2 マつりばやし
俺は助けてもらった彼女の話を聞くために場所を変えた。
とは言っても田舎なのでやってるお店なんてありはしない。
切れかかった街灯がチカチカと点滅する公園のベンチに二人座って、
「どうやって説明したらいいかな? えっとね、この世は私たちがいる世界。そしてあの世、かくりよと呼ばれる世界があるんだけど、そこには怪異と呼ばれる人にも妖怪にも成りきれなかった存在がいるの。それが最近になって、この世にも出てくるようになって、その出てきたやつに襲われてたのが君ってわけ」
「なる、ほど」
意味がわからないがとりあえず、相槌をうつ。
「いやー、まさか怪異が見えるなんてね。普通の人間には見えないからさ、普通は」
「そうなの?」
「うん。まぁ、本当にたまーに霊力が強い人や、死を目の当たりにした人が見えるくらい」
死を目の当たり。その言葉が胸の奥に突き刺さり、何かを思い出せそうで思い出せない。
とりあえずわかったのは、怪異と呼ばれる危険な存在が現れ始めた、ということ。
それから、その怪異が俺には見えてしまう、ということ。
「とりあえずは怪異の気配がないから大丈夫だと思うけど、この呪符を持っておいて。怪異とか、身の危険を感じたらその呪符を破ってね」
そう言って渡された呪符は、硬めの和紙に見たことのない文字で何かが書かれているモノだった。
「ありがとう」
「じゃあ、気をつけて帰ってね」
そう言うと、彼女はスタントマンもビックリなほどの跳躍を見せて夜の闇に消えていった。
夏の夜。蝉の聲が煩く、人の賑わう祭り道。
怪異に襲われてから一週間はたち、あれから変なものは特に観ていない。
「なんで来たんだろう」
友達に誘われて来たはいいものの、急にその友達は体調が悪くなったと来なくなり、結局一人で見てまわっている。
行き交う人と、色々な香り。
どこも行列で何かを買うにも時間がかかりそうだ。
少し進むと一つだけ、客のいない店があった。
読めるか読めないかのギリギリな汚い文字で『りんご飴』と書かれている。
その店だけは他の店と違い行列もなく、人っ子一人止まらない。
まるで見えてないかのように、何もないかのように通りすぎていく。
「りんご……飴」
足が吸い寄せられる。
光の加減か、紅く鮮やかに輝くりんご飴はこの世のモノとは思えないほど魅力的で
行ってはいけないと、心の奥底で誰かが止めている気がするが、好奇心を抑えられない。
「ぃらっしゃぃ」
店主がいたようだが、そんなの関係ない。
俺は目の前にあるりんご飴から目が離せない。
すぐ目の前、手を伸ばせば届く距離にある。
そんなモノを我慢しろ、と言う方が馬鹿げている。
「ぉきゃくさんもものずきだねぇ」
俺はりんご飴にかぶり付く。
一つ、また一つと食べて食べて食べまくる。
固く甘く固く甘く固く甘く、食べれば食べるほど魅惑的で神秘的で怪異的。
「怪異、的」
見ると手は紅く染まりドロッとしていて……
「血?」
店主と思わしき人は、人の形をした人ならざるモノだった。
「うっ、んん」
意識はハッキリとしているのに身体が言うことを聞かない。
さっきまで甘く感じていたりんご飴は鉄臭く、嘘でも美味しいと言える代物ではなかった。
それなのに一つ、また一つとりんご飴を食べて食べて食べ続けてしまう。
「どぅしたんだぃ」
「
出ない声を振り絞り叫ぶが、誰にもその声が届いていない。
このりんご飴屋
鬼喰らい ホタル。 @h0__taru
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