第41話 メティアのままで
巨大ゴーレムは兵士たちを人質のようにして攻撃しづらくしているのか?
そもそもゴーレムには知能と言うものはゼロに等しい。人が人形のように操るか、魔物になるかでしか生きられない。
だが、知能がないとしてもゴーレムは動き続ける。動き続けるしかないのだ。
メルティスは巨大ゴーレムに攻撃しようとするが、捕らわれた兵士たちを盾にしてくるので近付くことができない。
「ゴーレムは知能がないはずなのに、やつは知能があるみたいだな…」
ユキトはいったん迷宮の床に下りた。
「ユキト…大丈夫?」
ルリィはユキトを心配しているようだ。
「大丈夫だ!まあ、もう少しで魔法が解けそうだけどな…」
「一気に…決める?」
「そうだな。魔法が解ける前にやるか!」
「うん…行くよ。月影!」
ルリィの月影で瞬間移動した。
巨大ゴーレムの右手は徐々に戻り始めていた。
ユキトは巨大ゴーレムの胸の前あたりに現れた。
「月刃(げつじん)…!」
ルリィのしっぽから連続で光の刃が放たれた。それはゴーレムの顔に命中して砂煙をまき起こした。砂煙で見えづらくなってしまった。
そして、ユキトがシャイニングフィストを撃とうとした時、ゴーレムの右手が迫ってきていることに気が付いた。気が付いたが時すでに遅し。戻ったゴーレムの右手に当たってしまった。
ユキトは巨大ゴーレムに吹き飛ばされた。コンバートフォースアームドは解けてルリィも消えてしまう。ルリィの指輪は右手人差し指に、車いすは指輪に換わり右手の中指に戻った。そのまま迷宮の壁に叩きつけられた。ユキトは壁にもたれかかるように床に座る形になった。
「ユキトさん…!?」
メティアはユキトの元へすぐに向かう。転びそうなほど一生懸命に走る。
「大丈夫ですか!?すぐに治療しますね…!」
「ああ、何とか…。魔法は解けちゃったけどな…」
メティアは魔法でユキトを治療する。
「なあメティア…メティアはなんでいつも、自信がなさそうにしてるんだ?」
メティアは一瞬、治療の手を止めたがすぐに治療を続ける。
「わたくしの魔法は憩(いこい)魔法という魔法で…治療やサポートしかできないので、戦いに向かないのです…。お姉様と違ってわたくしは…役立たずなんです」
「よくお姉様と違って、って言うけど…メルティスさんと何かあったのか?」
「いえ…特に何かがあったというわけでは…。ただ…」
メティアは下を向いて何かを思い出す。
「お姉様がうらやましかったんです…才能って言うんですかね。できることならわたくしも活躍してみたかった…です…!」
小さい頃からメティアは姉に勝ることが少なかった。そのため、姉を見習い、姉から学び、姉のように振る舞う…ことができたらよかった。
兄弟がいるとどうしても比較されてしまうことが多い。ただ、メティアは母親から大事にされているので、メティアに危険な目に会ってほしくないのだ。それもあり、両親は姉のメルティスに戦わせるようにさせてきた。
そして時は十年前のメルティス十歳、メティア六歳にさかのぼる。
ある日のこと、メティアたちは城の中庭で剣術の練習をしていた。木刀を使い、相手の木刀を落としたら勝ちと言うルールである。
「……やあっ…!」
メティアは小さい体でちょこちょこと走っていく。メルティスはメティアの弱々しい木刀を受け止める。カンカンと打ち合っていく。
「はあっ…!」
すきを見てメルティスはメティアの木刀を叩き落とした。メティアの木刀は後ろに転がった。
「メティアどうした。もう終わりか?」
「ま…まだまだ…!」
それからもメティアの木刀ばかりが落とされメルティスの勝ちが続く。
「はあっ…はあっ…はあっ…」
メティアは息を切らして中庭の草の上に仰向けになっている。
「メティアはばてるのが早いな…。しょうがない、兵士と練習をするか」
メルティスはメティアとの練習を終え、兵士たちと練習を始めた。
メティアの元には白髪の年老いた執事が来た。
「メティア様、お疲れでしょう。部屋に戻ってはいかがですか?」
