Terminalー終点ー
静かな街に、優しい朝日が顔をだす。
今日も、普通の一日が始まっていく。
たくさんの人々が動き出して、静かな街に賑わいが訪れ始めた。
少女は街を見渡せるこの小高い丘の小さな廃駅のホームに座って、そばに咲いていたアリウムの花をじっと見つめていた。
小さな廃駅の入り口は、立ち入り禁止の看板があり、柵によってふさがれていて、
駅の外見は、だいぶ昔に使われなくなったのか、ところどころ廃れている。
けれど、さまざまな植物が駅の周りに包むように生えていて、まるでパワースポットのような神秘的なものを感じさせる。
まるで時間が止まっているようなこの空間に、少女は一人で駅のホームにじっと座っていた。
まるで、ここが彼女の居場所であるかのように。
「おねえさん、何をしているの?」
小学生くらいの男の子が不思議そうな顔で少女を見つめて、尋ねてきた。
少女は少し驚いたような顔を見せて、男の子のほうを見ると、遠くのほうで、男の子の友達であろう小学生たちがかくれんぼで遊んでいるのが見えた。
少女は、男の子のほうを向いて、じっと瞳を見つめながら「私の大切な人をまっているの」とささやくように言った。
男の子は、意味がわからなかったのか首をかしげて、不思議そうな顔をした。
すこしの沈黙が流れた後、男の子はなにか思いついたような顔をして、ランドセルの中からきれいな紫色のカキツバタの押し花を取り出して、少女の前に置いた。
「私にくれるの?」と少女は尋ねる。
男の子は、満足そうにうなずき、友達のほうへと走っていった。
少女は、男の子の背中を見つめながら、少し嬉しそうな表情を見せて笑った。
それから数か月後、今度は80代くらいの女性が駅を訪れた。
少女は今日もホームに座って、街を眺めている。片手には男の子がくれたカキツバタの押し花が握られている。
女性は駅の入り口に立って、中のホームを見つめる。
女性は少し空を見上げた後、真っ白なニリンソウを持って駅の前にそっと置き、その場で目をつむっていた。
少女は、その姿を見て、悲しさを感じたのか暖かい涙が頬を流れる。
「・・・」少女は何かを呟いたあと、また街のほうを見た。なぜか、少女の手にはニチニチソウが強く握られていた。
少女は、ある夏の夜、駅のホームで夜空の星を見上げていた。
街のほうは夏祭りで賑わっていて、祭りの屋台の光が夜を照らしている。
駅の周りには以前より植物が増え、色とりどりの花が駅の周りを囲んでいて、夏の夜空の無数の星々と合わさって幻想的な風景が広がっていた。
手を伸ばせば天に届きそうなくらい、きれいな空が広がった夏の夜だった。
「長い間、待たせたね」と少女の後ろから声がした。
少女は後ろを振り向かず、じっと夜空を見つめて「ほんとに、長かったよ」と呟いた。
きれいな花火が色とりどりの花を咲かせる。
「君はやっぱりここにいたんだね、あのときから変わらないな」
「そうだよ、ずっとずっとここで待ってた。」
「私も、君と会える日をずっと待っていたよ」
花火が天高く舞い上がり、街を照らした。
「やっと終わるんだね」
「いや、始まるのさ。今から」
「だね、なら帰ろっか」少女は後ろを振り返って笑顔で手を差し伸べた。
街の明かりがぽつぽつと消え始める、駅のホームには手をつないだ少女と少年の姿があった。
最後に大きな花火が打ちあがった、花火の大きな音とともにどこからか汽笛の音が聞こえた気がした。
花火の輝かしい光に駅も包まれる。
そして花火が終わると静けさが訪れ、駅にも寂しさが感じられた・・・
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静かな空気が場を流れる、あたたかな日差しが部屋の中を包む。
「おじいちゃん、笑顔でねてる」と小さな男の子が言った。
「おじいちゃんはあの子に会いに行ったの」
「あの子って?」
「おじいちゃんの大切なひとよ」
窓際には、花瓶に飾られたマリーゴールドが花を咲かせていた。
「おじいちゃんがいつも大切にしてたこの手帳見てもいい?」と小さな男の子が棚の上から手帳を持ってきて聞いた。
「いいわよ、 確かおじいちゃんはお花が好きで花言葉とかよくメモしてたのよね」とお母さんは懐かしげに返す。
男の子が付箋の貼っていたページを開けるとそこにはこう書かれていた。
アリウム・・・「深い悲しみ」・「幸運」
カキツバタ・・・「幸運は必ず訪れる」
ニリンソウ・・・「友情」・「ずっと離れない」
ニチニチソウ・・・「楽しい思い出」
マリーゴールド・・・「悲しみ」・「変わらぬ愛」
サネカズラ・・・「再会」
今日もありふれた日常が始まっていくのだろう。
終わりがあれば必ず始まりもある、今日も何かが始まっていく。
心の中身 短編集 蒼澄 @books2525
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