やるせなき脱力神番外編 聞こえる

伊達サクット

番外編 聞こえる

「一体何なのお前? 意味分からないんですけど?」


 平従者・ホケケムラは幹部従者・ユノに厳しく言い放った。


「ホケケムラ君……。申し訳ありませんです」


 頭を下げて謝罪するユノ。


「いや『申し訳ありませんです』じゃなくて。何で俺が悪霊なんかと戦わなきゃいけないわけ? 意味分かんないんですけど。アンタ辞めれば? いらねーよお前」


 再びホケケムラは口を極めてユノを罵る。


「分かったです。辞めます」


 ユノは何も感情を感じられない無表情のまま、すたすたとその場を去っていこうとする。


「おい待てよ! その前に俺を他の隊に異動させろよ。頭悪いなぁ!」


「分かったです」


「まともな人のすることじゃないよね? 普通に頭おかしいよねアンタ? 上司じゃなかったら殺してるんですけど? それとも何か? アンタ俺を怒らせて犯罪者にしたいわけ?」


 入社初日、勤務一日目の話であった。


 その日の午後からホケケムラはロシーボ隊へ異動した。







「うわ何なのこの隊!? キモいんですけど!? うわキモッ!  キモッ!」


 ロシーボ隊に配属されるなり、ホケケムラは激しく拒否反応を示した。


「ホ、ホケケムラ……お前……」


 ロシーボはどうしていいのか分からないといった様子である。


「う~わっ最悪! マジ最悪! っていうかキモッ! 超ヤバいんですけど!?」


「わ、分かった! すぐ他の隊に異動させるから! ちょっと待ってろ」


 ロシーボが自分からそんなことを提案しだし、ホケケムラに背を向けた。


「当たり前だ!」


 ロシーボの背中に向けてホケケムラは怒鳴った。







「ニチカゲってあのデブ? うわキモッ。この俺様にデブの下で働けってか? え? 何? 今日はエイプリルフールですか?」


 ニチカゲ隊に配属されたホケケムラはその一言で他の隊に異動となった。


 ニチカゲと一言も話さないうちに。







「アンタがハイム? 忍者の女ってヤリマンなんでしょ?」


「はぁ……」


 ホケケムラの開口一番の問いに対し、冷めた目を向けるハイム。彼は他の隊に異動となった。







「ぶちちちちぶっちょぶっちょぶっちょ! あばばばばばアンビシャス! アンビシャスアソパソマソ!」


 これはハチドリ隊に異動となったホケケムラが、ハチドリと対面した際、まず一番に言ったセリフであった。


 ハチドリは今までの幹部達とは違い、普通にホケケムラを使おうと実戦に投入した。


 彼は戦闘中にも上記と同じセリフを連呼した。彼が戦闘中やったことはそれだけだった。


 彼は他の隊に移動となった。







「はぁ? 何で俺が悪霊と戦わなきゃいけないわけ? 何度言ったら理解できるの?」


 ホケケムラがヴィクトに問う。


「お前何でウチに入ったんだ?」


 ヴィクトがホケケムラに問う。


「質問を質問で返すな」


 怒るホケケムラ。


「戦闘員だから」


 答えるヴィクト。


「あ゛ぁ゛!? 弁護士呼ぶぞコラ」


 凄むホケケムラ。


「いいけど」


「っていうかこの隊がおかしい。もっとまともな働き方ができる常識的な隊に異動させろ」


「ユノ隊、ロシーボ隊、ニチカゲ隊、ハイム隊、ハチドリ隊ってきて、俺のところに来たんだろ?」


「ああ。特にハチドリ隊は最悪だったね」


 吐き捨てるようにホケケムラは言った。


「じゃあお前もうこの組織辞めた方がいい。向いてないよ」


 ヴィクトが言う。


「あ゛ぁ゛!? 弁護士呼ぶぞコラ。他の隊に俺を移せ」


「……いや、他はもう……」


 内心頭を抱えながらヴィクトは言った。


「あ゛ぁ゛!? 殺すぞこのビチグソが!」


 激昂するホケケムラ。残りはもうジョブゼ隊、レンチョー隊、シュロン隊ぐらいしかない。


「いやぁ……。退職した方がいいと思うよ……」


 ヴィクトは彼を守るための言葉をしぼり出す。


「俺をクビにしたらこの屋敷に火をつけるぞ。いいのかコラ。人が丁寧な態度してるからってつけ上がってんじゃねーぞコラ」







~エンディング1・ジョブゼ隊~




「はぁ!? 雑魚が何イキッってんの!? イキリ過ぎで草」


 ホケケムラはジョブゼに言った。


「そうかそうか。お前相当自分の強さに自信があるんだな」


 嬉しそうに笑うジョブゼ。


「つーかその顔で笑うのやめろ。気色悪いんだよ」


「おー、そうかそうか。どうだ、一つ俺と手合わせしないか?」


「いやいいよ手合わせなんて。つか何でそうなるんだよ」


「まあそう遠慮するな。当然そんな態度するぐらいに強いんだろ? 俺にその実力見せてくれよ」


 ジョブゼは楽しそうにホケケムラを闘技場に引っ張っていく。


「え? ちょ、ま、やめ、わっ、バカ、誰か、助け……!」






「うっぎゃああああああああ!」






<終わり>







~エンディング2・シュロン隊~




「ふざけんな。俺をクビにしたら仕返しに冥界ッターでこの組織ブラックだって拡散してやるからな。それで労基署に訴えてから、ウィーナを肉便器の性奴隷にしてやる」


 ホケケムラがシュロンにそう言うと、周囲の隊員達が皆一様に顔面蒼白になりおびえ始めた。


「や、やめろ! シュロン殿に逆らうな!」


 平従者ナカクラがホケケムラに忠告するが、彼は無視した。


「ごめんなさい。許してちょうだい」


 シュロンはホケケムラに対して下手に出る。


「舐めてんじゃねえぞ! 謝って済むと思ってんのかよこのクソビッチ!」


「分かってますわ」


 そう言って、シュロンはホケケムラに小声で耳打ちした。


「お詫びに、わたくしと、今夜二人っきりで会わない? 誰にも言わず、一人で来て……」


「ムホッ! いいだろう。ぶひひっ」


 ホケケムラは興奮してブヒブヒ言い始めた。






「……ホケケムラの奴、ずっと無断欠勤が続いているな」


「ああ、逃げたか、それとも……」




<終わり>











~エンディング3・レンチョー隊~




「いや~待っていたよホケケムラ君! 君のような人材を我々の隊はほしがっていたんだ!」


 レンチョーは非常に優しくホケケムラに接した。ホケケムラのことを優秀だとベタ褒めだった。


 このような幹部はこれまでにいなかった。なので、ホケケムラはすっかり気をよくした。


「いや~それほどでも、まあ当然の結果ですがね! フハハハハ!」


「このレンチョー隊はアットホームな職場だよ。やりがいこそ一番の財産! 未経験者大歓迎! 必要なのはやる気と笑顔! 夢に向かって頑張ろう!」


 ポジティブは言葉を連発し、爽やかな印象を存分に振りまくレンチョー。


 やっとまともで良識的な思考を持つ上司に出会えた。ホケケムラはそう確信した。




一ヶ月後~




「ワ・タ・シ・ハ……レ・ン・チョー・ド・ノ・ニ・シ・タ・ガ・イ・マ・ス……。ワ・タ・シ・ハ……レ・ン・チョー・ド・ノ・ニ・シ・タ・ガ・イ・マ・ス……。ワ・タ・シ・ハ」




<終わり>

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