自由研究~オジサン~

右左上左右右

(ベリショーズ掲載作品)

父が事故で他界し、遠い親戚だという知らない人がボクを迎えに来た。


お葬式とか色々手配してくれた父の会社の人が、呼んだのだと言う。


正直、背の高い猫背のオジサンと名乗るその人を信用できる筈も無いが、小学生1人どうやって生きれば良いのかも分からずに、言われるがまま山と海しかない島について行った。




 なぜか、オジサンの名前は聞かなかった。


「オジサン」は1人しか居なかったので不便は無かった。


オジサンも「君のオジサンだよ」と言っただけだった。




 オジサンは奇妙な人だった。




 小学校は別の島にあるのだけれど、毎朝ボートで送ってくれて、下校も迎えに来てくれた。


島には他に人が住んでないし、買い物はいつも学校のある島でしていた。


仕事をしている風に見えないし、かといって遊んでいる風にも見えない。


お金が無いわけでもないけれど、家は古くてお化けが出そうだった。


トイレはボットンて言うらしい穴が開いてるだけ。


満タンにならないのかと聞いたら笑って「業者に頼んでるよ」と言っていた。




 食事は芋やキノコや野菜が多かった。


給食で魚も肉も食べれるし特に不満は無かったけれど、なんだか不思議で一度だけ聞いてみたことがある。


「お肉は食べないの?」と。


困った笑顔を浮かべたオジサンに、慌てて「ボクはお肉嫌いだから」と伝えると、黙って頭を撫でてきた。


その時に、二度とこの話をしてはいけないと、そう思った。




「おはようございます」「いただきます」「ごちそうさま」「行ってきます」「ただいま」「おやすみなさい」以外の会話を特にしたような覚えが無い。




 オジサンとの別れは唐突だった。


ボクにとっては。




 中学3年になった春、学校に知らない大人が迎えに来た。


母の従兄夫婦と名乗るその人達は、オジサンからの手紙を持っていた。


これからは母の従兄夫婦がボクの面倒を見てくれるので帰って来るなという内容だった。


オジサンの字に間違いない。


こんなやり方は卑怯だと怒るボクに、従伯父は海の方を指差した。


遠く、船でオジサンが手を振っていた。


なぜか、見えもしないのに、泣いている気がした。


もう、会えないのだと、これが最後だと、泣いている気がした。




 その後、本州に戻って子供の居ない従伯父夫婦にとても可愛がられて、僕は大学にまで行かせて貰えた。




 さて。


大学生の夏休みは長い。


バイト代も潤沢に貯まった。


従伯父夫婦、否、両親には許可を取った。




 僕の夏休みの自由研究は、『謎のオジサンの正体』だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

自由研究~オジサン~ 右左上左右右 @usagamisousuke

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る