第37話 水流のメルティスと赤火のメリザ

 まっすぐの道や曲がった道を進んでいたのはメルティス隊の一行だった。進む速度はそこまで速くないが慎重だった。

 相当奥まで進んだ時、通路の奥から人型ゴーレムたちが歩いてきていた。


「メルティス隊、止まれ!」


 メルティスは兵士たちを止めて様子をうかがった。一、二、三、四、五、六…。とにかく複数いた。


「ここで兵士たちを疲弊させる訳にはいかないな…」


 メルティスは兵士たちの方を向いて口を開いた。


「皆の者、下がっていてくれ。私が道を開く」


 そう言うと腰のレイピア、ブルースカイリバーを抜いて構えた。

 腰を深く落とし、剣を持った左手を前に出した。右手はレイピアの剣身に添えた。息を深く吐いて力をためている。しばらくためると、剣の先が青く光り始めた。

 より集中させると剣全体が光り始めた。特に強い光を放つのは先端である。そして力がたまりきると一気に解放させた。


「行くぞ、ポイントネロー!!」


 メルティスは高速で移動したと思ったら、人型ゴーレムたちを一掃してしまった。通路の床には砂だけが残った。ブルースカイリバーを腰に戻してたたずむ様は凛(りん)としていた。


「皆、急ぐぞ!元凶の巨大ゴーレムの所へ着くまでは負傷者を出すな!」

 メルティス隊は一致団結して先を急いだ。


「はあっ!」

 赤く光る剣は三メートル級人型ゴーレムの体を切り刻んでいく。

 メリザは三メートル級人型ゴーレムと対峙していた。


 しかし、切っても切っても手応えがない。そもそも砂でできているため手応えは正直ない。

 手応えがない一番の理由があった。剣で切ってしばらくすると、切った場所が再生していたのだ。つまり、少しの傷では完全に倒せないということだ。大技か、再生できないようにするかしか倒す方法がない。


「レッドエレメント!」

 メリザは剣を両手で構え魔法を唱えた。


 ゴーレムの腕をよけつつ足元に向かって深く踏み込んだ。そして、ゴーレムの右足に一太刀浴びせた。燃えるような剣で切るとゴーレムの右足は砂になってしまった。

 だがゴーレムは倒れず腕を振り回してきた。メリザは避けきれずゴーレムの腕に吹き飛ばされた。


「うぅ…あの再生能力が厄介…」


 ゴーレムの再生はどうしたらいいの?普通の攻撃だとすぐに再生してしまう。だとしたら、大きな力で攻撃しない限り倒せない。

 大きな力…レッドエレメントだとあまり力は出せない。ユキトみたいに身体強化できればいいのだが、メリザはそんな魔法は使えない。


 炎よりも強く、大きな力でゴーレムを圧倒する必要がある。炎よりも強い力などあるのだろうか。溶岩、は…熱い。地面や物を溶かすほどの力がある。確かに炎より強い、でもまだ足りない。

 なら溶岩の大元、マグマはどうか。溶岩はマグマが外に流れ出たものだから、マグマの方が熱くなっているはずである。では、そのマグマの力を借りればいい。いや…思い出した。より熱い、強い力を。


 それはこの世界の空高く、宇宙のはるか向こうにある恒星、太陽だ。太陽の力は宇宙で一番強いと言っても過言ではない。炎を何倍何十倍にして太陽のように強くしてから切る。それにしよう。それなら砂さえも溶かしてしまうはず。


「ふっ…!」


 メリザは再び立ち上がって剣を構える。

 それから剣に魔法をかけた。炎を強く、強く、強く、強くして太陽に近づける。剣の赤い炎がオレンジ色に変わっていく。普段より魔力を消費したが構わない。よし、太陽に近づくことはできた。


「はあっ!!」


 メリザは太陽の力をまとった剣でゴーレムを切っていく。ゴーレムの右腕、左腕、胴体、左足、右足と順番に切っていくが、傷跡は浅く、すぐ再生してしまった。

 ただ、ゴーレムも腕を振り回したりしているので、よけて攻撃するのは難題なことだ。


 そして、メリザは一度後ろに引いて態勢を整えることにした。普通に切っても意味がない。さらに、色々な場所を切るのではなく、一箇所に大きな力をぶつけないことには倒せない。とにかく再生する暇を与えないことが重要なのだ。


