第21話

 ファウラウ聖堂に、新しい仲間が増えた。


 ヤングは半獣族ハーフビーらしく身が軽く、高い所に昇るのが得意だったので、屋根の雨漏りを直してくれたり、壁のペンキなどを塗り替えてくれた。

 ベイリーは鬼人族オグルらしく力持ちで、薪割りや荷物運びなどの力仕事で活躍してくれた。


 ブラッドといえば、木の枝の上で横になって、遊びほうけるギリギリスのようにギターを爪弾くばかりであった。


 そしてベルラインは、いつもと変わらぬ聖母としての生活に戻っていたのだが……。

 寄進用の銀行口座に毎月振り込まれている、ストーンビレーの村からの寄進の額が、どんどん増えていってることに気付いた。


 ストーンビレーの村は、歌を歌い始めてから落盤事故ゼロになっていた。

 それどころか、いままでは鉄鉱石しか出なかった山から、金や銀などのレア鉱石、さらには魔法石などが採掘されるようになっていたのだ。


 ストーンビレーは1割の寄進が痛くもかゆくもないほどの、一大鉱山村として急成長。

 聖堂に挨拶に来た村長などは、見違えるほどに立派な富豪になっていた。


「いやぁ、ブラッドさんの歌を唄うようになってから、高価値の石がザクザク出るようになりました!

 我々村人一同を代表して、こうしてお礼にまいった次第です!

 ぜひ一度、村の方にも遊びに来てください!」


 ぜひともという事で招かれたので、ベルラインは七つ子たちを連れてストーンビレーを再度訪れた。


 そしたら寒村だったはずの村は、ウソのように様変わり。

 道はすっかり舗装され、豪邸が建ち並び、人々は着飾っていた。


 村人たちはベルラインを村の救世主のように扱ってくれて、村の広場へと案内してくれた。


 するとそこには、ベルラインも「うおっ!?」と仰天してしまうほどの、とんでもないモノが。

 それはなんと、


 ベルライン……!


 天使のようなベルラインが黄金のベルをかざし、悪霊を追い払っているという像であった。


 しかも彼女のまわりには、七つ子たちまで……!


「うわぁ、ベルラインさんがついに彫像デビューしてしまったのです!」

「聖女が像になるのは、これ以上ない名誉なのです!」

「っていうか、フルーちゃんたちまで!?」

「フルーちゃんが珍しく興奮しているのです!」

「彫像デビューとあっては、無理もないのです!」

「っていうか、ティコちゃんたちは何もしていないのです!」

「これこそ、『棚から絵に描いた餅』なのです!」

「なんかごっちゃになってるです!」


 七つ子たちは大いに喜んだが、ベルラインは穴があったら入りたい心境だった。

 真っ赤な顔で、「な、なんでわたしを像にしちゃったんですか!?」と村長を問い詰める始末。


「いやぁ、最初はブラッドさんを含めた像を造るつもりで、ブラッドさんに手紙を送ったんです。

 でもブラッドさんの返事は、ベルラインと七つ子さんだけにしてほしいと」


 ベルラインはファウラウ聖堂に戻ったあと、今度はブラッドに噛みついた。


「ぶ、ブラッドさん! なんでわたしを像に推薦したのですか!?」


 するとブラッドは木の枝の上で、小笛をくゆらしながら答える。


「そりゃ、お前がそれだけのことをしたからに決まってるだろ」


「わ、わたしは像になるようなことは、なにも……!

