第三話 初めての外出

〔ダンジョン:No.00をクリア。外へと転送します。〕

 突然管理者画面にそう表示されると、足元に魔法陣が展開された。

 まずい。このまま外に転送されて誰かに見つかるのは嫌だ。しかし、そう思った時には遅かった。


 ☆

「こ、ここは………」

 気がつくと、私は何処かの森に転送されていた。

 とりあえず誰かに見つからない場所でよかった。しかしこれからどうするべきか。ミミックである今の状態で街に行ったら恐らく討伐されるだろう。いや…逆に宝箱に擬態して街で過ごした方がいいのか?私は熟考した挙げ句善は急げであろうという考えで早速街に向かった。


 ☆

 ある程度森の中を進んだが、私はあることに気がついた。

 街  の  場  所  が  わ  か  ら  な  い  。

 なぜ私はあの時何も考えずに進んだのだろうか。魔物ミミックになって思考力も低下しているのか…?そんなことを考えていると突然背後から炎を帯びた矢が飛んできた。

「くそ!外した!ガレンは前から回り込め!!」

「おう!」

 その気合の入った返事と共にガレンと呼ばれた男が現れた。

火炎の剣ファイアーソード!』

 ガキンという音と共に宝箱に剣が当たる。

 どうする。殺すべきか。だがどの程度強いかわからない状態で戦うのは愚か者のすることだろうか。考えている間にも男は剣を何度も振るっていた。

「硬ぇ!レオ、俺にバフをかけてくれ!」

「わかった。『 力の息吹ストレングス』、『火炎の矢雨ファイアーラピッド』!」

「よし!一気にたたみ込むぞ『火炎の剣ファイアーソード』!!!」

 たたみ込むといったが二人以外の姿は見えない。つまりはこの二人以外の脅威はないということだろう。バキという音が鳴り、男の剣が折れた。

「な、何だと!?」

 どうやら脅威にはならないようだ。初めて会った下界の人間を殺すというのは少し心が痛いが、仕方がない。もっと別の方法で人間とは出会いたかったが。

『神握』

 宝箱の中から出た無数の白く輝く手で矢を弾く。そして…

「ぐ……」

 私は二人の心臓を抉り出した。直様二人はその場に倒れた。

〔ガレン・クロスハート Lv.16、レオ・クライン Lv18を討伐しました。〕

 死んだか。だが想像よりもレベルが低い。これが平均的なこの世界のレベルなのだろうか。それにしてもこの二人のおかげで街に行ってもある程度大丈夫なことが分かった。いや、何なら街の場所を聞けばよかったか…?しかし今考えてももう遅い。

 私は再び森を歩き出した。


 ☆

 どうにか私は街に着いた。しかし私は一つ、大きな障害を忘れていた。それは門番の存在である。街は大きな壁に囲まれ、魔物から民を守るためにあることは容易に想像できる。だがどうやって門番に見つからずに道に入るか…。…強行突破することは択に入れない方が良いことは理解できる。熟考していると、ふと『暗潜』を獲得したことを思い出した。

『暗潜』

 どうにか見つからないでくれと、人間のように神に祈りながら門へと近づく。なぜ神に祈るかは私には到底理解できるものではないが。

 門番を横切る瞬間、門番がこちらを見て少し焦った。だが特に問題なく街にはいれて良かった。魔物というのは少し不便だと身をもって知ったが、これもラムダルの思惑通りだと言うのか。

 街に入ったのはいいが、これからどうするべきか。街中を探索しようにも宝箱が動いていると目立つだろう。私はとりあえず『暗潜』で移動することにした。店に入ることができないのは残念だが少しでも街中を見れれば情報収集にもなる。

 私は街中を移動していると、

「そこの宝箱!止まりなさい!」

 見つかってしまった。『暗潜』というのは他人から視認されなくなると考えていたが、そうではないのだろうか。

「ミミック…周りの人に立ち去るように伝えなさい。ミミックあなたは私が殺します。『酸縛アシッドロック』!」

 話が通じる相手でないことは明らかである。それは私が魔物だからか、端から話を聞く人でないのかはわからないが。あの人間は…衛兵か何かだろうか。

「くっ…止まらないか。『エストラム流剣技 酸烈斬さんれつざん』!!!」

 剣が当たると、ジュワという音と共に宝箱が少し溶けていた。このまま逃げるのは少し厄介か…。

「『暗潜』『堕天の勾玉』」

「き、消えた…!?兵長を呼びなさい!今の魔物を街中に留まらせるのは危険よ!…!!」

 仲間を呼ばれたのだろう。しかしとりあえずは一人倒したか…。

 衛兵の目の前に彼女の体と同程度の大きさの黒と白の勾玉が現れ、それらが合わさった。その瞬間だった。

「『絶対防御アブソリュートイージス』!避けろナール!」

 合わさった勾玉は黒い光を放ち-大爆発を起こした。だが…

「盾が破れただと!?少し骨が折れるな、皆援護を頼む!」

 爆発は盾を持った男に吸い寄せられるように、周囲に広がらず止まった。私には少し意外だった。それはもう少し今の技が有効打になると思ったからだ。相手は視認できる数だけで7人。恐らくこの盾を構えた男がさっき衛兵が言っていた兵長であろう。

