彩夏の日記

 淳はベッドに腰を下ろして大学ノートを観察した。


 ノートの表紙には、「mon journal」、右下に「a.o.」。 

 開いてみると、日付と一緒に短い文章がすべて仏語で書かれていた。






八月三日




――今日から日記を仏語でつけてみよう! ちょっとずつでいいから! 頑張れ、わたし!




八月五日




――ついに来週のパリ行きの航空券を予約した! これでリエコたちとのんびりヨーロッパを満喫できるぜー!




八月七日




――レオとはもう会いたくない……正直、もう我慢の限界! でももう航空券予約しちゃったしな……。 




八月十日




――リエコから、少し遅れて合流するとメールがあった。




八月十一日




――いざパリへ! とても楽しみ! レオとは最悪な感じだけど、もうどうでもいいや! フランスを楽しむぞー!




八月十二日




――パリ、観光客多過ぎ! 疲れた……。リエコたちと一緒なら、もっと楽しかったはずなのに……。




八月十五日




――葡萄園の仕事、結構疲れるし、めっちゃ暑い……ところで、レオって女の子の前だと、態度変わりすぎじゃねー(怒)




八月十八日




――ルーマニアのドラキュラ城って一度でいいから行ってみたいな~♪ ルーマニアってなんか魅力的な感じがする!




八月二十三日




――葡萄園の仕事、正直あんまり稼げないなぁ……なんか簡単に稼げる方法ってないかな……あるわけないか。




八月二十七日




――ルーマニアって野犬が多いらしい。狂犬病って怖いな。今はもう大丈夫って言ってたけど……。




九月三日




――今日は、新しい日本人の男の子が葡萄園にやってきた! 嬉しい! 彼をどこかで見たことあるような気がする。でも思い出せない。




九月五日




――淳くんのことを思い出した! あれからもう十年以上経ってるんだ。懐かしい! そして嬉しい!  




九月十日




――今日は淳くんにレオのことを相談した。彼氏だったということは伏せて……ごめん、上手言えなかった……なんでかな?




九月十一日




――最後にケジメはつけないと。でも、私はもう何回も別れるって言っているんだけどね……。






 淳はパラパラとページを捲っていく。幸運なことに、彩夏の仏語は淳でも理解できるレベルだった。


 彼の頭の中で、湧いてくる疑問を客観的に整理してみた。




・なぜここにきて突然、ルーマニアの話が出てきたのか? 


・彩夏はルーマニアへ行ったのか?


・彩夏は、淳を知っている?


・彩夏の彼氏のレオとは、葡萄園のレオのことだったのか?

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青と黒の空 Benedetto @Benedetto

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