第24話 わたくしたち母子もお連れくださいませ
烈しい悲嘆の嵐が吹き過ぎると、虚しい諦めがやってまいりました。
千都さまはまだ細かく肩を震わせておられましたが、不思議なことに、わたくしは泣くだけ泣いてしまうと、妙にさっぱりとした、爽やかな心持ちになりました。
上人さま仰せのとおり、人間は結局、ひとりで生きねばならないのです。
なのに、だれかに頼ろうとするところに、無理が生じるのでございます。
ひとりで生まれて、ひとりで死ぬことは、命あるものの宿命でございましょう。
その自然の摂理に逆らい、わが生を人任せにしようとした、それがたとえ夫であっても。そこに大きな誤りがあったことに、わたくしは初めて気づきました。
であるならば…….
わたくしは自分の決意をはっきりと申し述べました。
――わたくしたち母子も一緒にお連れくださいませ。
一瞬、座に静寂が広がりました。
上人さまはかっと目を見開き、まじまじとわたくしをご覧になりました。
千都さまは、なみだで濡れそぼったお顔を、はっとお上げになりました。
聖戒さまは恐ろしいものでも見るようにわたくしを凝視しておられます。
わたくしは3人の視線を跳ね返し、昂然と胸を張って再び申し上げました。
――畏れながら、菜々とわたくしもご遊行にお連れくださいませ。
驚きから醒めた上人さまは、
「何を申すか! 女連れの遊行など聞いたこともない。第一、女は不浄じゃ!」
かっとばかりに咆哮されました。
わたくしは必死に言い返しました。
「お言葉ではございますが、女を不浄と見なされるのは、衆生済度の道に背くのではございますまいか。決してお邪魔にはなりませぬ。あとから就いてまいるだけでよいのでございます。打ち捨てておいていただいて結構でございます。足手まといにはならぬ覚悟はついておりますゆえ、どうかどうかご一緒させてくださいませ」
上人さまがどう仰せになろうとも、決して退くつもりはございませんでした。
どこまでもお縋りして同行させていただく、それしかないと思い決めました。
愛する夫とのあいだに娘までいるというのに、幼馴染みとの邪恋を立ちきれずにいる、そのうえ、上人さまの目をかいくぐって注がれる聖戒さまの若々しい視線にもひそかな喜悦を覚えている……まことにもって罪深いわたくしでございます。
このままでは、いつかだれかを決定的に傷つけてしまうにちがいない。
そう思うと、われとわが身の恐ろしさに
それに……菜々。
娘はわたくしの命そのものでございます。この子なくしてどうして生きてまいれましょう。この子とて、母のわたくしなしに、生きてはゆけないのでございます。
常盤御前さまが幼い義経さまを手放すときに守護神として持たせたという小さな弥勒菩薩、また、壇ノ浦の戦で、ご生母・時子さまに抱かれて海中に没した安徳天皇さまを横目に、敵の熊手に毛髪を引かれ、ひとり生き永らえる地獄を味わう運命にあられた建礼門院徳子さまが、後年「生きながら
人の世のあまりな無惨に思いを致すにつけ、せめてひとりで生きてゆける年頃に成長するまでは、菜々をわが手元に置いておこうと、堅く心に決めておりました。
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