第20話

 ブラッドはストーンビレーの村で、ボーンメイカー退治を行なった。

 それは当初、苦労にまったく見合わないだけのわずかな報酬の任務であった。


 しかし、蓋を開けてみれば……。


 村ひとつを手に入れてしまった……!


 ストーンビレーの大人たちは、ブラッドにしてやられてしまった。

 ホクホク顔だったのは、ブラッドと村の子供たちばかり。


 ブラッドはすっかり子供たちのヒーローとなっていた。

 村を出るときも大人たちは誰も見送りに来なかったが、子供たちがみんな見送ってくれた。


 ヤングとベイリーはスカッとした表情で、子供たちに手を振り返す。

 しかしベルラインだけは、浮かない表情だった。


「あの、ブラッドさん……。ここまでする必要は、なかったのではないでしょうか……」


「村を乗っ取ったことを気にしてるのか?」


「はい……」


「なに言ってんだ。俺が鉱山の持ち主だとしたら、本来は鉱山収入はぜんぶ俺のものなんだぞ。それを1割ですませてやったんだから、かなり良心的だろう」


「でも、採掘の利益1割だけでも、あの村の方々にとってはかなりの負担となるのに……」


「それは今だけだから大丈夫。今に見てろって、ヤツらは俺に感謝するようになるから。そうなれば、お前も出世できるだろうな」


 村を出るときに、大人たちは落盤事故にあってもいないのに、怨霊のような恨みがましい視線をブラッドに向けていた。

 そんな彼らがこれから感謝してくれる未来など、ベルラインにはとても想像がつかなかった。


 そしてそれ以上に、なぜ村の人たちに感謝されて、出世できるのかわからなかった。

 『聖母』のひとつ上の階級とえいば、『聖教司』である。


 聖教司といえば、ベルラインの祖母の悲願でもあった。

 祖母は多くの街の人たちに慕われていた立派な聖母であったが、ついに聖教司に昇格することはなかった。


 それなのに、まだ聖母どころか、聖女としても未熟な自分が、どうして祖母を飛び越える未来があるのか……。

 不可能ともいえるようなことなのに、なぜブラッドはここまで自信満々に語れるのか……。


 ベルラインは、とてもではないが信じられなかった。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 1週間以上の長い滞在となってしまったが、ブラッドたちはファウラウの街へと戻る。

 聖堂に戻ると、七つ子たちにワッと囲まれてしまった。


「遅いのです!」

「いったい1週間もなにをしていたのですか!?」

「手紙をよこした? そんなことでは誤魔化されないのです!」

「っていうか、イエロちゃんが手紙を開ける前に転んでしまったのです!」

「それをオレンちゃんがキャッチしそこねて、暖炉のなかにシュートしてしまったのです!」

「過ぎたことをあれこれ言うのはよくないのです! 過ぎたるは及ばざるがごとしなのです!」

「なんだか微妙に意味が違うのです!」


 そしてヤングとベイリーは、ブラッドたちに別れを告げた。


「ブラッド、なかなか楽しかったぜ。また遊んでやるよ」


「うん! あーしらが初めて討伐成功できたのも、ブラッドのおかげだし!」


「そんじゃ、今回の分け前をもらおうか」


「あ、そうだった、忘れるところだったし!」


 「ちょーだい」と手を差し出すふたりに、ブラッドは問う。


「いくらほしいんだ?」


「……いくら? 依頼の分け前ってのは、ふつうは経費を差し引いて分配するものっしょ」


「いいから、欲しい額を言ってみろ」


「なんだぁ? 好きなだけくれるっていうのか? なら1……いや、5万エンダーほどもらおうか」


「わぉ、ヤングってば大胆っ! 5万エンダーもあれば、1週間は遊んで暮らせるし!」


 するとブラッドは、秘書のように横に佇むベルラインをチラと見やって、


「よし、ベルライン、このふたりに100万エンダーほどやってくれ」


 これには当人たちだけでなく、ベルラインも口をあんぐりさせる。


「「「ええっ……!?」」」


 しかし、ブラッドは事もなげだった。


「このくらいは当然だ。だって、お前たちの支度金も込みなんだからな」


「し、支度金……?」


「ああ。お前たちはもう俺のアイドルユニットの一員だ。だから今日からこの聖堂で一緒に暮らすんだ」


「アイドルユニット!? なにわけのわからねぇこと言ってんだよっ!?

 この俺を飼おうだなんて、いい度胸してるじゃねぇか!

 この俺は、どんな鎖にだって縛られねぇんだ!

 ベイリー、お前もそうだろう!?」


「あーしは別に。っていうかさぁ、そろそろあーしらも腰を据えたほうがいいんじゃない?」


「ちょ、お前っ!? いくらんでも迷わなすぎだろ!?」


「だって、あーしら今までいろんなパーティに所属してきたけど、失敗ばかりでいつもお払い箱だったじゃん。

 ブラッドと会わなかったら、あーしら今頃は路上生活してたし。

 それにいいじゃん、少しだけ飼われてみて、嫌だったら抜け出せば」


「くそっ……!」


「よし、契約成立だな」


「ちょ……ちょっと待ってくださいブラッドさん!」


「なんだベルライン、お前も言いたいことがあるのか?」


「ありすぎます! まず、200万エンダーもの大金を、寄進からお支払いするだなんて……!」


「なんだ、金のことを気にしてたのか? そのくらいは余裕であるだろう?」


「ま、街のみなさんがたくさん寄進をくださっていますので、そのくらいはありますけど……。

 って、そうではなくて! 女性のベイリーさんはともかく、男性のヤングさんも聖堂に住まわせるつもりなんですか!?」


「ああ、そのことなら心配するな。俺のアイドルユニットは恋愛禁止だからな。ちゃんと手は考えてある。

 この聖堂の前にある空き家を借りておいたんだ。そこを男子寮にして、俺以外の男はそこに住まわせる」


「おい、ちょっと待て、いまなんて言った!? 恋愛禁止だと!?」


「ああ、俺のアイドルユニットに所属している者は、誰であれ恋愛禁止だ。どうしても恋したきゃ、この俺としろ」


 するとベイリーは「わぉ!」と華やぐ声をあげた。

 しかしヤングは、


「お、お前はなに言ってるんだ!? 俺は男だぞっ!? 誰がお前なんかと!」


「俺は男でも一向にかまわんし、俺を好きになれとは言ってない。だが俺のアイドルユニットに所属する以上、俺以外は恋愛禁止だと覚えておけ」


「ふっ……ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


「ヤングってば彼女いたことないって言ってたじゃん! だったら別にいいっしょ! あっはっはっはっはっ!」


 大暴れするヤングに、大はしゃぎのベイリー。

 七つ子たちもいっしょになって、てんやわんやとなってしまう。


 さらに賑やかになってしまった聖堂に、ベルラインはますます不安になるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る