ネバーエンディング・ライフ

青柳驚

第1話 コールドスリープ



 「俺もコールドスリープして30年後の世界を早く見てぇなぁ」

 クラスの誰かが言った。

 「だよなぁ、もしかしたら明日死ぬかもしれないし。けど500万払う価値をあんま見出せないんだよな」

 クラスの誰かがそう言い返した。



 一か月前に、コールドスリープ制が導入したことでクラスの話題はコールドスリープに関することばかりだった。

 コールドスリープ制により、今を生きる人間は老化せずに30年後に目覚めることが可能になった。

 なんでも、国は50年前から極秘にコールドスリープに関して研究しており、先月になってようやく国はコールドスリープを一種の制度として導入した。

 SFでもよく聞くたぐいの話ではあるが、要するに夢が現実になったということだ。

 希望者は抽選によって選出される。

 そして見事抽選の末に選ばれた者は1000万を資することで、その身を老いることなく、長い便宜的な眠りにつくことができるというわけだ。




 勿論、コールドスリープ制に様々な問題が絶えなかった。

 実際、コールドスリープ制が正式に導入されるまでは、批判や疑念が殆どであった。肉体を老化させることなく、本当に30年後に目覚めることが可能なのかという医療的な課題。

 人命のあるべき姿を失うのではないかという倫理的な問題。

 こうした数多の課題が、コールドスリープ制の導入には付きまとっていた。

 国がコールドスリープ制を国民へ提案したのは1年前であり、導入されたのが一か月前だから、国は約一年間このような問題と立ち向かい、その末にようやくコールドスリープ制は導入された。

 というのも、国は実際に30年前にコールドスリープを極秘に、死刑囚の体を使うことで証明してみせたからであった。

 様々な課題があったがこの人体実に対する問題が、国民のコールドスリープ制への批判の主であったように思える。

 しかしながら、国はコールドスリープ制をによって得られる金をインフラ整備へ投じることで国民だけでなく、国そのものの発展が期待できるということを、声を大にして言い続け、その結果としてコールドスリープ制は先月導入されたというわけだ。




「お前はコールドスリープについてどう思うんだよ、佐藤」


 急に隣の席の僕にもクラスの男子が話を振った。

 僕はコールドスリープ制について全くと言って興味がない。

 しかし適当な返事をするのも良くないと感じた。

「金はあるけど時間がない、そういう汚い大人が、コールドスリープ制を希望している大半だよな。けど殺人とか犯した人間がばれる前にコールドスリープしたらどうなるんだろうな」


 うん、コールドスリープが無関心な僕にしてはよく言えたはずだ。


「かぁーっ、結局この世は金が全てなのかよ、金持ちは羨ましい限りだな」

 クラスメイトはそう言い、話をしていたもう一人との会話へ戻った。


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