『情報開示』

〔Lv.78 種族:人間 名前:ラクセス・エゾール 生物名:人間〕

〔Lv.128 種族:異人 名前:エスタール・ア・レスト 生物名:吸血鬼〕

〔Lv.98 種族:人間 名前:アルラ・パスト 生物名:人間〕

〔Lv.576 種族:異人 名前:アマスト・ライム 生物名:吸血鬼〕

〔Lv.4623 種族:異人 名前:サトウ・リョウ 生物名:転生者〕

〔Lv.137 種族:異人 名前:ナール 生物名:鬼人〕

〔Lv.101 種族:人間 名前:サッド 生物名:人間〕

 ずば抜けて兵長のレベルが高いと思ったら転生者…。私の方がレベルは高いとはいえ、この数を相手にするとなると簡単に勝てるものではないであろう。

大噴火エラプション!』 

酸弾アシッドショット

「ライム!合わせるぞ!「わかった!!」『『血壊烈』』!」

「みなさん!援護します!!『力の咆哮』!『守護の咆哮』『俊敏の咆哮』『暗煙』!」

 目の前が煙に包まれ見えなくなる。一筋縄ではいかないようだ。

『神握』『堕天の勾玉』

「まずい!あの勾玉は爆発するぞ。防御に回れ!!『聖防セイクリッドディフェンス』」

 あの兵長のせいで少し手間がかかるな。先に始末しなければ…。『暗潜』

「よし!宝箱に空いた穴に攻撃を差し込め!!」

「兵長!敵が捕捉出来なくなりました!」

「なに!どこへ行った…。この状態で散らばるのは危険だ!こっちに集まれ!」

 兵長の一声と共に7人が一箇所に集まる。だがその行動は間違えであった。

『堕天の勾玉』

大きな爆発が生じる。兵長も防御が間に合わなかったようだ。

〔ラクセス・エゾール Lv.78、ダール Lv.98、エスタール・ア・レストLv.128、サッド Lv.101を討伐しました。〕

「くそ…。お前たちは逃げろ!俺があいつを止める…!」

「しかし兵長!「逃げろ!お前たちだと足手纏いになる…。」

「…わかりました。」

そう言って二人が瞬時に消える。

「お前何者だ? 明らかに普通の魔物ではないだろう。正体を明かせ!!」

「私は普通の魔物ミミックですよ。貴方達が私を止めたから戦っているだけです。」

長い沈黙が生じる。その沈黙を断ち切るように行動したのは…兵長だった。

「『蒼剣』!」

ガキンと甲高い音を立て、剣が折れた。

『神握』

「く、くそ…だが絶対に俺たちは負けない!何度でもお前に立ち向かっ…」

神握に心臓を貫かれて絶命した。

〔サトウ・リョウ Lv.4623を討伐しました。〕

〔レベルが上昇しました。Lv.6303→6304に上昇〕

とりあえず目の前の障害はなくなった。だが兵長が言った…言おうとしたようにすぐにでも残りの衛兵は立ち向かってくるのだろう。殆ど機能はしなくなるだろうが。

私は予定通り街の中を探索することにした。しかし店はおろか家でさえ人はいない。これでは情報収集にはならないだろうが、致し方ないだろう。そう考えて私はその場から立ち去ろうとしたが、その瞬間後ろから攻撃を受けた。

火砕流ヴォルカニック

「『エストラム流剣技 酸烈斬さんれつざん』!」

想像よりも早く衛兵が来た。もう少し来るのには時間がかかるかと思ったがその予想は外れたようだ。

「兵長…絶対にあなたをここで討伐します!」

この時点で衛兵ナールは自分では勝てないことが分かっていたが、立ち向かわないことはできなかった。

「ライムさん、勝てる見込みはありそうですか…?」

「いや0%に等しいだろう…。だが戦うしかないことはお前にもわかるだろう。」

「はい…!絶対に止めますよ!!」

「ああ!」


思いの外手こずったが、すぐに討伐することができた。

私は静寂の中街を探索し新たな旅路についた。



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堕天した神のミミック冒険記 キセノン @Xenon54_element

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