第36話 迷宮あるある

 案の定と言うべきか否か、メルティス隊とユキトたちのチームは別々に分かれてしまった。砂の迷宮の中に入ってまっすぐ進んでいたと思っていたが、いつの間にか違う道を行っていた。

 ろうそくが壁に点々とあるが暗くはなく、けっこうはっきりと中の様子が分かる。


 ユキトは溝(みぞ)が彫られた道を越えながら揺れる車いすをこいでいた。

 その隣にメリザが並び、その後ろをビャッコとメティア、兵士たちが続く。


「まさかこんな早くはぐれるとはな…」

「わたくしもここに来たのは初めてなので分かりませんでした」

 メティアは不安そうな顔をしている。


「走っていけばいいんじゃない?」

 ビャッコが意味不明なことを言っている。


「何を言ってるのビャッコ。それで解決したらもうしてるよ」


 メリザが言ってほしいことを言ってくれた。その通りだ。


「あれは…分かれ道でしょうか?」

 メティアに言われて見ると道が十字路になっていた。ユキトは十字路の手前で止まった。


「どこに進むか…」

 ユキトが悩んでいると「右行こう、右!」とビャッコが右の道を指差して言った。


「いや…こういうのは大体真ん中が怪しいと思うな」

「えー…右がいいな」

「私は、真ん中がいいと思う」

 メリザがユキトに賛成した。


「わたくしはどちらでもいいですよ」

 メティアが気を使って言ってくれた。ビャッコにすぐ賛成しないところを見ると、まだ少し苦手意識があるのだろうか。


「うーん…まっいいや!全部行けば同じだね!」

 ビャッコがポジティブで良かった。


 十字路をまっすぐ進むことになったユキトたちは慎重に進む。

 徐々に先が見えてきた。だが、よくある行き止まりだった。収穫はあった。武器だ。相当さびれている中型の剣が壁に刺さっている。


「これどうする、ユキト?」

「うーん…一応もらっておくか。いいかな姫様、もらっちゃっても」

「はい、いいと思います。ここには滅多に来ないので」


 メリザがさびれた剣を抜き取ってユキトに渡した。


「これは…そうだ!」

 そう言って取り出したのは空間袋だった。


「ピノは聞こえるかな…」


 ユキトは空間袋の入り口に口を近づけて話しかけた。


「ピノ、聞こえるか?そっちにさびれた剣を送ってもいいか?」


 すぐに返事はなかったが、しばらくすると声が聞こえてきた。


「ふわーぁ、やっと出番ね」

「今あくびしたのか?」

「するわけないよ。この空間は時間が経たなくて眠くならないんだから。何となく雰囲気を口に出しただけだし」

 少し怒った感じのしゃべりだがこれがピノのしゃべり方みたいだ。


「それで…さびれた剣…?何に使うの?」


 ごもっともな質問だ。普通は使い物にならない物だ。錬金でもできればいいが…。


「後で何かに使えるかもしれないから一応な」

「ふーん…そっか。まあ、預かってあげるよ!」

「ありがとうな」

「後でまとめてお礼をもらうから、覚悟しておいてね!」

 怒ってはいないが少し念がこもった言い方だった。


「そうだな。何か考えておくよ」

 それからさびれた剣を空間袋に入れた。入れた後、ピノの声は聞こえなくなった。


 来た道を戻り、ビャッコが言っていた十字路の右に進む。そこは再び行き止まりになっていた。今度はさびれた剣ではなく水晶のような物が細長い台座の上に乗っかっていた。明らかに罠に思える出で立ちだ。これはどうするか…。


「これは、罠ですね」

「そうだな。罠だけど多分取らないと進まないからな…」

「何が進まないのですか?」


 メティアが純粋でまっすぐな目で見つめる。


「いや…こっちの話だ」

「そうですか…。気になります…」

「まあ、この戦いが終わったら言うよ」

「本当ですか!約束ですよ」


 ユキトは死亡フラグのようなことを言ったが、メティアを必ず守ろうと改めて決意した。

 そして水晶のような物を台座から取った。台座が沈むことはなく何も起こらなかった。どこかで罠が発動したかもしれないが…。

 それをまた空間袋に入れた。今度はピノの返事はなかった。たまにピノの所に行くかな…。


 必然的に残りの道を行くことになる。今度は十字路の左に進んで行った。

 ある程度進んだ時だった。前から何かの足音が聞こえてきた。ユキトは動きを止めて姿を確認した。一メートル五十センチから二メートルくらいの複数の砂の人形が前の道からゆっくりと歩いて来ていた。