 だいいち、聖母で像になった聖女なんて、いままでひとりもいないんですよ!?」


「そう謙遜するなって。それに相応しい評価ってのは、あとからついてくるもんだ。そろそろ、お呼びがかかるんじゃないか」


「お呼び……?」


 そのお呼びというのは、他でもない。

 この『ディソナンス小国』の王都からの呼び出しであった。


 王都にある『大聖堂』。

 この国の聖堂を統括する、『大聖教』からの呼び出しであった。


 ついこの間まで聖女のベルラインにとっては、夜空に浮かぶ星にも等しい存在。

 そんな恐れ多い人物に呼び出されたので、ベルラインは不安でたまらなかった。


 やっぱり自分は聖母にはふさわしくない人物だったのだ。

 生意気にも、他の聖女たちをさしおいて像になるなんて……と叱られ、聖堂を取り潰されるのかも……。


 ベルラインはネガティブなので、そんな良からぬことを頭の中でぐるぐるさせながら、大聖教の元へと向かう。

 緊張でカチコチになった彼女が言い渡されたのは、想像もしていないことであった。


 ストービレーの村から悪霊を追い払うばかりか、レア鉱石を出るように村人たちを導いたこと。

 そして村人たちからも慕われ、多くの寄進ばかりか、像として崇められた。


 それらのトリプル役満クラスのの活躍が認められ、なんと『聖教司』へと昇格……!

 ファウラウ聖堂どころか、コルベール領のトップとして認められたのだ……!


 彼女はこのことを聞いたとたん、


 ……バターン!


 と、泡を吹く勢いでブッ倒れたという。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 栄枯盛衰、驕れる者も久しからずや。

 ベルラインがさらなる飛翔を遂げ、ストーンビレーの村が栄華に沸いている、その時……。


 驕れる者たちは、どうなっていたかというと……。

 歌を棄てた帝国の鉱山は、どこも大変なことになっていた。


 いままでは何となく作業の最中に口ずさんでいた歌であったが、それを止めたとたん……。

 金や銀は採れなくなり、鉄鉱石しか掘り出せなくなった。


 そうなると一気に収入が減少する。

 そこにきて、追い討ちをかけるように……。


 落盤事故、多発っ……!


 坑夫というのは採った鉱石によって収入が変わる。

 それまでは高給取りだった坑夫たちは、みな貧乏になった。


 それだけならまだしも、大怪我をして病院に運ばれる者まで……。


 坑夫たちはこのままでは割りに合わないと、転職をする者が続出した。

 そうなると、連鎖的に鉱山の持ち主も悲鳴をあげることとなる。


 なかでもいちばん大きな影響を受けていたのは、帝国で『鉱山王』と呼ばれる者たちであった。

 鉱山の多い土地の領主である彼らは、のきなみ業績が悪化。


 彼らはまず落盤事故を防ぐため、いくつかの手段を講じた。


 ひとつは、名のある聖職者を雇って地鎮をすること。

 もうひとつは、鉱山内を崩れにくくする工事を施すこと。


 しかし、どちらも思わしい成果は挙げられなかった。


 前者は祈りを捧げてもらえば事故は起きなくなるのだが、しばらくするとまた事故が再発する。

 高名な聖職者ほど高額の寄進をふんだくってくるので、何度も頼むというのは金銭的に割りが合わなかった。


 後者は工事にかかる費用は膨大だったが、工事さえ終えれば長く使える。

 しかし大自然の力は人間の力よりもはるかに強く、施工ごと崩すほどの落盤が起こるようになっただけだった。


 この問題の解決方法は、至ってシンプルである。

 そう、歌を解禁すること。


 そうすれば、金も手間もかけることなく、元通りの採掘が可能になる。

 しかし鉱山王どころか、彼らの下で働いている坑夫たちですら、そうは考えなかった。


「これはブラッドの歌を唄っていた俺たちがいけなかったんだ!」


「そうだ! 俺たちが悪魔の歌を唄い続けていたから、山の神様がお怒りになったんだ!」


「いまはじっと耐えるときだ! このお怒りがおさまれば、きっと元通りになる!」


「それまでは、みんなで祈るんだ! うっ……うわぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」


 しかし彼らが祈れば祈るほど、逆鱗を撫でてしまったかのように山は揺れ、落盤は容赦なく坑夫たちを飲み込んだという。

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