性があるでしょう?それを応用すれば、邪神を1体くらい有効に使えるんじゃないかなって?」


「まぁ、どう使うかにもよると思うが……汝がわざわざ、手を下す程の邪神がまだ、この世界にいたのか?」


「いや、この世界にはいないんだけど……別の世界を覗いたら、割と近くの異世界にベビダの系図を引き邪神達の神界があったんだよ。ただ、その中の一部は抑止神になってたの」


「抑止神?」


「あなたは見た事がないの?」


「無いな……いや、名前だけは聴いた事はあるな。確か、偽神でありながらこちらの助けるとなる神々の事だったか?」


「そう、それ。一部だけだったけど、特に幸運の女神と呼ばれる女性はかなり良かったと思う。彼女が治める異世界ならそのまま放逐してもいいかなって思うくらいには……」


「では、何が問題なのだ?」


「問題は……その世界に本来いるはずのない女神がいるんだよ。アクアマリンと同系の水の女神みたいで……それがとんでもない女神で、自己中で、ビッチで、高慢で、酒飲みで、お金に貪欲で、怠惰で、何もせずに崇められたいだのほざく、女神の面汚しみたいなふざけた駄女神なんだよ」


「それは……問題だな」


「しかも、それだけじゃ飽き足らず、その女神が治めている宗派がとんでもないカルト集団で……その世界ではマイナーだから、まだ良いとしても、その幸運の女神の宗派を邪教認定して、ある事ない事を風潮して風評被害を出しているんだよ。しかも、その状態を放逐したままで寧ろ、日に日に悪化と堕落を繰り返している有様なんだよね。正直、このままだと宗教戦争とかになったら、幸運の女神の宗派が滅ぶ可能性もある。それだけはなんとしても阻止したいんだよね……」


「なるほどな……それでどうする気だ」


「もう、いっその事、その水の女神を殺した方が手っ取り早いと思うけど……殺すだけならいつでもできるし……もっと有効活用しようと思うの。だから、このディメンション・ライフルにガハルナームの鱗で造った弾丸を装填して……」




 アリシアは鱗を神術で加工し弾丸を形成し、BBA弾の薬莢に弾丸を嵌め込み、マガジンに装填し構えた。




「これをあるアバズレ女神の心臓に打ち込んで呪いをかける。即効性こそないけど、撃たれた相手は撃たれた事にも気づかず、呪いの効果で思考に制約をかけて宗教戦争させないように誘導して、なんの対策も取れないように多重の隠蔽とレジストをかけて、200年くらいかけてあの女神の力を鱗の力で全て吸収して餓死させて、そのエネルギーを発展途上国に200年持続式のエネルギーパックとしてアフリカに送った方が有効的だから……ね!」




 アリシアは虚空に向かって、銃の引き金を引いた。

 弾丸は虚空に消え、次元の壁を突き破り……着弾した。




「成功……どうやら、気づいていないね」


「本当に気づいていないのか?干渉されれば、少しくらい違和感を覚えるはずだが……」


「それが……違和感すら覚えてないね。寧ろ、こっちが干渉した事にすら気づいていない。常にレジスト系の魔術を発動していないからこっちを油断させる為だとも考えたけど……どうも違うね」


「その女神……馬鹿か?」


「俗に言えば、そうなんじゃないかな?」


「本当に……何故、その程度で女神を名乗れるのやら……」


「本当に神を騙る者の格は落ちたよね……」




 2人はその事を嘆いた。

 後日、200年持続式のエネルギーパックがアフリカ各方面に配備されたが、その構造はその当時では解明される事がなく……それが解明されるのは丁度、200年後の事であった。

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NEXCL 迫害された聖女は剣を携え”混ざりし世界”を馳走する daidroid @daidroid

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