第68話 鎌倉入りを北条執権に阻まれる




 足かけ3日をながさごに留まり、衆生に懇ろな念仏賦算を行った時衆の一行は、3月1日未明、新たな同行者を加えた22人で鎌倉を目ざして出立いたしました。


 でも、北条時宗執権さまは一遍上人さまを鎌倉へ入れてくださいませんでした。

 8年に渡る遊行で、初めて厚い法の壁に阻まれることになったのでございます。

 小袋口の木戸から追われた一行は、近くの山中で夜を明かすことになりました。


 すると、どうでしょう。

 昼間の押し問答を伝え聞いた民衆が、粥が煮え立つ鍋、熱い汁を入れた桶、干魚や野菜の煮物を入れた行器ほかいなどを次々に運んで来てくれたではありませんか。


 おかげで思いがけなく賑やかな夕餉になりました。

 一遍上人さまは名声を得んとて鎌倉入りに挑戦されたわけではございませんが、北条執権さまの頑なな対応によって、かえって高名を得た結果となったのです。


 あくる朝、そこからひと山越えた片瀬川の近くの館の御堂というところに移り、みんなで断食を行いながら、4日間に渡る「別時念仏」を開始いたしました。


 ここへもまた大勢の民衆が集まってまいりましたが、その内のひとりに、のちに生阿弥陀仏さまを号される上総の方がいらっしゃいました。北条執権さまご帰依の当代随一の名僧・願行上人さまのご門弟でいらしたこの方は、一遍上人さまから「十念」(南無阿弥陀仏を10回称える)を受けられたのでございます。


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