第24話 追跡者の【謎】
三人で本多君の雄姿を見届ける。
そして、当然、僕達は共通の認識――いや、疑問が浮かぶ。
「おかしいぞ……こいつ……」
「なんなの――このプレイヤーは……」
明白な違和感。説明が付かない内容に一冬と鈴木さんが声を漏らす。
「本多君の動きは十分うまく動けてる。知り尽くされた恒常マップならともかく、こんな初見のフィールド、しかも入り組みつつも整然とした迷宮奥部のような場所で、どうしてあれほど正確に本多君の位置がわかるの?」
「撃ち合いの対応もだ。このストーカー野郎、撃ち合う最中、迷い無く本多が頭狙いだと判断しやがった」
このストーカーの動きは、確かに初心者レベルじゃない。だけど、熟練者(プロレベル)というには、まだまだ無駄な動きが多すぎる。
「本多君のフレンドリストのキャラネームは明らかに捨てアカウントっぽい。アカウント停止を受けて、凍結されても構わないと言わんばかりに繰り返している違反行為からして、おそらくストーカーは、このゲームが本命じゃないのだろう。それに、この動きから察するに、たぶん始めたのはそれほど前からじゃない――せいぜい三か月ってところのはず」
鈴木さんも、一冬も僕と同じ見立て。
だからこそ、違和感だけが残り続ける。
「ちぐはぐだ……まるで高性能のレーシングカーをペーパードライバーが乗っているかのような……不釣り合いな状況」
認識能力(動き)、予測能力(対応)、駆け引き(読み合い)は僕らレベル、いやそれに対応している時点から、僕ら以上なのかもしれない。
なのに
セイグリッド・ウォー以外のFPSゲームの熟練者なのか?
それとも一冬のように、
いや、それも説明が付かない部分がある。
「普通、レーシングカーに乗る人はそういうトレーニングをするものでしょ? それにレーシングカーに乗り続ければ自然とスキルもその基準に合ってくるものよ」
そう。彼が別ゲームの熟練者であれ、特別な能力を持っているにせよ、それなら自然とそれに適応したスタイルができあがる。並外れた身長を持つNBA(バスケット)プレイヤーが、日本人のように相手の懐に潜り込んで小回りを活かすプレイスタイルにはならない。
あのストーカーの動きは、明らかに誰かを参考にした
「答えが出ない時は、視点を変えてみよう」
僕は鞄から一枚のプリントを取り出し、二人に意見を求める。
「これは、よくある数学の小テスト――これに置き換えてみよう。鈴木さんなら、この数学の小テスト問題をどうやって解く?」
「そうね、私なら反復ね。繰り返し似たような問題を解き、頭と手に染みこませる。そうすれば、問題を読んだり、考えたりする時間を短縮できる」
彼女のプレイスタイルと同じ――長時間維持できる集中力を持つ鈴木さんが最も力を発揮できるやり方だ。
「一冬ならどうする?」
「んなもん基礎さえ押さえておけば、応用なんて簡単にできる。あとは正確に、ミスせず処理していけばいい話だ」
一冬は僕や鈴木さんと違い、それが最初からできるほどの、基本スペックを持っている。
A,B,C,Dという順で難しい問題に対して、一冬はAという問題を解くことでDという問題まで解けるようになる。それがギフテッドという人間の特徴。
僕ならどうする? 決まっている。
「僕ならテスト作成者の先生の性格や傾向を分析する。過去に先生がこの時期にどんなテストをしていたのか――学校のセキュリティにでも侵入してバックデータを漁る」
それを聞いて、僕とみてからやや呆れたため息をつく。
卑怯者とでも罵るかい? だけど、これが僕の基本理念だ。テストなんてものは『教師(人)』が作るものだ。
そして、人にはみんな固有の考え方があり、それはどうしたってすべてを隠すことなんてできはしない。そこを僕は存分に利用する。
「このテストも、ゲームも、本質は変わらない。どうやってその問題を――敵を排除するかは人それぞれ違い、その過程に正解なんてものはない」
問題を解くという結果に繋がる『過程』。
答えは一つでも、それを導き出すやり方は多種多様だ。
つまり、経過にこそ人の個性――つまり武器がある。
「では、このストーカーにはどんな過程で問題を解いているのか――そこに彼の強さの秘密がある」
僕は自分のパソコンをいじり、一つのデータを出す。
「これはストーカーと本多君の対戦成績だ……この二週間プライベートですべて、このストーカーにキルされている」
本多君がストーカーに出会ってから今日まで、二百三十五戦中全敗。
「は? そんなのありえねぇだろ」
そう。一冬の言うとおり、これはありえない現象だ。
「チーム戦ならフレンドが優先されるのはわかるわ。でも本多君がやっていたのはクイックマッチでしょ? それなら、マッチングなんてほとんど不可能よ」
クイックマッチで使用されるサーバーは、公表しているので全世界で全百五十サーバー……クイックマッチでは、そこからランダムに選ばれマッチングされる。
「つまり、運営の説明では、どうやってもこのゲームでストーカーが本多君に『粘着』することなんてできないんだよ。クイックマッチという、ゲームの使用上ではね」
なのにストーカーは必ず本多君とマッチする……これはもう、普通じゃない。つまりは――
「このストーカーは『チート』野郎ってことか!」
ゲームの仕様、ルールを壊すのが不正行為(チート)。
現代では、セイグリッド・ウォーにかかわらずオンラインゲームでは常時AIによってすべてのプレイが監視されているため、『不正プログラムの使用』や『チートバグ技の利用』はできないと言われている。
だから本多君の位置がわかるようなマーカーを設置することも、昔のゲームにありがちな『無限空中ジャンプ』や『倍速移動』もできない。
「だけど、ストーカーはその監視AIの目を潜り抜けてこういった行為を行っている。仮にこのチートを名付けるのなら『トレーサー・プログラム』」
そして、トレーサープログラムには対象者への自動マッチング以外に、確実に『もう一つ』ある。
それがあるからこそ、本多君は彼に負け続けっている。
そのもう一つが――このトレーサーの強さの秘密であり、最大の武器だ。
「トレーサーのもう一つのチートってなんだ……」
改めて、その武器がもたらした結果を並べてみる。
①ストーカーは、本多君の居場所が常にわかっている。
だから、誰よりも先に彼を見つけられる。
②ストーカーは、本多君のやろうとしている未来がみえている。
だから、それを未然に防ぐことができる。
③それらを知るのに、複雑なことはしていない。
だから、常時リアルタイムで処理しているからこそ、見た目にもほとんど怪しい動きをしているようは映らない
①、②、③、この三つをおそらく同時に行える方法とは。
「それはまだ僕にもわからない。でも、おそらくそれは、恐ろしく大胆で――明解な答えだ」
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