「じぃ、わたくし…弓道場で弓術を練習します…」
「では少し休んでから行きましょう」
メティアは休んでから城の弓道場へ向かった。弓道場は木の的がいくつかあり弓矢も常備されている。
その弓矢を持ったメティアは的から離れた場所で構える。左手で弓を持ち右手で矢をつがえる。矢を引き絞ってから放した。
矢は的の真ん中をだいぶそれて端っこに刺さった。
「惜しいですね…メティア様」
「まだです…」
そう言って次の矢をつがえる。
「その調子ですよ…!」
その後も矢を射るがどれも真ん中には当たらない。
「はぁっ…はぁっ…」
「大丈夫ですか、メティア様…」
「はぁっ…あ、あと一回だけ…そしたら終わりにします…」
「分かりました…」
執事は優しくメティアを見守っている。
再び弓に矢をつがえる。弦を引く右手に力が入らなくなっている。それでもメティアは引き絞る。左目をつぶって右目で的を見据える。
弓道場は静寂に包まれる。狙いをすまし、つばを飲み込んだ。その瞬間手を放した。矢は風を切って飛んでいく。まっすぐ飛んだ矢は的を捉えた。
遂に矢は的の中心を射抜いた。メティアは力が抜け、その場にくずおれてしまった。
「や…やりました…!やりましたよ、じぃ!」
「さすがです、メティア様!ちゃんと見ていましたよ」
「ありがとう、ございます…」
休憩してから弓道場を出てメティアは自分の部屋に戻った。
それから夕食の時間になった。メティアは弓術の話を家族にしようとした。
「あ、あの…」
「――それにしてもメルティスはすごいな!兵士相手に互角だったそうじゃないか!」
父のファルフォルテ王はメルティスの偉業を喜んでいる。
「いえ…まだまだですよ。もっと強くならないと…」
メルティスは謙遜(けんそん)している。
「はっはっは。向上心がすごいな!」
「無理はしないでくださいね…!それで…メティアは何か言いかけましたか?」
母である王女が聞いた。
「い、いえ…なんでもありません…」
「そうですか。メティアは危険なことはしないでくださいね」
「はい…」
食事を終え、メティアは部屋に戻る。
「メティア様、いいのですか?弓術の話は…」
執事が心配そうに聞く。
「いいんです…じぃが見ててくれたのでそれで十分です…!」
「分かりました…今日はよく頑張りましたね!では、お休みなさいませ」
「お休みなさい」
年老いた執事は静かに部屋の扉を閉めて去って行った。
一人になったメティアはベッドの上に座った。
「やっぱりお姉様はすごいですね…」
メティアは少し寂しそうに呟いた。
「わたくしも話に入れるように弓術を頑張らなくては…」
静かに決意したメティアはそれからも弓術を続けていくのだった。
砂の迷宮の壁にもたれかけて座っているユキトと、ユキトに寄り添って治療するメティアの間にはしばらく沈黙があった。
「わたくし…お姉様のように、戦える力があればよかった…です」
そう言ってからメティアの目から涙がポロポロ流れてきた。
「あれ…何ででしょう…なぜか涙が…。すいません、治療に集中しますね…」
メティアは涙を拭(ぬぐ)って治療を続けようとする。すると、ユキトがメティアの方に手を伸ばした。
「ユキトさん…?」
ユキトはメティアの涙を拭い頭に手を置いた。
「メティア…メティアはお姉さんにならなくていいんだよ…。メティアにしかできないことがあるじゃないか」
「わたくしにしかできないこと…?」
「ああ…。確かにメティアの魔法は攻撃型じゃないけど、何か方法があるんじゃないか?」
メティアの涙はいつの間にか止まっていた。
「おれからすれば、メティアはメティアでしかない。お姉さんになろうとせずに、メティアのままでいればいいよ…!メティアの得意なことで勝負すればいい…」
そして、ユキトはメティアの頭をなでた。
「ユキトさん…」
異世界に車いすがあるって普通ですか? ざわふみ @ozahumi
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