第20話 頌を得て菅生の岩屋に籠る
信濃・善光寺から帰郷した上人さまが窪寺の草庵に籠られて3年後、文永10年(1273)初夏のことでございます。
ただひとり出入りを許されていた聖戒さまを、上人さまはいつになく晴れやかな笑顔で迎えられました。両のまなこは窪み、頬は削げ、お顔の色も優れませんが、ふたつの眸には一点の曇りもなく、清らかに澄んでおられたそうにございます。
その眸を聖戒さまに据えた上人さまは、悟りの境地として
十劫正覚衆生界
一念往生弥陀国
十一不二証無生
国界平等坐大会
幼くして母を亡くした傷心の少年を九州へ出立させるとき父上・通広さまが贈られた「浄土三部経」を授けて熱心に学ばせていた聖戒さまに、「よいかな、聖戒。南無阿弥陀仏の六字名号を唱えれば、われらはだれでも浄土に往生できるのじゃ」と諭される上人さまのお顔は、神々しいまでに光り輝いていたそうにございます。
それから間もなく、上人さまは窪寺の南、久万高原の
見上げるだに恐ろしげな断崖絶壁に掛けられた細い梯子をよじ登って、上人さまが籠る仙人堂まで水や食べ物を運んでくださっている聖戒さまも、途中でうっかり下を見ようものなら、足が竦んで動けなくなる、そんな凄まじい修験場でございました。
垂直に屹立する断崖のはるか上方に、そのむかし、どのような修験者が掘られたものか、人ひとりがやっと寝起きできる狭い岩穴が
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