第16話 実有の邪恋
けれども、わたくしには千都さまにも打ち明けられない秘め事がございました。
縁先で夜具の手入れをしていたわたくしは、鋭い視線を感じて顔を上げました。
裏庭の
にわかに早鐘を打ち始めた胸を押さえて、わたくしは慌てて部屋に駆けこんで、ぴたりと障子を閉めましたが、動悸はなかなか治まってくれませんでした。
脳裡の奥に封じこめておいた、おぞましい記憶がよみがえりました。
憑かれたようなまなざしは、きっとあの男、
夫の出家を聞き、またしても忍んでまいったのでございましょう。
――ああ、いや。
わたくしは薄べりに身を投げ、両手で耳を押さえました。
――だれか、助けて!
叫びたくても、声を出せるはずもありません。
わたくしがそれほどまで恐れ慄いているもの、それは常軌を逸したとしか思えぬ実有の恋情であり、それに負けてしまいそうな、わたくし自身でございました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます