第39話 誤解のキス

 砂の巨大ゴーレムは砂の竜巻に囲まれ、また動かなくなった。ユキトたちと兵士たちはそれぞれ集まりどうするか決めていた。


「あれじゃあ近付けないよ」

「そうね…。ユキトの魔法でも無理?」

「そうだな。竜巻の中に入ったら飛ばされるし、普通は竜巻の中に入る人はいないしな」

「そうだね…ごめんなさい」

「謝らなくていいよ」


 ユキトたちが話をしているとメティアが近付いて来た。

「あれはどうしたらよいのでしょうか?」

「うーん…風の魔法でもあればかき消せるかもしれないんだけどな…」

「風の魔法ですか…。ここに使える人はいないですね…」

「そうか…だと難しいな。じゃあ上から行くのはどうだ?」

「さすがに天飛人でも難しいですね…」

 メティアは考え込んでしまった。


 風の魔法を使える人はいない。竜巻は風でできているので同じ風をぶつければ消えると思ったのだが、それはできそうもない。

 以前、陸上船の船長レイジーンが風の魔法を使えたのを思い出した。実際に魔法は見られなかったが、陸上船を揺らさずに船路の岩を壊していた。今ここにはレイジーンはいないからだめだ。


 次に、上から行くというものだが。確かに天飛人は空を飛ぶことができる。できるのだがそれをできたとして中の巨大ゴーレムをどうするか…。いくらメルティスでも一人で倒すのは難しいだろう。

