第30話 高野山から熊野三山へ




 四天王寺に7日参籠した上人さまがつぎに目指したのは高野山でございました。


 南門前の熊野街道は熊野詣の善男善女で賑わっておりましたが、その道ではなく近くの辻から伸びる高野街道を選ばれたのは、菅生の岩屋で弘法大師さまと同様な体験をされ、生命の根源を大宇宙に求める真言密教に惹かれていたからでございましょう。


 なれど、高野山は女人禁制でございます。

 それゆえ、念仏坊さま、超二房とわたくしは、やむなく「女人高野」と呼ばれるふもとの慈尊院で待機し、弘法大師さまの御影に向かい念仏を称えておりました。


      *

 

 やがて高野山を発った一行が向かった先は熊野三山でございます。


 日本神話の「根の国」であり、死者の霊魂がこもる「隠国こもりく」、あるいは「隠野こもりの」と言われる熊野宮は、信濃・善光寺と同じく死者とひとつになることができる、真の霊域とされておりました。


 むかしから「蟻の熊野詣」と言われるほど、貴族や御家人から庶民に至るまで、多くの参詣者を集めており、念仏僧にとっては格別に神聖な霊地でございます。

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