(SSG)

祖母が認知症になって既に20年。


今年85歳だから、65の時には既に認知症と診断された事になる。


随分と早いなと、今年65になる母を眺めて思った。


祖母の見舞いに特養を訪れると、体の小さな祖母が大きな椅子にすっぽり埋まり、ニコニコと手に持った花を眺めていた。


野草と言った方が正しいそれは、散歩の時にでも摘んだのだろうか。


「あら珍しい。これ、婆ちゃんの実家の方に咲く花よ」


母が楽しそうに言うが、私には雑草の見分けはつかない。


「婆ちゃん、これどうしたの?」


「えー。みっちゃんには教えてあげるね」


幼い口調で祖母が応じる。


『みっちゃん』とは祖母の幼なじみの名前で、母や私をそう呼ぶ事が多々ある。


「土地神様のお嫁さんになるの。明日、お迎えが来るのよ」


囁く祖母の言葉を聞き流し、祖母の手をさする。


いつも通りに面会を終えた。


祖母の心肺が停止したのは、翌未明だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

約束 右左上左右右 @usagamisousuke

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る