第9話2-3向かう

 どれくらい時間が経ったのでしょうか。僕は逃げ惑うと、軍人さんに出会いました。周りにガレキしかない道路の上でした。


「君、大丈夫か?」


 若い男性は快活に聞いてきました。迷彩色というのでしょうか、軍服と帽子に意識がいき顔はよくわかりませんでした。実際に兵隊さんに出会ったことがなかったので、すごく怖く感じましたが、その威厳にはバッタからの防衛を期待できました。


「大丈夫じゃないです」

「よし、私についてきなさい」



「ここは軍のキャンプだ。外よりは安全だろう」


 テントが戦車が食料が。人の数は病院などに比べたら少ないというわけではないが、整備されていてごちゃごちゃしていませんでした。プロの世界は厳格なのだろう。


「その子供はどうした!」


 むこうから背筋がいい中年が来ました。軍服と帽子に意識は行くが、目じわは見えました。年の割には背中は曲がっていない印象です。


「はっ、子供が一名でいましたので連れて来ました!」

「なるほど、ご苦労!坊主、心配するな、私たちが守ってあげる」


 そういって中年は去って行きました。その足はしっかりと地面を蹴り、力強いものでした。知らない間に張られていた緊張の糸が切れて、僕は深呼吸しました。

 敬礼していた若い男性は、手を下ろしました。男性は上司から解放された安心で深呼吸をしました。そのまま避難所に連れて行かれました。


「意外と多いんですね」

「逃げ遅れた人が結構いてね。まだ後方に送ることができないんだ。少しずつ送っているんだけど」


 テントには100程の人がいました。今まで見てきた避難所みたいにごちゃごちゃしていました。さっき思ったことと反対で、どこも同じものかと落胆しました。


「でも、送った先でも安全ではないんです。僕、そういうところから来たんですけど、みんなやられてしまって」

「そうなんだ。それで送られるのを断る人もいるんだよ」

「そういう人はどうするの?」

「とりあえず、後回ししているよ。送ってもらいたい人から順番だよ」

「ところでバッタのことなんですけど、死んでも死なないバッタがいるんです」

「それなら確認している。ゾンビみたいなバッタだよね?」

「そうなんだよ。それはどうするの?」

「なんとか対抗策を練っているところだよ。そのことは私たちに任せてください」


 若い男性は去って行きました。

 僕は嫌な予感がしました。

 おそらく……



 ゾンビバッタの大群によって、その前線基地は崩壊しました。

 僕はいつもどおり、大量の知らない人達、知っている中年軍人さんや若い男性軍人さんがバッタに襲われているところを見ました。僕はいつもどおりバッタに標的にされてしましました。僕はいつもどおりそこから走って逃げました。



 その後に次のことが起こりました。

 知らない女性が助けてくれました。メガネのサイドポニーでした。僕のことを子供扱いしてきました。

 特性の殺虫剤でゾンビバッタを倒していました。仲間のところに連れて行ってくれました。僕は静かについていきました。

 ショーヘアのガチムチ女性がいました。戦力となるのなら、ここに置くと言いました。僕は戦力になると言いました。

 僕は、角刈りと坊主メガネを思い出しました。あの人たちと同様にこの人たちも死ぬと思いました。やはりこの2人もバッタにやられました。

 以上のことが淡々と起こりました。



 僕は意識を取り戻しました。知らない間に意識を失っていたようです。今までは意識を取り戻したときは誰かに介抱されていましたが、今回は一人で道に倒れていました。

 そういえば、どうして僕は生きているのだろうか?いろいろな人達に助けてもらったから?そういう運命だからか?

 僕は三蔵一行が天竺を目指すようにバッタの大群が飛んでくる方向に向かいました。心なしか、モーゼが海を渡ったときの海水のようにバッタが僕を避けているように見えました。僕がバッタの大群に向かっている理由もバッタが僕を避けている理由もわかりません。

 バッタをよく見ると、ゾンビバッタがバッタを襲っていました。襲われたバッタはゾンビバッタに変化しました。体が溶けて目があらぬ方向に飛び出していました。

 そのゾンビバッタの向こうから何かがやってきました。それらはバッタより明らか大きなものでした。

 それは人でした。

 人の大群でした。しかし、その姿はゾンビでした。人間のゾンビがゾンビバッタを追いかけていました。

 要するにこういうことだと思います。

 人間のゾンビがバッタを襲う。バッタがゾンビバッタになる。それらからバッタが逃げる。逃げた先の人間を襲う。人間が逃げる。

 僕たち人間を襲っていると思ったバッタも、ただの被害者であり逃亡者だったのです。

 人間と同じだったのです。ゾンビから逃げていただけです。

 そういえば、僕の体が勝手に動く。血色も悪くなってきましたし、体が溶けてきましたし、目があらぬ方向に伸びていきました。頭がぼんやりとしてきました。

そういえば、ゾンビバッタに噛まれたな。ということは、ゾンビに感染したのか。

 ……僕はゾンビになるのか。

 僕はその足で、バッタを追いかける人間のゾンビの方に向かいました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

バッタ すけだい @sukedai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