第40話 砂の檻
メルティスは巨大ゴーレムに剣を向けながら叫んだ。
「今だ!たたみかけろ!」
メルティスが叫んだ途端、魔法隊は全員でウォーターガンを竜巻の穴に放った。
その頃、ユキトはメリザとビャッコに身体強化魔法をかけようとしていた。両手に花、右手はメリザの手と、左手はビャッコの手とつないだ。
「ユキトの手大きいね!」
メリザは心なしか嬉しそうだ。
「そうだよ!ユキトっちの手はおっきくてあったかいんだよ!」
「ごめんな…集中したいから少し静かに頼む」
「ビャッコ、しーっ…」
「にゃー…」
ユキトは複雑なことをしようとしていた。同時に二人に魔法をかけるということは二人の魔力量を把握し、それぞれに合わせた魔力を流す必要がある。
前にビャッコにかけたので要領は分かっている。ユキトは目を閉じて少しずつ魔力を流し始めた。
「クリーチャーブースト、アザーズ!」
「すごい!力が湧いてくる…!」
「うんうん!もりもりだねー」
「よし!かけ終わったよ」
メリザとビャッコは身体が軽そうだ。ビャッコに至っては腕をぐるぐる回して元気いっぱいだ。
「ビャッコいけるね!」
「うん、やるよメリちゃん!」
ユキトに身体強化魔法をかけてもらった二人は連合魔法の準備をする。
メリザが左、ビャッコが右に並んだ。メリザは剣を持った右手をメルティスが開けた穴に向けた。ビャッコはメリザの手に左手を重ねた。
「ビャッコ、準備はいい?」
「いつでもいいよ!」
メリザとビャッコは意識を集中させた。二人の魔法は交わり合いメリザの剣先に集中する。剣先に徐々に球体が現れ始めた。球体は大きくなりサッカーボールほどの大きさになった。
二人の準備は整ったようだ。
「ビャッコ!」
「メリちゃん!」
声を合わせて魔法を唱えた。
『連合魔法、炎雷砲!!』
メリザの剣先の球体は竜巻の穴に吸い寄せられるように放たれた。雷を帯びた炎の玉が豪速で飛んでいき、魔法隊が攻撃する場所にぶち当たった。周囲に風が吹き荒れる。
風が吹き止むまでそんなに時間はかからなかった。すると、さっきまで強固だった竜巻の壁は見事に消え去ってしまった。
「やるじゃないか…!」
メルティスは呟くように称賛した後叫んだ。
「皆、一斉攻撃だ!」
魔法隊は攻撃を緩めず魔法を放ち続ける。剣士隊はゴーレムの足元に突撃していく。
「私たちも行こう!」
「うん!」
「おれもすぐ行く。先に行っててくれ」
メリザは剣士隊の所へ駆けつける。
ビャッコは魔法を出そうとしていた。いつもの四つ這いになり右手に雷雪の力を集め始めた。三体の分身からも力を集めたため分身は消えてしまった。力が溜まってくると右手に雷が走る。
力を完全に溜めきると空中を切り裂いて斬撃を放った。
「雷虎、襲雪斬!!」
雷雪の斬撃はゴーレムに向かって行った。そして胴体の真ん中に命中した。斬撃はゴーレムの砂の体を削り取った。再生もギリギリ追いつくぐらいで、効いているようだった。
「やった!」
ビャッコはそのまま攻撃を続ける。
「やるな。私も全力を出さなければな…」
メルティスは足を肩幅に開いた。次に足を斜めに開いて剣先に右手を添えて前に突き出した。その状態をしばらく続けた後、剣を天井に向けて力を溜める。剣先に大きな水滴ができ始めた。
その水滴が現れた剣先を迷宮の床に思い切り突き刺した。
しばらくすると、突き刺した床から水があふれ出した。あふれ出した水は次第に大きくなり、何かを形成する。しっぽ、ヒレ、胴体が作られた。それは巨大な魚になった。うろこは青白く光り幻想的だ。
「イクトスドライブッ!!」
青白き魚の化身はメルティスが突き刺した剣先を離れ、ゴーレムに向かって行く。
そして、ゴーレムの右肩辺りを巨大な右腕ごと貫いてしまった。ゴーレムの右腕は砂になってしまった。
それを見ていたユキトは感嘆し自分の役目を果たそうとしていた。
「ルリィ、おれたちも加勢するぞ!」
「うん…!」
ルリィはユキトの前に出た。ユキトは右手を前に出して構えた。
「コンバートフォースアームド!」
魔法を唱えるとルリィは光の化身となり空中に浮かび上がった。そして、ルリィはユキトに近づいてそっとキス…言い換えて口付けをした。するとルリィの体はユキトのそれぞれの部位に武装する。兜、腕当て、脛(すね)当て、鎧、車いすのあちこちに武装した。
「行くよ…ユキト。月影(げつえい)…!」
ルリィの能力、月影でゴーレムの近くに瞬間移動した。ユキトは右拳を突き出して光の衝撃波を放つ。
「シャイニング、フィスト!!」
光の衝撃波はゴーレムの左足の付け根に当たった。貫通はしなかったが削り取ることはできた。
すると突然、巨大ゴーレムは左手の先の形を変え始めた。砂が膨らんだりへこんだりしてある形になっていく。
そして、左手は巨大なハンマーになった。
その左手は振り下ろすのではなく横の壁を叩いた。時間差で地震のように迷宮の中が揺れた。
地上にいた兵士たちとメリザは少しひるんだが攻撃を緩めることはない。
続けてゴーレムは頭から細い砂を放出し、飛んでいたメルティスを捉える。細い砂は蛇のように追いかけてくる。
「私に追いつく気か!いいだろう、勝負してやる!」
何本も出た蛇のような砂はメルティスを掴もうとする。羽をはばたかせたメルティスはこっちに来いとばかりに挑発し速度を上げる。
避けたり、たまに剣でなぎ払ったりして砂を上手く受け流す。
「ティアちゃんのお姉ちゃん、すごいな!あたしも負けられないよ!」
それを見ていたビャッコはさらに気合いを入れる。
雷雪魔法はゴーレムには効かないので肉弾戦に持ち込んでいた。ビャッコは胴体を重点的に攻撃しているが、だんだん再生の方が早くなってきている気がする。さすがのビャッコでも疲れてきているようだ。
その時、魔法で武装したユキトがルリィの月影でビャッコの近くに来た。
「大丈夫かビャッコ?少し疲れてるみたいだけど…」
「大丈夫、大丈夫!ユキトっちの魔法で元気になったから」
「ならいいけど。お互いもう少し耐えような!」
「うん!」
ユキトは話し終わるとまた行ってしまった。
「まだまだー!」
それからビャッコは砂と格闘し続けるのだった。
一方、兵士たちは退避しつつ攻撃をしている。
ゴーレムは今度は左手のハンマーを振り下ろしてきた。迷宮の床に当たると、当たった場所を砂が走っていく。砂は退避する兵士たちをとらえる。兵士たちの体に砂がまとわり付き、ゴーレム側に引き寄せられた。兵士たちはゴーレムの胴体辺りまで引き寄せられ、上半身の胸から下が埋まる形になった。
兵士たちは捕らわれの身になってしまったということだ。
「くっ…あれでは下手に攻撃ができないな…!」
メルティスはどうすればいいか考えていた。
兵士たちが巨大ゴーレムの体に捕らわれた様はまるで、砂の檻(おり)のようだった…。
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