木々の肌、または白い少女

旭 東麻

木々の肌、または白い少女

 先日。冬もさなか、ちょっとした用事を終えて、道路沿いを帰路についていたときのこと。


 ふと、道の脇に植わっている木々が目についた。木、といえばほとんどの人が、

茶色い皮に覆われた、あのゴツゴツしたのっぽを思い浮かべると思う。

 その日、木々が目についたのは、そんな厳めしい物とは対照的で、それらがうら若い少女のような、白く艶めかしい肌をさらしていたからなのだ。

 何があったのか、あの木々には茶色の皮がなく、少しばかり黄色を帯びた生木が、木のてっぺんから雪に埋もれて見えなくなる直前まで、むき出しになっていた。


 それを眺めていて、別に悪いことをしている訳でもないのに、なぜだかとても決まりの悪い気持ちになって、そそくさとその場から離れた。


***


 翌日、たまにはと思って散歩に出た。その日は少しだが雪が降り積もっていて、長めの靴で出かけたのを覚えている。


 ぶらぶらと橋を渡り、神社に近づくと、「ねえ。」と誰かに呼び止められた。

 こちらに向かって言ったのでは無かったかもしれないが、ただすっと耳に入ってきたので、振り返るなりして声の主を捜すと、頭のてっぺんから足の先まで真っ白い女性がいた。

 彼女は神社の入り口からこちらをじっと見ていて、そちらへ足を踏み出すと、「ついて来い」と言わんばかりに背を向け、歩いて行った。


 久しぶりに軽く走って彼女の横についた。

 そこからは神社の奥の奥を目指して(少なくともそんな気がした)、人の手の届いていなさそうなところを二人でのんびり歩いた。


「君は誰だろう。」


こちらの質問に、彼女は木槌を叩いたような、高い、澄んだ声で、


「知らない。」


と答えた。彼女の中で唯一色のついた、深緑の瞳が見えた。



***



 ずっと歩いて、一体どこまで行ったのか、どう戻ってきたのか、実はよく覚えていない。

 気がついたら神社の入り口で、一人ぼおっと立っていた。

 どこで拾ったのか、手には小指ほどの長さの生木を握りしめて。

 それをポケットに入れて、またぶらぶらと、その後はどこにも行かず、家に帰った。 

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木々の肌、または白い少女 旭 東麻 @touko64022

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