第54話 佐久・伴野荘の市庭




 伴野荘の市庭いちばに着いたのは、数え日と言われる歳末のことでございます。


 市と申しても名ばかり、痩せ犬や烏ばかりウロウロするうらさびしさでございましたが、上人さまはそこで歳末の「別時念仏」を7日間にわたって催されました。


 その間、一遍上人さまを筆頭に、わたくしたち8人の時衆は、ものみな凍り付く酷寒の戸外で吹きさらしの地に座し、一日一食、供養の稗粥をいただく以外はなにひとつ口にせず、ひたすら念仏称名をつづけるのでございます。それはまさに命を賭した極限の苦行でございました。ことに超二房の哀れさは……。(´;ω;`)ウゥゥ


 かくて7日目の未明のことでございます。


 朝日が当たり始めた西の山並みの端に、美しい紫色の雲があらわれたと思うと、見る見る横に大きく広がってゆき、同時に神々しい五色の雲に変じ始めました。


 これを見た地元の人びとは「こは如何に?! 瑞相ずいそうじゃ、瑞相じゃ、瑞相があらわれたのじゃ!」口々に叫びながら空を仰いで、あたりは騒然となりました。


 騒ぎをよそに、一遍上人さまは平静な面持ちで念仏を称えておいででしたので、わたくしたち時衆もそれに倣っておりましたが、このうわさはたちまち近隣の村々に伝わりまして、瑞相見物の人たちがたくさん押しかけてまいりました。


 なかには杖を突いたり、土車を押す人もいます。

 上人さまはすべての人たちに念仏賦算をなさいました。

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