第22話
帝国の鉱山王のひとり、
彼は元々はうだつの上がらない坑夫だったのだが、若い頃に飲み屋で知り合った吟遊詩人の若者に、とある歌を教えてもらった。
その歌を口ずさみながら採掘をしていたら、伝説の魔法石を掘り当てる。
掘り当てた鉱石は本来は地主のもので、坑夫はその歩合を貰えるだけなのだが、彼は魔法石をこっそりと持ち出し、莫大な利益を独り占めにした。
その金を元手に鉱山を買い取り、あれよあれよという間に『鉱山王』という地位にまで成り上がった。
ひとりの吟遊詩人と出会ったことで、底辺から一気に勝ち組となった彼。
しかし今は、苦境に立たされていた。
王様の執務室のような豪華な部屋の中で、彼は部下たちを前にレッドカーペットを踏みにじる。
「どかっ! どかっ! どかっ! なんで急にクズ鉱石しか採れなくなったんじゃ!?」
「わかりません。でもそれよりも先に、落盤事故のほうの対処を考えないと……」
「どかっ!? なにを言っとるんじゃお前は!? 落盤事故なんてどうでもいい!」
「ええっ!? でも、坑夫たちはケガ人続出で……!」
ドカロックは、「どかっ!」と部下を殴り飛ばした。
「そんなのはいくらでも換えがおるじゃろうがっ! でも高価な鉱石はそうはいかん! 早いところ、なんとかするんじゃ!」
すると、開けっぱなしの部屋の扉から、別の部下が急ききって飛び込んできた。
「ドカロック様! 大変です! この近くの国で、金鉱石や魔法石が採掘されたそうです!」
「どかあっ!? なんじゃと!? 今はどの鉱山も、鉄クズしか出ないというのに……!? それはどこじゃっ!?」
「は……はいっ! ディソナンス小国のコルベール領にある、ストーンビレーの村だそうです!」
「どかあっ!? 帝国外ではないか! ならばちょうどいい、今すぐにそこに行くぞっ!」
ドカロックは部下たちを引きつれ、馬車を飛ばしてストーンビレーへと向かう。
そこでドカロックは鉱山を視察させてもらい、たしかに金鉱石が出ることを確認。
村に戻ったあと、村人たちを集めて演説をした。
「どかあっ!
あなたたちのような素晴らしい同族たちが、こんな『この世の地獄』でくすぶっているなどありえんことです!
ぜひとも、ドカの鉱山で働いてほしい!
このドカが特別に国輪を授け、あなたたちを帝国臣民に迎えましょう!
帝国の鉱山のなかでも、ドカの鉱山の待遇は最高ですぞ!
坑夫たちは安全で清潔な鉱山で、バカンス感覚で採掘を楽しんでおります!
こんな土にまみれる毎日におさらばして、ぜひ、ドカの鉱山に来てください!
……そのかわりというわけではありませんが、あなたたちが帝国に移り住んだあとは、ここの鉱山の権利を、このドカのものに……」
ドカロックは国輪をチラつかせて、鉱山を自分のものにしようとした。
村人たちは帝国臣民になれると、誰もが喜んだのだが……。
「あの、ドカロック様、実をいいますと、この村も鉱山も、すでにワシらのものではないんですじゃ」
「なんじゃと!? もしやすでに、帝国の他の鉱山王が……!?」
「いえ、違いますじゃ、そのお方はいま、ファウラウの街においでです」
「どかあっ!? ならなんでそれを早く言わないんじゃ!
さてはこのドカを騙して国輪だけを掠め取ろうとしていたんじゃな!?
このいやしいゴミどもめ! お前たちのようなヤツこそ、同族の面汚しというんじゃ!」
あっさり手のひらを返したドカロック。
彼は馬車の後ろ足で、村人たちに砂かけをするように村をあとにした。
行先はもちろん、ファウラウの街。
鉱山の持ち主がいるというファウラウ聖堂におしかけ、ひとりの吟遊詩人の青年と話していた。
「どかあっ!
あなたたちのような素晴らしい若者が、こんな『この世の地獄』でくすぶっているなどありえんことです!
ぜひとも、ドカの鉱山の共同経営者になってほしい!
このドカが特別に国輪を授け、あなたを帝国臣民に迎えましょう!」
しかし青年は、口に
「どうせ木の国輪だろ?」
「どっ……どかあっ!? そ、そんなことはありません!
このドカと同じ、『銀の国輪』を……!」
ドカは首筋に光る銀色の首輪を、ことさら青年に見せつける。
しかし青年は、まったく食いついてこなかった。
「ウソつけ。帝国外の人間に『銀の国輪』なんて与えられるわけないだろ。
よくてせいぜい『鉄の国輪』どまりだ。
それに俺に対してだけじゃない。
お前はそうやって国輪をチラつかせて、自分の鉱山の労働力も確保してるんだろ?」
「どかっ!? ど、どうしてそれを……!」
「帝国の手口なんざ、俺にはお見通しなんだよ。
なんと言われようともあの鉱山は渡す気はねぇから、さっさと帰んな」
「どっ……どかあっ!
帝国外の人間のクセして、帝国臣民のドカにそんな態度を取って、タダですむと思うなよっ!」
捨て台詞とともに去っていったドカロック。
そして次の日から、聖堂に対する嫌がらせが始まった。
いかにもガラの悪そうなヨソ者がふらりとやってきては、聖堂を壊したり、礼拝者に暴力を振るうようになる。
……ガシャァァァァァァァーーーーーンッ!
「なっ……なんですか、あなたたちは!?」
「俺たちはなぁ、お前たちみてぇな国輪もねぇヤツらが、いっちょ前に女神信仰してんのが許せねぇんだよっ!」
「お前たちはゴミで作った神様でも崇めてりゃいいんだよっ!」
「さぁ、ここをゴミだめに変えてやろうぜ! ……いっ、いてててて!」
「泣かせんのは、お前らの母ちゃんだけにしときな」
「なっ、なんだテメェは!?」
「あーしら、この聖堂に厄介になってる者だし」
「何の因果か聖女の手先になっちまった。
でもなぁ、お前らみたいなのを見てると疼くんだよ、この右手が。
ゴミをぶちのめせ、ってな……!」
「くそっ! やっちまぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーっ!!」
しかし、聖堂にはヤングとベイリーという用心棒がいた。
彼らはFランクの冒険者だが、そこいらのチンピラに負けるほど弱くはない。
嫌がらせに来たチンピラたちは、みんなコテンパンにのされ、外に放り出されていた。
すると今度はチンピラたちは、みなが寝静まった夜に襲ってくるようになる。
「よし、鍵が開いた。中に入ってメチャクチャにしてやろうぜ」
「へへへ……まさか聖堂のヤツらも、こんな夜に俺たちが来るだなんて思ってもいねぇだろうなぁ」
聖堂の扉をピッキングして、礼拝堂に忍び込んだチンピラたちが、見たものは……。
「お前たちゴミの行動なんざ、お見通しなんだよっ!」
筋肉隆々の、むくつけき男たち……!
男たちはブラッドの声かけで集まった、酒場の冒険者たち。
彼らは交代で番をして、聖堂の夜間警備を引き受けてくれていた。
「なんにもなくてちょうど退屈してたところだ、交代の時間まで、たっぷり楽しませてもらうぜぇ!」
「ひっ……!? ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!?!?」
その聖堂からは夜な夜な、轢き潰されるような悲鳴が轟くようになったという。
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