理解と誤算

@mea-sleeping

第1話

「貴方は僕をここから出していいんですか?」

虚ろな目の少年は主治医の目の前にぼう、と立っていた。主治医は何か不穏な空気を舐めとるが、念の為聞いてみた。

「何故そんなことを?」

そうすると少年は大きな口の角を上げて笑って、指で自分の首を切るマネをした。

「だって僕がここから出たらまた自殺するかもしれませんよ。貴方が僕をここから出すという指示をしただけで、1つ貴方は命を殺します。また拘束をし、動けぬようしたとして、結局は解放しなければならない。1つ貴方は命を殺します。どちらにしても。それでもこれを賢明な判断と言えますか?ねぇ、どう思いますか?」

主治医は真っ直ぐな目で少年の肩を掴み、そして強く発した。

「私は、君がそうしないと信じているよ。そして万が一そうしても必ず私が助ける。約束するよ。」

すると少年は頭が座らない赤ん坊のように、だらんと頭を回した。

「はは、その答えこそが賢明ですよ。先生」


その3日後少年は自宅の螺旋階段から落ちて亡くなった。遺書のようなものがタンスから見つかった。


「出来ない約束はしないでくださいよ、先生」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

理解と誤算 @mea-sleeping

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