真・エピローグ1 煉獄龍 ガハルナーム
世界が融合して1年の月日が流れた。
アレから世界の勢力図は大きく変わった。
ロシアの消滅に大国間のバランスは崩れ、宇宙産業はリセットされた事でアメリカや中国の優位性も落ちた。
そんな中で台頭を始めたのは新生ウクライナである。
新兵器GLDは世界に衝撃を与えた。
それにより”神術”と言う新たな科学ロジックを世界に齎した。
アルゴリズムのパターン次第で実質、ありとあらゆる事が可能となったと言える。
理論的に基本的な物理法則などに反さない限り、全てが可能とされており、ウクライナでは既にこれを応用した次世代型動力炉であるブラックホールエンジンの開発に着手しており、ウクライナは世界の最先端国に名を連ねる。
その一方でライトロード共和国も地球のコンピューター技術などを吸収、急速な発展を見せていた。
元々、神術やパソコンに親しみがあったアカリやアリシアが実質、国の先頭に立ち指導しているのが要因として大きく。
ライトロード共和国のインフラは発展途上国並だが、技術レベルに関しては新生ウクライナを超えているとされる。
そんなライトロード共和国では、ある会議が行われていた。
ライトロード共和国、国教神であるアカリがその説明を行う。
「先日、消失したロシア大陸の観測に成功した」
それを聴いたウクライナ軍関係者の間で感嘆の声が上がった。
彼らの中にはロシアに親戚等が残されており、その安否が気がかりだったからだ。
今までこちらも混乱しており、気にする余裕すらなかったが、こうして発見された事は何より、安堵するべき……はずなのだが、アカリの顔色は少し重かった。
「……ただ、悪い知らせもあってな。汝らが戦士であるからして、ハッキリ言うが、ロシア国民の生存は絶望的だ」
アカリは「これを見てくれ」と言ってある映像をモニターに映し出す。
そこには鬱蒼と茂る森の中で巨大な2つの怪物がぶつかりあっていた。
その1つはロシアの国旗をつけたシルバーメタリックな外観をした球体型兵器が森を焼き払わんばかりのミサイルや炸裂弾による大火力を黒い物体にぶつけていた。
その黒い物体は、ファンタジー世界に出てきそうな定番的なドラゴンの形をした生き物であり、敢えて言うなら某狩猟ゲームのミラシリーズのような姿をしており、口から火炎放射のような光線を放ち、球体に応戦していた。
「これは過去の映像に過ぎない……次の映像を観てくれ」
次の場面が映るとドラゴンの火炎が蒼く輝き出し、高熱化した。
それにより、球体の表面が溶け始め、金属で出来た装甲が液状化していく。
球体の各部から発射されていたミサイルや炸裂弾の発射口から爆発と炸裂が起き、球体が徐々に半壊していく。
球体は……まるで意を決したようにドラゴンに突貫した。
迫る毎にボディーが溶解していくがそんな事はお構いなしに肉迫する。
そして、どう言った原理かは分からないが液状化した金属がまるで生き物のようにうねり出し、重力に従って落ちていた金属も球体の正面に集約され、まるで液状化金属の槍を形成した。
球体はその巨体と加速の荷重を活かして、火炎を吐くドラゴンの口に液状化金属の槍をねじり込んだ。
それにはドラゴンも思わず、呻いた。
流石のドラゴンも内側からの高温には耐えられず、かつ気道を塞ぐほどの大量の液状化金属を注がれては呼吸すらままならず、苦しそうに液状化金属を咳き込んで吐こうとする。
しかし、球体は変形させた液状化金属でドラゴンを左右から拘束し、最後の力でも振り絞るように口の中に溶けた液状化金属を流し込んでいく。
球体はその身の液状化金属を全て、ドラゴンの口腔に流し込んだ。
球体はドラゴンの体内に入り込み、その身を消滅させた。
ドラゴンはのたうち回り地面を転がる。
そして、ドラゴンの肢体の至るところで爆発が起きる。
恐らく、取り込んだミサイルや動力炉の暴発が内部で発生したと思われた。
だが、刹那だった。
このまま球体とドラゴンの引き分けに見えた勝負だったが、ドラゴンは次の瞬間口の中から無数の金属塊を吐き出し、その身は紅蓮に燃え始めた。
何が起きたのか、全く理解できない軍人達にアカリが説明する。
