第38話 未動の巨大ゴーレム

 ユキトが砂の山を見ていると、ユキトたちが来た方とは逆側からメルティス隊がやって来た。


「先に着いていたか…。ユキト殿たちも人型ゴーレムに襲われたたちか?」

 メリザやビャッコの様子を見てメルティスは言った。


「ああ。一体三メートル級のやつもいたけど、メリザが何とか倒したよ」

「そうか…それはご苦労だったな」


 メリザはこくりと頷いた。


「お姉様…!無事でよかったです…」

「また後でと言ったじゃないか。それに私は負けないよ」

「はい…!」

 その後メルティスも砂の山を見つめる。


「まさか、あれが巨大ゴーレムじゃあるまいな?」

「そのまさかかもしれないです…」

「まあいい。どちらにしろ準備だ」


 そう言うと兵士たちに指示を出した。

「剣士隊二十人は横並びに陣形を組め!魔法隊二十五人はその後ろで剣士隊の補助をできるように備えてくれ。治療隊五人とメティアはいつでも治療できるように待機だ。私とユキト殿たちは戦える準備をする、以上だ!」


 兵士たちが並び終わり、ユキトたちも準備ができたくらいの時だった。急に砂の山の方から、耳に障(さわ)る音が鳴り出した。ここにいる全員が耳を塞ぐほどだ。


「何だこの音は…!皆大丈夫か?」

「鼓膜が破れそうだな!!」

 ユキトも耳を塞いで音に耐える。メリザもメティアも同様に苦しそうだ。ビャッコに至ってはギャーギャー騒いでいるが…。


 一分ぐらいは鳴っていたように感じる。キーンと言う音はやっと消えた。しかし消えたのも束(つか)の間、今度は地鳴りが起き始めた。それとほぼ同時で、大量の砂の山がうごめきだした。


 砂はうごめきながら体を形作っていく。その大きさはビル五階建てぐらいだ。頭、両腕、両足が生え人型ゴーレムのようになった。ただ人型ゴーレムと違うのは、それぞれの部位の大きさと背中から突き出た四角柱のようなものがあることだ。


 メルティスは動けるようになると先頭に立って叫んだ。

「剣士隊、剣を抜いて構えろ!魔法隊も魔法の準備をしろ」


 メルティスの指示を聞くと兵士たちはすぐに動き始めた。剣士隊は巨大ゴーレムの足元に向かって走り出した。そして、剣士隊は次々と剣を足に刺していった。固まった砂なので剣はさくりと入る。