「やあっ!」


 メリザは無我夢中でゴーレムを切っていく。切った場所は太陽の力で溶けるように無くなるが、再生の速度の方が早い。このゴーレムの体の構造はどうなっているのだろう。体は砂でできていて人型の人形のようで目が赤く光っている。

 だが知能は無いようで、腕を振り回して攻撃をするか腕で攻撃を防ぐかぐらいしかしない。


「ふっ!」


 ゴーレムの腕をかわしメリザは切り込んだ。ゴーレムの胴体の真ん中に剣を刺し、左脇腹にかけて切り裂いた。部分的に溶けたが、砂が体の中から湧き出るように出てきて再生してしまった。

 メリザは後ろに下がれず、ゴーレムのパンチを剣で防ぐしかなかった。防いだが後ろに吹き飛ばされてしまう。何とか足を着いて倒れずに済んだ。メリザは顔の汗を右腕で拭いて息を吐いた。


 まだ何かが足りない。何かとは何なのだろう。レッドエレメントより魔力を注いでいるのだが、いまいち爆発的な力が出せない。


 ふと、メティアの姉、メルティスのことが頭に浮かんだ。メルティスは突く専門の剣を使うらしい。確かブルースカイリバーと言う名だったか。剣で切るのではなく突くことで邪魔なゴーレムの腕も突破できるのではないか?しかし、メリザはあまり剣で突いたことがないので上手くいくかどうか。

 いや、それはやってみてからだ。やらない後悔よりもやって後悔した方が全然良い。ここで止まっていては、後に戦う巨大ゴーレムを倒すことはできない。


 メリザは気合を入れるために両ほほをぴしゃっと叩いた。よし、気合が入った。私はやれる。


 太陽みたいに燃えて、レッドㇲウォード。私に力を貸して…!

 メリザの魔法に思いが重なり、レッドㇲウォードはオレンジの炎をまとった。

 途端メリザは右足を踏み出してゴーレムの懐へ入る。そして、剣を前に突き出すように構えた。一瞬剣を引いてから前に突き出した。


 ゴーレムが防ごうと出した左腕に剣が突き刺さると、溶かしてはじけ飛ばした。再び剣を引いてから連続で突きを繰り出した。全てゴーレムの胴体に剣の跡を付けた。その剣の跡はオレンジの炎に染まる。


「ソルプロッド…!!」


 メリザがそう言うとすぐに、ゴーレムのオレンジの炎に染まった部分が全身に広がった。

 全身にオレンジの炎が広がると剣の跡の場所から溶け始めた。そのままゴーレムは溶けてしまった。そこには砂さえ残らなかった。


 メリザは剣をしまい、その場に片膝をついた。それを見ていたビャッコは足早でメリザに駆け寄った。


「メリちゃん、一人で倒せたんだね!大丈夫?」

「うん。ちょっと魔力を使いすぎて疲れちゃっただけ」


 ユキトも気付いてメリザに近づいた。

「メリザ、ナイス!」

 ユキトは親指を立ててメリザを労(ねぎら)った。


「ありがとう、ユキト。見守ってくれてて。私、強くなれたよ…!」

「ああ。よく頑張ったな」


 それからユキトの後ろからメティアが進み出てきた。

「メティアさん、傷治しますね」

「ありがとうね、メティア」

「いえ、いいんですよ。わたくしはこれぐらいしかできないので」


 メティアは少しうつむいているように見えた。

「どうしたの?」

「何でもないです…!」

「そう?ならいいけど」


 ユキトたちと兵士たちはやっとのことで人型ゴーレムたちを倒すことができた。治療隊とメティアが負傷した兵士たちを治した後、一行は人型ゴーレムが出てきた方向に再び進んだ。


 通路が少し坂道になってきた。ユキトは身体強化で難なく進むことができた。その坂道を登りきると相当広い場所に出た。まるで遺跡のような感じで、天井から光が差し込んでいて神秘的だった。その場所の奥の方に見たこともない量の砂の山があった。


「もしかして、あれが…」

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