「奴は、取り込んだ液状化金属の熱と内部で爆発した動力炉のエネルギーをその身に取り込んだ。その結果、熱を奪われた金属が口から吐かれている」
そこからドラゴンの対翼から蒼い炎が吹き上がり、ドラゴンの咆哮が響き渡る。
それと同時に全身から蒼い炎が噴き上げ、大地の全てを呑み込んだ。
その勢いは凄まじく、森を呑み、川を呑み、海を呑み、一瞬で惑星を半周した。
その結果、ロシア大陸があった場所は一面、マグマに包まれ、燃え上がる。
惑星を俯瞰して見れば、マグマは惑星の半分を覆い尽くし、それが徐々に世界を侵食していた。
「これが現在の状況だ。見ての通り、ロシア連邦の生存は絶望的だ。寧ろ、わたしの探知でも生命反応は一切感知できないところを見るに……全滅は確定だろうな。まぁ、探知が妨害されている事を考慮しても1人生きているかいないかだろうな」
アカリの宣告とも言える言葉に辺りは騒然とする。
だが、アカリはそんな暇はないと一蹴するように「静粛に!」と発した。
「今回の我々の任務はこの異世界に赴き、このドラゴン……敵勢コード”煉獄龍・ガハルナーム”を討伐する事にある」
アカリは更に続ける。
「このドラゴンは既に世界を滅亡一歩手前まで追い込んでいる危険なドラゴンだ。しかも、このドラゴンはエネルギーを吸収する事で急速に成長する特性がある。現在、ガハルナームは自身が造り出したマグマを使って、惑星の中心核の熱エネルギーを吸収し更に力を蓄えている。このドラゴンは膨大なエネルギーを糧とし、それを行動原理にしていると推測される」
その説明に軍人達は戦慄した。
敵がエネルギーを糧にする生命体だとするなら、まず核兵器の運用は現実的ではないので決戦兵器は使えない。
また、GLDであっても神力を使っている関係上、逆にそのエネルギーを取り込まれるかも知れない。
通用しそうなのは、戦車などの実弾兵器くらいだろうが、あの堅牢な鱗に通じるのか、懐疑的なところがある。
「我々の調査によると……あのドラゴンはベビダと双極を為すドラゴンであり、ベビダすらその力を恐れ、禁忌とした程のドラゴンのようだ。そのドラゴンが転移に巻き込まれ、あの世界に流れ着き、抑止力であったベビダが消えた事で行動を起こしたと推測される」
アカリの調査では、ベビダは勇者召喚以前まではかなり抑え目な活動をしていた。
活動内容に差はないが、勇者召喚後に明らかに活発に動いていた。
それと言うのは、ベビダもこの禁忌の竜を恐れたからだ。いくら、ベビダが強大な力を持っていたとしてもその力、強いてはエネルギーを取り込まれ、厄介な存在になる事を恐れた為だ。討滅しようにも、討滅する力すら糧にする可能性があるドラゴンに容易に手が出せなかったようだ。
更にあのドラゴンは厄介な事に”あらゆる魔術を破壊しそのエネルギーを吸収する”特性を鱗全体が帯びており、ベビダが如何なる術を行使しようとその全てを無効にされ、力として還元されてしまう事に本当に厄介な存在としてベビダは目の敵にしていたらしい。
「こちら側のコンピューターの演算によると、奴は今いる惑星のエネルギーを全て喰らったら、次はこの世界に来る可能性が極めて高い。ベビダと同等の能力と知性があるなら恐らく、単独転移が可能であり、並行世界間で最も近いこの世界に降臨する可能性は95%と言ったところだ」
そこで軍事関係者として参加していたクライン・テクノミング准将が口を開く。
「仮にガハルナームと戦う事になれば、勝算はどの程度ありますか?」
軍人として、そこは押さえておきたいところだった。
このように言っている事からして、ガハルナームがかなりの強敵であり、神と呼ばれるアカリですら苦戦は必死なのだろうと予測できた。
なら、知恵を絞って如何に倒すか考えないとならない……と考えたが、アカリの口から出たのは意外な言葉だった。
「勝算自体はあると言うより……わたしが剣で斬り合えば倒すだけならできる」
「えぇ……倒せるのですか?」
「あぁ、倒せるぞ。だがな……倒せるだけだ。他は一切、考慮していない」
「と……言いますと……」
「わたしが戦えば、ガハルナームは倒せる。だが……その場合、この世界はタダでは済まないだろうな。惑星の半分は抉れる覚悟はした方が良いな」
流石にそれは困る。
