第7話 ふたり目の妻として





 話は冒頭に還ります。


「綾乃。そなたはどう思う?」と言ってわたくしの顔を覗きこまれたあの方の目の、炯々けいけいとした光に射抜かれたわたくしは、その場に立ち竦んでしまいました。


「わたくしのせいと仰せになりたいのでございますか?」そう問い返したかったのですが、千都さまの前では口にできません。じっと唇を噛んで耐えておりました。

 

 千都さまはあの方の妻でいらっしゃいます。

 なれど、わたくしもまた、あの方の妻……。

 

      *

 

 小禄を食む御家人の娘があの方のお目に留まったのは、集落総出の田植え祭りのときでございました。村の早乙女に混じって田植え歌をうたい舞っていたわたくしを、たまたま馬に乗って通りかかったあの方がお見初めになったのでございます。


 わたくしもまた、大きな才槌頭さいづちあたまに、乙女心を掻き立てずにおかぬ男前、見惚れるような偉丈夫の虜になり、心をときめかせて河野家のお屋敷に嫁いで参りました。

 

 夫婦になってみますと、詩歌も能くされる、繊細なお心の持主でもいらっしゃいましたので、ぐいぐいと惹かれていく自分が空恐ろしくなるほどでございました。


 好きで好きで堪らず、一日中ぼうっとあの方に見とれているのでございます。

 わたくしの魂魄は根こそぎあの方に奪われて、抜け殻になってしまいました。

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