第10話
「よくやったな。遠くから見ていたよ、抵抗したんだな。そのおかげで間に合ったよ、ありがとうな。ここからは俺たちに任せてくれ」
ダイスの横にはカキもいました。カキは冷静に海賊の数を数えて、勝算を図っていました。そしてダイスに語りかけます。
「金玉蹴られたやつをいれて20人です。まぁ、大丈夫でしょう。それにしても船のことを放っておいて2人で助けに行くなんて、愚の骨頂ですね」
「そういうお前だって愚の骨頂仲間だろ? 自分で言っておきながら船のことをほったらかしにしてここに来るなんて」
「そうですよ。君と一緒に旅している時点で愚かさはオーバーフローしていますけどね」
「憎たらしさもオーバーフローしてるな」
2人は幼馴染のように憎まれ口を叩きあっていました。女の子を助けたことにより少し安心したので饒舌になったのです。一方で海賊たちは腹を空かしたハイエナのようにヘラヘラと笑いながらジリジリと近づき、女の子は襲われた獲物のように泣き続けていました。
「ところで、船の後始末はしなくて本当に大丈夫だったのですか?」
「大丈夫だろ。束縛されていた奴らが自分たちで後始末するから助けに行ってくださいと言うんだぜ? 大丈夫さ」
「そういうのって、信用できないんですけどね、私は。まぁ、そうしていなかったらその子は助かっていなかったですけどね」
「そうだな。女の子を助けられたんだから、これくらい大丈夫だ」
ダイス右耳には刀が刺さっており、カキの左目からは血が流れていました。
ダイスは刀を引っこ抜き血が湯水のように流れました。カキはその様子を慣れない片目で見ました。2人とも痛々しい表情で体が重かったです。
「君、そんなに血を出して大丈夫ですか?抜かずに止血しといたほうが良かったでしょ」
「うるせぇ。抜いてしまったものは仕方ないだろ。死ぬ前にカタをつけるぞ」
「まったく、少しは後のことも考えてくださいよ」
「お前こそ、片目を失うなんてこれからどうするんだよ?」
「それはその時考えたらいいでしょ。そんな先のことまでわかりませんよ」
「人のこと言えねぇな。さすがは俺の相棒だ」
2人は鉛筆を持って海賊に向かいました。
「お兄さんたち、もう行くの?」
「ああ。俺たちはいつまでもここにいるわけにはいかない。故郷に戻らないとな」
「治療してくれてありがとうございます。それでは、私たちはこれで」
村の人たち総出でダイスとカキを見送りました。大手を振る女の子の応えて大きく手を振るダイスと小さく手を振るカキは、各々の右耳と左目を包帯で巻かれていました。太陽と村人を背後にして男たちは土の道を西へ向かいました。
残された女の子は地面に簡単な数字を書いていました。短い時間でしたが、ダイスとカキに教えてもらったのです。周りの村人からは馬鹿にされていましたが、女の子は気にせず。または周りに反抗しながら勉強を続けました。
この女の子は数年後、人さらいから村を守る護衛団リーダーとなりました。数学で培った作戦や道具作成や武術を通して撃退し続ける姿は、天狗か女神かと言われていました。倒幕運動をする者達がその評価を聞きつけてアプローチをかけることがあるのですが、それは別の話である。
「おい、カキ。俺たち本当に故郷に戻れるのか?」
「大丈夫ですよ。西にまっすぐ進めばそのうち着くはずだ。誰かがはぐれない限り」
「お前、俺がはぐれたことをまだ根に持っているのか?もう許してくれよ」
「許せる訳無いですよ。100回は探しているのですよ。こっちの苦労も考えてください」
「そうか。これからも苦労をかける」
「苦労をかけない努力をしてください。これだから数学以外に興味ない人は」
楽しそうに馬車の轡を引いているカキの後ろでは、ダイスが楽しそうに紙へ数式を書いていました。今日も快晴、良き数学日和、男も女も関係なく、人種も身分も年齢も関係なく数学を楽しむ心意気、後のルネサンスを起こす数学者たちの冒険は続きます。それは、どこの文献にも載っていない、数学を後の人々に伝える物語です。
数楽者 すけだい @sukedai
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