アカリやアリシアのような超越存在なら、いざ知らず、クラインのような常人には耐え難い事態だ。
「まぁ……それは汝らには承服しかねるだろう。ならばこそ、今からかの世界に赴き、惑星を代価にガハルナームを討滅する事も可能だぞ。今ならな」
それは実質、滅亡寸前のロシア世界を見捨てて、ガハルナームを討滅すると言う選択肢だ。
軍人である以上、そう言った苦渋の決断を選択しないとならないだろう。
それが一番ベターなやり方でもあった。
だが、アカリは更に別の選択肢を出す。
「或いは……奴の気を惹く餌を巻き、この世界で討滅する。と言う手もあるがどうする?」
それに対して、クラインが答える。
「どうする……と言われても……」
「その場合、わたしは参戦しない方が良いだろう。いくら手加減しても惑星への被害はある程度、許容して貰わねばならんからな……その場合、お前達だけの力で戦って貰う。まぁ、案ずるな。ガハルナームを討滅する術は授ける。だが……この世界をより良く動かすのは汝らの意志だ。わたしが決めた事にただ従うだけではいかんさ。汝らがどうしたか、今、決めるが良い」
アカリと言う女神は決して、放任主義と言う訳ではない。
彼らが手に負えないと判断すれば、手を貸すのもやぶさかではない。
ただ、一応これでも高い神格を持った女神なのでその行動原理も女神的なのだ。
神が人間に対して行う使命として、人間を「王にする」事が挙げられる。
本来、地球等の3次元世界に住む人間は神からすれば監獄に幽閉された天使のように見える。
極端な話、3次元知的生命体は高次元世界で神に反逆した、国家反逆罪的な罪で3次元に幽閉されていると言えるだろう。
故に3次元世界は監獄……と言えるのだが、そこまで落胆する話でもない。
疑問に思うかも知れないが、全知全能とか言われる神なら天使が反逆する事を知っていたのではないか?反逆する前に食い止める事もできたのはないか?それを見過ごしたと言う事は神は実は悪い奴なのではないか?と考える者もいるかも知れないが……超俯瞰的に見ると人類史とは、神が人間を再創造する歴史でもあった。
人が”罪”を自覚し、”悔い改める”事で罪から贖われたと言う”認識”を持つ事で神と同じ視点の”慈愛””博愛”の類を学ぶ。
それにより、再創造された天使は高次元帰還後に神の長子となり、神の次くらいに頂点に立つ存在となる。
即ち、それが「王にする」と言う訳だ。
故にアカリの行動原理も人間を自分の後を継ぐ者として如何により良く教育するか、考える節があり、その為に敢えて苦難に追いやるような選択をさせる。
苦難を”ピンチ”と捉えるか、”チャンス”と捉えるか。
神の場合、後者であって欲しい。
多くの人間は苦難に遭うと本性を露にする。
倫理観や道徳的なモノを平然と捨てる事もあり、俗に言う”不法”を行う。
神が望む信仰とは、そう言った苦難等の環境に振り回されない”強い意志”であり、それを”悔い改め”と言う。
だからこそ、アカリはガハルナームと言う苦難に置いた際の人類の反応を試しているとも言える。
無論、命の危険があれば、アカリが対処する。
だが、神は乗り越えられる試練しか基本的に与えない。
故にガハルナームと言う苦難は人間なら乗り越えられるからこそ、このような提案をしていた。
「さぁ?どうする?」
クラインを含めた軍人達はアカリに聴こえないように話始める。
ここでの選択は2択だ。
向こうの世界で戦うか、こちらの世界に引き込んで戦うか。
前者を選べば、向こうの世界の人類を見捨てる事を意味する。
その分、リスクは低い。
なにせ、アカリの意見が正しいならどれだけ見積もっても生存者は1人なのだ。
どう考えても1人の犠牲でするならそれに越した事はない。
後者を選べば、向こうの世界の人類を救うチャンスを造れるが、こちらの世界を危機に晒す事になる。
最悪、アカリが出陣するとしても惑星の損害を加味しないとならない。
彼らは慎重に話し合い……そして、決めた。
「こちらの世界に引き込みましょう」
クラインの言葉がこの世界の決定となった。
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