第15話 40年ぶりの大飢饉
幸いにもと申しますか、当分のあいだ、ふた組の母子がつましく食べていかれるだけのものは確保されておりましたので、辛うじて飢えることもなく、細々とした暮らしを営んでいくことができましたことはありがたいことでございました。
実際、このころ、世間には飢餓に苦しむ人びとがあふれておりました。
わたくしどもの
食糧が尽きた春先から急に死者が増え、7月に入ると死人を抱いて往来を行き交う光景が珍しくなくなり、野外に放置された遺骸の腐臭が巷に満ちて、天下の人種の三分の一を失す……と言われた「
さような塀の外の状況を思えば、不平や愚痴を申し立てるべきでないことはよく承知しておりましたので、夫のいない胸のなかの飢餓感は千都さまとふたりだけの秘密になり、秘密の共有は、ふたりの妻をいっそう近づけることになりました。
千都さまは、あの舌足らずな甘やかな声で「綾乃さま」と慕ってくださり、わたくしはわたくしで、悲嘆を同じくするわが妹よと労わるようになっておりました。
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