第15話
次の日の朝、待ち合わせ場所であるファウラウ聖堂の前にやってきたヤングとベイリーは、冒険の出発前だというのに死にそうな顔をしていた。
「うぷっ……俺としたことが、酒に飲まれちまうだなんてよ……」
「うえぇ……チョー気持ち悪いし……」
すでに待ち合わせにいたブラッドとベルライン、そして案内役である村長。
ブラッドはやれやれと肩をすくめた。
「なんだよ、あのくらいの酒で。おいベルライン、薬を出してやれ」
「はい。こちら、悪酔いによく効くお薬です、どうぞ」
「す、すまねぇな、ベルライン……」
「ううっ、助かったし……」
ブラッド一行は馬車をチャーターし、ストーンビレーの村まで向かった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ストーンビレーは山あいにある小さな村だった。
まわりはすべて鉱山で、鉄鉱石などが採れるという。
価値のある鉱石はほとんど出ないので、村は見るからに貧乏そうであった。
掘り返した石で作ったのであろう石造りの家に住む住人たちは、みな薄汚れた作業着を着ている。
村の住人はほとんどがドワーフで、男も女もみながっしりした体つきだった。
ブラッドたちは、わずかな報酬で村を救いに来てやったヒーローとして、村の大人たちからは大歓迎を受ける。
しかし子供たちはなぜか、みな疫病神がやってきたような顔つきで、誰ひとりとしてブラッドたちには近寄ろうとしなかった。
ブラッドたちは村長の家にひと晩やっかいになる。
次の日の朝に、問題の鉱山へと向かった。
『ボーンメイカー』が棲み着いたという洞窟の入り口には、採掘道具がそこらじゅうに散らばっていた。
どうやらモンスターが出た時点で坑夫たちは命からがら逃げ出し、それからは一切近づいていないようだ。
洞窟に入る前に、ブラッドは間たちに向かって言った。
「これからこの洞窟を探索し、ボーンメイカーを探して討伐するわけだが、リーダーは俺だから、俺の言うことには絶対服従するんだ。いいな」
ブラッドの俺様っぷりにはもう慣れているのか、ベルラインは素直に頷く。
しかしヤングは猛抗議。
「おい、ちょっと待て! お前がリーダーなんて聞いてねぇぞ!? この俺は、どんな鎖にだって縛られねぇんだ! ベイリー、お前もそうだろう!?」
「あーしは別に。っていうかさぁ、そろそろあーしらもリーダーがいたほうがいいんじゃない?」
「くっ……! で、でも、なんでブラッドがリーダーなんだよ!?」
「当然だろう。移動にかかった馬車の金は、この俺が払ったんだから」
「あ、あの、ブラッドさん、馬車のお金は、聖堂の寄進から払っただけですので……」
「ベルライン、聖堂の寄進はお前が管理してるんだろう? だから聖堂の寄進は俺のものだ」
「な……なぜっ!?」
「もう忘れたのか。お前は俺のものだからだよ」
それだけで、「ひうっ!?」とシャックリのような悲鳴とともに、黙りこんでしまうベルライン。
ブラッドはここでモメていてもしょうがないと、みなにきっぱりと言い切った。
「よし、それじゃあこうしよう。これからしばらくは、みんな俺の指示どおりに行動するんだ。特に戦闘になったら必ず、俺の言うとおりに動け。それで戦果が挙がらなかったら、俺はリーダーから降りよう」
「よおし、その言葉忘れんなよ! この一匹狼の調教しようとしたことを、後悔させてやるぜ!」
というわけで、一行はブラッドの仕切りで洞窟に入ることになった。
隊列はブラッドを先頭に、ベルライン、ベイリー、ヤングの順。
洞窟内はつい最近まで稼働していただけあって、壁には魔法石のランタンがこうこうと灯っていて明るかった。
視界に不自由することなく進んでいると、開けた場所に出る。
そこにはスケルトンが、6体。
生気なくボンヤリと立つ彼らは、全身真っ白な骨格から、まるで幽霊のようであった。
彼らは部屋に入ってきた、『生命ある者』に気付くと、
ゆらり……。
と恨めしそうに振り返る。
ゾンビのように両手を前に出し、フラフラと襲いかかってきた。
「ボーンメイカーにやられた坑夫か! 俺に任せろっ!」
と真っ先に飛び出していこうとするヤングを、ブラッドは鋭い声で制する。
「待てっ! 俺の言うとおりに動くんだ!」
立ち止まり、「くっ!」と振り返るヤング。
そして彼は、我が目を疑った。
なぜならばブラッドが、白いギターを構えていたから。
まわりにいた女性陣も、目を丸くしている。
「ぶ……ブラッド、まさかっ!?」
「こ……こんな所で唄うおつもりなんですかっ!?」
「ありえない」といった表情の仲間たちをよそに、ブラッドは叫ぶ。
「ワン! ツー! スリー! フォーっ!」
♪ 戦いのライジング・サン いま昇るぜ
♪ 俺もお前もサンライズ・ラン さぁ走り出せ
【ガンガンいこうぜ】
味方の能力を高めるバトルソング。
歌のとおりに行動すると、攻撃にまつわる能力が300%向上する。
ブラッドはかき鳴らすギターのヘッドを、ビシッとヤングに向ける。
♪ ヤング 先頭のホネホネ野郎に突進だ
「よしっ!」
待ってましたとばかりに地を蹴るヤング。
ヤングは
まるで見えない追い風が吹いているかのような勢いに、思わず目を剥くヤング。
「うっ……ウソだろっ!? こっ、こんなに速く走れるだなんて……!?」
瞬きほどの間に、最寄りのスケルトンに接近。
それがあまりにも一瞬の出来事だったので、視界良好な空間での戦闘だというのに、完全に奇襲となっていた。
♪ ヤング お前のワイルドクローを見せてやれ
背後からの歌声に、ヤングは応える。
ガントレットから鋼鉄の狼爪を飛び出させつつ、
「うおおおっ! ブッちぎってやるぜっ! ワイルドクロぉぉぉぉーーーー!!」
引っ掻くような一撃が、目の覚めるような快音とともに振り下ろされる。
……シャキィィィィーーーーンッ!
いつもの『ワイルドクロー』とは明らかに違う、流星の尾のような光の筋を描いた。
ヤングはさらに目を見開く。
自分が出したものとは思えない、オーラの軌跡のせいだけではない。
手応えがまるで違っていたのだ。
「かっ……紙、みてぇだ……!」
そうつぶやいた途端、
……スパァァァァァーーーーーーーーーーーンッ!!
眼前のスケルトンの群れが、短冊のようにバラバラに散っていった。
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