 竜巻の上から行き巨大ゴーレムに攻撃。巨大ゴーレムの機能を停止させる。そう上手くいくはずがない。この策はリスクが大きい。どうすればいい…。


「ユキト…」


 ふいに声を出したのは、いつの間にかユキトの隣にお座りしていたルリィだった。

「ルリィが、月影で、行く…」

「いや、それだとルリィが危ないよ」


 ユキトはいつになく心配性だ。召喚獣は致命傷を受けても死なないのだが、犬好きのユキトからすれば怪我をするだけでも心配なのだ。


「ユキト心配しすぎじゃない?」

 メリザは怒ってる訳ではないが、少し焼きもちを焼いているような言い方だ。


「そうか?おれは例えルリィが行けたとしても、その後が問題だと思っただけなんだけど…」

「そう…?確かに…難しいかもね」

「だろう?だからルリィは動かなくていいよ」

「うん…わかった。じゃあ、ユキト…キス、しよう」

「ぶっ!?」

 全く予想していないストレートパンチがユキトのお腹に的中した。実際に的中した訳ではないがそれぐらいの威力があった。


「――えっ!ユキト、キスってどういうこと?この子とききき、キスしたの?」

 メリザが思い切り動揺している。相当効いたのだろう、キスと言う二文字にそれほどの力があったとは…。


「誤解だ!キスっていうのはおれのコンバートフォースアームドを使う時の儀式と言うか、必要なことと言うか、とにかく、変な意味じゃないよ!」

「ユキト、優しく、キスする…」

「ちょっルリィ!誤解を招くようなことを!もうしゃべらないでくれ…!」

「優しく、優しく…あくまで人と動物。人と人じゃない…。うらやましくなんかない…」

 とメリザは独り言をぶつぶつ呟きだした。


「ビャッコも何か言ってくれ!」

「あたしもキスしたーい!」

「駄目だビャッコは。聞いたおれが馬鹿だった…」


 カオスになった状況はしばらく収まらなかった。カオス状態はやっと収まったが、ユキトたちは未だ策を練っていた。


「お姉様に策があるかもしれません。お姉様の魔法は水流魔法というもので水の流れを操る魔法なのです」

 メティアはメルティスの魔法を教えてくれた。


「水流魔法か…それなら可能性は…」


 ユキトが水流魔法の活用法を考えているとメルティスが歩いて来た。

「私の話をしていたのか?」

「お姉様。お姉様の魔法のことを話していました」

「そうか…私も策をめぐらせていたところだ。一つだけあれを突破する方法がある」

 メルティスは堂々として自信がありそうな顔立ちだった。


「私の魔法であの竜巻の壁に穴を開ける。その後すぐに全員で穴の中に魔法を叩き込み活路をひらく、という策だ」

「なるほど…メルティスさんは穴を開ける方法があるということですか?」

「私を誰だと思っている。私もそれなりに自信はあるつもりだが?」

「はい。おれもメルティスさんを信用してますから」

「ふっ、生意気だな…!だが嫌いではないぞ、そういうやつは」

「――メルティス様ー!大変です!」

 ユキトとメルティスが話していると兵士の一人が走って来た。


「剣士隊の何人かがあの竜巻に突っ込んで行きましたっ!!」

「何っ…!?」


 剣士隊の六人は竜巻に突っ込んでいった。

「巨大ゴーレムを何としても止めるぞ!」

 敵うはずもなく剣士隊の六人は竜巻に吹き飛ばされた。無情にも床に叩きつけられた。あんなに強く叩きつけられたら骨折は間違いない。


「馬鹿なことを…治療隊は彼らの避難と治療を頼む」

「わたくしも行きます!」

 そう言ってメティアは治療隊と共に剣士隊の六人を治療しに行った。


「メルティスさん、これは時間の問題かもしれないですね…」

「そうだな。ああいう兵士たちが増えても困る。やるしかないな!」

「お願いします!」


 メルティスが兵士たちに指示を出しに行った後、すぐメリザとビャッコが近寄って来た。

「ユキト、何かすごい作戦が始まるみたいね」

「ああ。メルティスさんが竜巻に穴を開けたらそこに魔法を叩き込む、っていう策だ」

「あたしもやるやるー!」

 ビャッコもシャドーボクシングのようにファイティングポーズから拳を突き出すしぐさをする。


「私は魔力が少ないから残った魔力でやれるだけやるよ」

「だったらメリちゃん、あたしと魔法を合わせようよ!」

「魔法を合わせる…連合魔法ね!それなら少ない魔力でもいけるかも…?」

「じゃあおれが二人に身体強化魔法をかけて強化させるよ」

 ユキトは急に思いついたことを提案した。


「それは思いつかなかったな…でも、せっかくだから、お願いユキト!」

「やったね!メリちゃん、ユキトっち。またみんなで力を合わせられるね!」

「そうだな。思えばあの時が最初の協力戦だったな…」


 その頃メルティスは、魔法隊に魔法を放つ準備をさせて、砂の竜巻に穴を開けようとしていた。


「ふぅーーーっ…」

 息を深くつくと足を肩幅に開いた。それからしまっていた腰の剣ブルースカイリバーを抜いた。そして、剣を持った左手を上に向けて構えた。この構えはまるで、というかそのまんまフェンシングのような構えだ。メルティスは顔立ちが凛々しいのでとてもかっこよく見える。


 フェンシングのポーズをしていたと思ったら、今度は足を斜めに開いて剣先に右手を添えて前に突き出した。すると剣先に青い光が現れてそれは大きな水滴に変わった。

 次の瞬間、空中を高速で五回突いた。サイコロの五の目のように突くと大きな水滴は無重力のように空中にとどまる。それから剣で円を描くようにした。五の目の水滴は中心を支点にぐるぐると回り出した。渦は徐々に大きくなり巨大な丸い盾のような形になる。

 そしてメルティスは叫んだ。

「ネローファイブッ!!」


 水でできた巨大な丸い盾は回りながら巨大ゴーレムがいる竜巻の方へ動き始めた。そのまま竜巻に当たりせめぎ合う。その後、水の盾は竜巻に穴を開け、ゴーレムの目の前で消えた。不思議なことに竜巻の真ん中に抜け穴のような穴がぽっかり開いた。


 そしてメルティスは巨大ゴーレムが覗(のぞ)く竜巻の穴に剣を向けた。

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