1 デあい



 夜。人っ子一人いない田舎の町。

 街灯は切れ真っ暗な道が続いていく。


 俺は皐月さつき乃亜のあ

 ここは、ごくごく平凡で普通な世界。

 どこかで人が産まれて、どこかで人が死ぬ。

 そんな当たり前のことが起こる世界。


 ここ日本は、他の国と違って十の大財閥がある。

 まずはそれを紹介していこう。

 一ノ瀬いちのせ家は金融を担っている。

 二条にじょう家はメディア報道を担っている。

 三宮みつのみや家は医療を担っている。

 四紙しし家は教育を担っている。

 五月いつつき家は司法を担っている。

 六道りくどう家は交通を担っている。

 七成なななし家はを不動産を担っている。

 八鉢やはち家は飲食を担っている。

 九蘭くらん家は商売を担っている。

 十干じっかん家は保安を担っている。


 この十の大財閥が小学生で習う逆らってはいけない人たち。

 よし、よし。こんな事を考えられるんだ。

 俺はいたって正常、問題なし。

 誰がなんと言おうと、後ろから明らか人間じゃない化け物に追われているけど、絶対に見間違えだろう。


「ギャー」


 まだ追いかけてきてる。

 身体はボヤけているが人の形をしていて、紅く光る目がこちらを睨み付けている。

 うん、さっきよりも距離が近くなっている。

 俺は俺で少し疲れてきてスピードが落ちてる。

 なんとか恐怖で走れているが、追いつかれるのは時間の問題だろう。


「あっ」


 俺の身体が宙を舞っている。

 なにもない所で転けてしまった……終わった。

 ただ、フラッと夜風に当たろうと外に出ただけだったんだ。

 思えば冴えない人生だった。

 物は失くして見つかったと思ったら壊れてるし、夜中に金縛りにあって毎日のように目が覚めるし、理科の実験では安全のはずなのに毎回のように爆発するし、なんなら解剖の実験でも爆発するし、買った家電は毎回のように初期不良だし、ポ◯モンの色違いが光るお守りあるのに一体も出てこなかったり、ソシャゲの最レアは天井まで出てこないし、じゃんけんには一回も勝ったことないし、そのくせ男気じゃんけんだと絶対に勝つし、テストでは絶対に答えが一問ずれて書いちゃうし、プールに入ると絶対に足をつるし、何かを買おうとすると毎回のように俺の前で売り切れになるし、車には何度も轢かれかけるし、高いところからネジが外れてたのか看板は落ちてくるしで本当に良いことなんてなかった。


「いっ」


 転けた先には、いつの間にか小さな猫がいる。

 あぁ、俺はこいつと一緒に死ぬんだな。


 次の瞬間、猫と思わしきモノは光の速さで俺の横を通りすぎ、後ろからアスファルトの道路が壊れる音が聞こえた。


「人……だよね。大丈夫?」

「うっ」


 勢いよく転けたせいで変な声が出てしまった。


「えっと、大丈夫?」

「えっ」


 俺は身体を起こしてまず後ろに目をやった。

 その光景に驚くことしか出来ない。


 猫と思われたモノは、大きな炎の形をした猫に変わり果てて黒いボヤけた化け物を喰らっている。


「大、丈夫?」

「おっ」


 やっと声の主を見たが、あまりの可愛さに変な声しか出せなかった。


「だぁ、大丈夫です」

「うん、よかった。怪我とか襲われてもいないね」

「えっと」


 この状況に頭が追いついてない俺に彼女は話を始めた。


「君はね……なんて言えばいいかな? 怪異? 妖怪? みたいなのに追われてて、私が助けたの」


 その説明は、説明と呼ぶにはあまりにも疎かで、助けてもらった身で思うのは申し訳ないが、


「わからない」




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