「あれもゴーレムか?」

「分かりません。でも、ただならぬ雰囲気ですね…」

「メティア様、我々が前に出ます!指示を」

 兵士の一人がメティアに促した。


「わたくしがですか?わたくしに、できるでしょうか…?」

「姫様、自分を信じるんだ!」

「は、はい…!」


 メティアは兵士たちの方に向き直った。


「えっと…剣士隊の方々は前に出てください。魔法隊の方々は剣士隊の援護をお願いします。わたくしと治療隊の方々はケガ人が出たら治療をします。つたない指示ですが、みなさんよろしくお願いします!」

「分かりました。みんなやるぞ!」


 一人の兵士が腕を上げると、それにつられて他の兵士たちも「おー!」と声を揃えた。

 そして剣士隊は剣を抜き、人型ゴーレムに向かって行った。剣士隊に続いて短い杖を持った魔法隊も前に出た。


 人型ゴーレムは腕を上げて剣士隊の剣を防いだ。

 その後も兵士たちと人型ゴーレムたちの攻防は続く。


「おれたちも応戦しよう!」

「ええ」

「うん!」

「はい」

「姫様、離れるなよ!」


 ユキトたちは兵士たちの間をすり抜け一番前に進んだ。ユキトが自分に身体強化魔法をかけている間に、ビャッコとメリザは人型ゴーレムたちに向かって行く。


「にゃっ!!」


 ビャッコは雷雪の爪で人型ゴーレムを切り裂いた。電気が流れたが動きは止まらなかった。そのまま人型ゴーレムは腕を振り上げてビャッコに振り下ろした。

 すぐにビャッコは飛び上がってかわした。

「えっ、しびれないの?どうしようメリちゃん、雷が効かないよー…」

「じゃあもう――」


 メリザは鞘が付いた剣レッドㇲウォードで人型ゴーレムをなぎ払った。


「体術で倒すしかないんじゃない?」

「そっか!」

 メリザに助言をもらったビャッコは早速実践することにした。


 早足で人型ゴーレムに近づくと体を掴んで通路の壁に投げ飛ばした。人型ゴーレムはしばらく起き上がろうとしていたが動かなくなった。少しして人型ゴーレムは砂に変わってしまった。


「やったー!倒せたよメリちゃん!」

「ちょっとやり方は豪快で怖いけどね…。いいよ、その調子!」


 ユキトも人型ゴーレムに近づいていた。メティアはユキトの後ろで様子をうかがっている。


「フィストーッ!」


 右腕を一体の人型ゴーレムに突き出して衝撃波を放った。衝撃波は人型ゴーレムに当たると片腕と片足を吹き飛ばした。だが、人型ゴーレムは片足で立って動こうとしている。


「まだ動けるのか…。しょうがない、もう一発」


 ユキトはもう一度衝撃波を放った。人型ゴーレムは崩れて砂と化した。


「中々タフだったな…さながら、迷宮を守る兵士って言ったところか…」

「すいません、ユキトさん…。わたくし何もできなくて…」

「王様の話を聞いて、姫様は相当大事にされてることが分かったよ。だから姫様には姫様にできることをやっていけばいい」

「はい…!」

 メティアは緊張した面持ちで頷いた。


「てりゃー!うりゃー!」

 ビャッコは相変わらず人型ゴーレムを投げ飛ばしている。


「はぁっ!」

 メリザも剣で人型ゴーレムをなぎ払って倒している。メリザたちが人型ゴーレムを倒していると通路の奥から何かが動いてきていた。


「何あれ…大きい」


 通路の奥から来たのは三メートル級の人型ゴーレムだった。


「メリちゃん、あれどうする?」

 ビャッコが聞くとメリザは冷静な顔で答えた。


「私が一人で倒す…!」

「でも…メリちゃんだけじゃ…」

「お願い。私だけで、誰にも頼らずにやってみたいの」


 ビャッコはメリザの気迫に圧倒されて何も言えなかった。


「わかった。でも危なくなったら頼ってね!」

「うん、ありがとう!」


 メリザが三メートル級人型ゴーレムの所に歩いて行こうとすると、ユキトが声をかけた。


「メリザ大丈夫か?」

「大丈夫!私を信じて」

「…ああ。信じてる」


 そしてメリザは剣を鞘から抜くのだった。

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