 その間に、魔法隊がそれぞれ持った短い杖から魔法を放つ。


『水魔法ウォーターガン!』


 魔法隊は声を合わせて言った。すると、それぞれの杖の先から水の塊が飛び出し、巨大ゴーレムに向かって飛んで行った。胴体部分に当たり巨大ゴーレムは動けない。

 兵士たちが戦い始めているうちにユキトたちも参戦しようとしていた。


「レッドエレメント!」

 メリザは残り少ない魔力を使い剣に魔法をかけた。


「私も剣士隊に加わってくる!」

「ああ、気を付けてな」


 メリザは巨大ゴーレムの足元にいる剣士隊の所に向かって行った。


「ユキトっち、あたしたちも行こう!」

「そうだな」

「あっ!その前に…」


 ビャッコは気を付けの姿勢から三回カンフーのような変わったポーズを取った。

「はっ!ふっ!ほぉー!」


 するとどうしたことか、ビャッコにそっくりな分身が三体出現した。

「ビャッコ、それってまさか?」

「んっふっふー、これが分身だよ!雷雪分身ボルミラージュ、ってね」

「これが分身か。すごいな!」

「まだまだー。ビーストフォーム!」


 ビャッコと三体の分身は獣化すると、「行ってきまーす」と言って巨大ゴーレムの所へ飛んで行った。

 ユキトも召喚獣を呼び出すことにした。


「ブラッディサモン!」

 ユキトの右手の人差し指の指輪が赤く光り、ユキトの前に来るとルリィになった。


「ユキト、久々」

「中々呼ばなくて悪かったな。後でなでてあげるから」

「うん、わかった」

「手伝ってくれるか。あの巨大ゴーレムを倒したいんだ」

「いいよ」


 ルリィはすぐに巨大ゴーレムの所に向かって行った。


「月刃…」


 ルリィはしっぽから三日月のような光の刃を巨大ゴーレムに飛ばした。巨大ゴーレムの頭に当たったが、かすり傷ぐらいで再生してしまう。


「全然、効かない…」

「ルリィその調子だ」

 ユキトは静かに呟いた。そして、巨大ゴーレムの所へ行こうとするとメルティスに呼び止められた。


「ユキト殿、無理はするなよ」

「無理ですか…。今まで無理しないとやっていけなかったからな…。まあ、やれることをやりますよ」

「ふふ、そうか…お互い健闘を祈ろう!」

 そう言ってメルティスは背中の羽を広げ飛んで行った。


 ユキトは深く息を吐いた。

「行くか!」

 それから様子を見るために巨大ゴーレムを見上げた。

「おれも空を飛べたらなぁ…。いや、今は集中だ」


 こんなに大きいと近づけないな。身体強化したパンチで衝撃波を飛ばして遠距離攻撃しよう。

 ユキトは身体強化魔法の効果が残っていたので衝撃波を飛ばすことにした。


 右手を握り、後ろに引いた。

「フィストー!」


 そのまま右手を前に出し巨大ゴーレムに向かって打った。衝撃波が巨大ゴーレムの右肩に当たると、その部分の砂が吹き飛び穴を開けた。

 その近くにいたのがビャッコだった。


「ユキトっちすごいな!よーし、あたしも…」

 そう言うとビャッコと分身は穴が開いた巨大ゴーレムの右肩に登った。


「行くよー!ほりほりー」

 ビャッコは分身と共に穴の開いた右肩の中の砂を掘り始めた。


「ビャッコまさか、砂を全部掘り出す気か!?無茶苦茶だな…」

 毎度奇想天外なことをするビャッコに驚かされるが、これはなかなか慣れない。


「ほりほりほりほりー!」


 蟻(あり)の巣のように巨大ゴーレムの体を掘るが、途中からなぜか進みにくくなった。


「あれ?なんか押されてるような…」

 ビャッコは徐々に砂に押し出され穴の入り口に戻される。


「うわーっ!」


 そして遂には右肩の穴は塞がれ、ビャッコが巨大ゴーレムの右肩から飛び出して来た。

 何とか床に着地し態勢を立て直す。


「戻るのはやー!もっと掘りたかったのに…」


 楽しんでたのかビャッコ…。まあそれがビャッコの良い所なんだけど…。

 あの再生能力には困ったな。何か攻略する方法はないものか…。と思っていると、巨大ゴーレムが遂に動き出した。


 巨大で重たい右足をゆっくりと持ち上げ始めたのだ。兵士たちは一斉に後退し始める。メリザも様子を見ながら後退する。


 巨大ゴーレムは右足を二メートルぐらい後ろに持ち上げると、前に向かって蹴り出した。その右足の部分にはユキトがいた。しかしユキトはその場から動かなかった。

 巨大な右足はユキトに迫る。ユキトはゆっくり右腕を後ろに引いた。巨大な右足が眼前に迫った時、静かに右腕を突き出した。


「ふっ」

 ユキトは少し微笑んだ。

 なんと巨大ゴーレムの右足はユキトの前の部分だけ無くなっていた。巨大ゴーレムはバランスを崩すかと思いきや、右足を無くしてもなおまっすぐだった。


 少し間を開けてから再びキーンと言う音が鳴り始めた。ユキトは巨大ゴーレムの近くにいたので特に音が大きかった。ユキトもすぐさま後退した。

 また一分ぐらい鳴って音は止まった。かと思うと、次は巨大ゴーレムの体の周りに風が起こり始める。その風は竜巻となり巨大ゴーレムを壁のように囲む。


「これは、第二フェーズ突入ってとこか…」

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