夕焼けに見える悲哀の黒

長月瓦礫

夕焼けに見える悲哀の黒


「夕焼けの黒は影の黒だ」


燃えるような赤い空を見て、彼はつぶやいた。


「伸びる影は闇を連れ、人を夜へ誘う。

あるいは、今日の業をなし終えて、打たれた終止符だ。それは明日への勇気となる」


遠くを見るような眼で何を見ているんだろう。冷たい空気が肌を撫でる。


「あるいは紙に広がるインクのシミだ。

書き出しが思いつかず、どん詰まったときに広がる色だ」


それは分かる。日記の書き出しって大事だ。

雲の流れが速い。遠くにある鈍色が迫る。


ああ、雨雲が来る。畳み掛けるようにフィナーレを飾る、オーケストラだ。


「いずれにせよ、夕焼けに点々とある黒は嫌いな色じゃない。これだけは確かだ……」


カラスの色しか思いつかなかったけど、こんなにあるんだ。赤色があっというまに黒に染まり、透明な雨が降り始める。


ビニール傘をさして、二人の世界ができる。

身長差は気にしたら負けだ。


「ビニール傘、これもまた透明だ。

透明な世界はやがて灰色に沈む」


雨雲が下がり、建物を覆う。

独り言は続く。雨が止むまで終わらない。


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夕焼けに見える悲哀の黒 長月瓦礫 @debrisbottle00

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