第16話Reborn
投げられた弾丸が地面にあたった音よりも、
「はうっ!」
マーカスの口から出た、変な音の方が全員の耳によく聞こえた。
ほとんどの人が何が起きたか分かっていなかった。
マーカスは股間を蹴り上げられていた。ケアロハ署長によって全力で。
「ダメだね、油断するなんて」
ケアロハ署長のさっきまでの声と違い、その声をルミは聞いたことがあった。色々教えてくれたティルの声だった。
痛みの許容量を超えていたその一撃により、マーカスは膝から崩れ落ちた。
それに1番早くに反応したのはラキだった。
ラキはすぐ隣にいた別の男の腿を銃で撃ち抜いた。
その銃撃をきっかけに5名ほどいたヘキリプエオの古株達が、マーカスの部下達を殴り、蹴りと攻撃を仕掛けた。
急な状況変化にパニックを起こした奴もいた。
トモヤは拳銃を投げ捨て、その乱闘に参加しに行き、ルミはケアロハ署長を目を見開いて凝視していた。
「……な、なに……が」
「なんだそんなに何が起きたかそんなに知りたいのか。まあ、玉ふたつあるしな、バランスよくした方がいいか。しょうがない、もう1発!」
ケアロハ署長の口から、声質とは全く違う声を出しながら、倒れているマーカスに追い討ちの金的つま先蹴りをくらわせた。
その一撃をマーカスは防ぐことはできず泡を吹いて意識を失った。
「そんな厳つい顔してドMだったとはな」
ケアロハ署長はその姿に似合わない、セリフと髪をかき上げる仕草をした。
「…………マスター?」
声は震えていた。
ルミの胸中にはさまざまな感情が去来していた。
「よ、無事で何より。どうだ変装のクオリティ高いだろ」
「ぁ………………」
ティルに言いたいことが沢山あった。聞きたいことも沢山あった。でも言葉の出口は一つしかないから渋滞をおこして、うまく言葉が出てこなかった。
恐る恐るティルに近づいたルミは……とりあえず顔面に頭突きをした。
「ぐはっ!」
「何やってるんですか、何で生きてるんですか……。わた、私は……本当に、死んじゃったのかと……思って……」
頭突きをした相手にはちゃんと実体があって、自分の頭はちゃんと痛かった。
それが嬉しくて、でもそれ以上に腹が立って、なんだかよくわからないが、ルミの瞳から涙が出た。
ルミは倒れているティルに蹴りを入れる。
一度堰きを切られた感情と言葉と暴力はルミに止めることは出来なかった。
「痛い痛い!ちょ、ちょっと待って!黙ってて悪かった。死んだフリしてたのを黙ってて悪かった」
ケアロハ署長の姿をしたティルは身体を亀のように丸めて、ルミの蹴りをくらっていた。
「クックックック、おい、嬢ちゃんの怒りも分かるがそこまでにしといてやれよ……。一応恩人だろ。うをっ!」
マーカスの部下を全員倒し終わったラキが、ティルの無様に蹲っている姿を笑いながらも、止めに入った。
そのラキに、ルミはローキックを繰り出した。
「ラキさんもどういうことですか!?私を裏切ったんですか、裏切ってないんですか、どっちなんですか!?」
「いってぇ!……裏切ってねぇよ。コイツに支持された通りに動いただけだ」
「マスターが生きてるのを知ってるのなら何で教えてくれなかったんですか!?」
ルミは標的をラキに変え、何度も蹴る。
「嬢ちゃんはてっきり知ってるかと思ってたんだよ!」
「いや、コイツはルミが知らないと知っていて黙ってたぞ」
「騙した張本人は黙ってろ!!てかいつまでその格好してんだよ!絡み辛ぇわ!」
「まぁまぁ。瑠美も皆も落ち着いてゲボ!」
痛む身体を引きずって、喧嘩を止めようと近づいてきたトモヤには、鳩尾にボディーブローを叩き込んだ。
「だから夜は危険だっていったじゃん!何正義感出してんの!しかもお兄ちゃんも最後演技だって知ってたよね!?」
「ご、ご、オロロロロ」
「うわっ!吐いた!」
「怪我人に随分いいボディーブロー入ったけど大丈夫か!?」
何気に兄であるトモヤが1番強烈な一撃をもらっていた。
兄を殴って満足したのか、落ち着きを取り戻したルミは「説明してください」とティルに迫った。
「いいけど、また今度な。後3日ぐらいバカンスの予定だから」
ティルはケアロハ署長の変装を取ってそう言った。
「どうしてですか?」
「もうすぐFBIあたりが来そうだからだよ。俺は逃げさせてもらうわ」
「盗んだデータを送ったんですか?」
「まぁな」
「データが入ったUSBメモリここにあるのに……まさかこれも偽物?」
驚いているルミに、ティルはニヤリと笑った。
「そんなことよりだ栗毛!FBIが来たら俺たちも捕まるだろうが!」
「何言ってんだよ。ヘキリプエオはもう無くなっただろ。お前達はヘキリプエオに監禁されてた被害者だ。そういうことにして他の部屋に入っておけばFBIが助けてくれるだろ」
確かにルミやトモヤは被害者だ。父親の捜索もしてくれるかもしれない。
最近ボスになったばかりのレイラニは警察組織に知られてないかもしれないが、マーカス達を倒したヘキリプエオの古株達はそうもいかないだろうとラキが反論すると、顔が割れてるやつは逃げればいいとティルは言った。
「それなお前は鼻ピアスでも外したらバレねぇだろ」
「そんなわけねぇだろ!」
とラキは怒鳴った。
相変わらずの2人は仲が悪く、けれど相性がいいように思えた。
「だったらマスターも被害者になれば……」
「残念だか、俺は別件もあるんでな逃げといた方がいいんだよ」
「別件?」
「もしも俺が死んだ時の予備だったんだが……。ここに俺のパソコンがあるだろ?でそのパソコンでリンダは政府にクラッキングを仕掛けてたわけだ」
ルミはビルに乗り込む作戦会議の時、ティルとリンダが、クラッキングがどうとか言ってたのを思い出した。
「そ、俺はクラッカーとしも追われてるんだわ。連絡はあのカフェで」
それだけ言うとティルは去っていった。
それから二十分後。ティルの言う通り、FBIが乗り込んできた。
「またもや
「ああ。だが、またしても置き土産があったな」
「しかも今回は政治絡み……大きいです」
「クソ。次こそは捕まえてやるさ!」
Steal Out 徳野壮一 @camp256
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