本当は知ってる女
楽しかった。野郎の拷問は汚いだけだが、女の子の拷問は何をしてもかわいくて堪らない。あいにく早めに切り上げる事にはなったが、久しぶりの充実感があった。ホワイトソースを作りながら上機嫌に口笛まで出る。
「あれ、姐さん。ここで料理なんて珍しいですね」
私達の所属するAグループの一員、高橋が話しかける。
「接待よ接待。かわいい子がお部屋で待ってるからね。気に入ってもらわないと」
「あの子結局どうするんです?」
「あなた会議にいなかった?スパイになって貰うことになったから」
指示されたのはこうだ。「何者かに襲われ、衰弱している所をこちらで保護した」と明日Bグループに伝えることで、失踪の辻褄を合わせつつ借りを作る。あの子は弱いからチンピラにでも濡れ衣着せればいいだろう。
その後Bグループの組員をこちらに来させないようにしながら、その間に彼女を我々側に取り込む。それが終われば返すだけだ。
「絶対に手出ししないでね。私が全部やるから」
「ちょっとおこぼれ貰っても……?」
「殺すぞ」
正直、最高だ。好きなようにやらせて貰おう。今の私にとって、金庫の在処もBグループの情報もどうだっていい。かわいい女の子を私の自由にできる口実に過ぎない。
「よし、美味しい」
腕によりをかけたホワイトシチューを部屋に持っていく。
ドアを開けると、私の小説を読んでいた彼女が顔を上げる。
「シチュー作ってきたから。苦手じゃないよね?毒とかは入ってないから安心してね」
「は、はい!」
さっき吐いた内容物から見るに、ちゃんとした食事をしていないみたいだ。 胃袋は掴める。
椅子の上にシチューとご飯を置いて、部屋の隅に立つ。
「食べにくくてごめんねぇ」
「いえいえ!全然!」
もう敵意が全くない。あんなことをしたのに。
「あ、それと」
処置について伝えなければ。
「あなたを“不慮の事故”で殺すことになったから」
彼女は食べようとしていたシチューを取り落としそうになり、あわてて椅子に戻す。絶望しているのだろうか。私は頬の緩みを隠すために下を向き、そのまま胸ポケットから煙草を取り出す。手に挟んで自然に口を覆い、火を点ける。
「えっ、そんな……」
「バレたら一発で抗争でしょ? 困るじゃん」
「でも……」
「但し、本当に敵意や下心がなくて、言ったことに従ってくれる素直な子って分かればBに返してあげてって私が押し通したから」
そんな上手い話があるわけがない。殺す時は殺すし放つ時は放つ。だが彼女はそこまで頭が切れるわけでもなさそうな上、今はそれなりの極限状態で頭も回らないだろう。
「はい……!ありがとうございます!」
なんて素直でいい子なんだろう。商店の看板娘でもやっていればいいのに。さっきの条件が本当だったら今すぐにでも解放していいくらいだ。
「だから安心してシチュー食べな。1時間後に取りに来るからね」
煙草の煙が充満しても可哀想なので早めに部屋を出る。熱いシチューをふーふー冷ましながら食べる女の子をドアの窓から覗き、今にもスキップしそうな足取りでキッチンルームに戻る。朝ご飯は何を与えようかな。食器を取りに行った時に訊いてみよう。
しろくろ てん @kmn75
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