第35話 砂漠横断は並大抵ではない

 ユキトは見たこともない光景に声も出なかった。

 窓の外では巨大な砂の竜巻が空中都市の周りに何本も出ていた。


「あれはゴーレムの砂嵐じゃないか!」

 ファルフォルテ王が叫ぶように言った。


「ゴーレムの砂嵐っていうのは?」

 ユキトが聞くとファルフォルテ王は険しい顔で答えた。


「例の巨大ゴーレムの仕業だ。前からこの砂嵐は起きていたのだが、だんだんと近付いているようだな…」

「もう時間の問題ってことですか…」

「準備を急ぎ、出発しよう!」

 メルティスは出発を促した。


 ユキトたちは朝食を軽く済ませ、お城二階の広いベランダのような場所に出た。もちろん砂嵐が消えた後で。


 集まった兵士は全部で五十人だった。構成は剣士隊が二十人、魔法隊が二十五人、治療隊が五人だった。治療隊は少ないがメティアも治療できるので実質六人だ。

 先頭で指揮をとるのは、次期王女候補と言われているメルティスである。容姿端麗なメルティスはドレスのような鎧を着て、腰に細身で先端の鋭く尖った刺突用の片手剣、レイピアを下げている。いわゆるフェンシングの時のような剣である。

 そして、その様はまさに女剣士、剣豪のようだ。


 そのメルティスと兵士たちは広いベランダのような場所に整列している。


 ところでユキトたちはと言うと、両脇を兵士たちに挟まれた間の魔法陣のような円盤の上に乗っていた。


「それは横移動式魔法エレベーターだ。ユキト殿たちも乗って来ただろう魔法のエレベーターの横移動版だ」

「そのまんまですね」

「それは言うな…」

 メルティスは苦笑した。

 しかしすぐに切り替えて、前に歩いて行き全員の方に向き直った。


「我々は今日、砂のゴーレム討伐に行く。ゴーレムは相当な力があると考えられる。なめてかかると痛い目を見る。決して油断はするな!では飛翔開始!」

 兵士たちは「おー!!」と声を高らかに合わせて言った。


 すると、メルティスと兵士たちは背中の羽を広げ空に飛び立った。

 ユキトたちの乗っているエレベーターの中央には杖のようなものが刺さっており、ユキトがそれに触れると浮かび上がり出した。その後、杖のようなものを前側に倒すと前に動き出した。


 巨大ゴーレムがいるのは空中都市ファルフォルテを西に行った、湖を越えた先の砂の迷宮にいる。そのゴーレムは迷宮の奥に封印されていたのだが、何かしらの原因で復活してしまったらしい。


「遂に来ましたね、この日が」


 聞き覚えがある声が後ろからした。ユキトが見ると水色の髪のメティアだった。この日は白地にピンクの差し色が入った短めのドレスを着ていた。


「あれ?確か姫様も天飛人だったよな…」

「すいません…わたくし、あまり飛ぶのが得意ではなくて…」

「そういうことか…」

 メティアは「えへへ」と無邪気に笑っていた。


「ところで、お姉さんの剣は変わった剣だな」

「はい。ブルースカイリバーという名前のレイピアです。切るというより突く専門の剣ですね。小さい頃はよくお姉様の相手をさせられていました。ですが、わたくしは剣術がへたっぴで…」

「こういうこと言うと悪いんだけど、お姉さんの方がすごいんだな」

「けっこうはっきり言いますね…」

「ごめん…」

「いいんです…。わたくしはいつもお姉様には勝てないので…」

 メティアは下を向いてしまった。


「気にしなくていいよ。メティアにはメティアの良い所があるんだから」

 メリザがナイスフォローをした。


「はい…。ありがとうございます、メリザさん…!」

「ねえねえティアちゃん。あれ何?」


 急にメティアが指を差して聞いたのは砂漠で動く生き物のことだった。


「あっ、あれはですね、サンドスコピという巨大なサソリです。夜は砂の中に隠れているのですが、今は昼間なので活動するようですね」

「へぇー、じゃああれは?」


 次に指差したのは緑と黒色のトカゲのような生き物だった。


「あれはグリットリザードです。普段は砂の中に住んでいるらしく、獲物を捕まえる時に砂ジゴクで捕まえるんです。そして舌がとても長いのが特徴的ですね」

「じゃあー…」

「ビャッコ、そんなに聞いたらメティアが疲れちゃうよ」

「いいんですよ、メリザさん。見たこともないものを知りたいという気持ちは分かるので」

「分かった。でも最後にお願い…あの飛んでるの何?」


 今度指を差したのは黄色っぽい色のガのような生き物だった。


「あれはサビアモスです…。すいません、わたくし虫は好きではないので見たくはないのですが…。その羽から体がしびれてしまう粉を出すと言います。そして、そのしびれた生き物を……おえっ…」


 メティアは口に手を当てて気持ち悪そうだ。


「大丈夫か、姫様?」

「い、いえっ…大丈夫です。しびれた生き物を食べてしまうのです…」

「こわいね…。ありがとうティアちゃん、教えてくれて」

「どういたしまして…です」


 その頃、先行していたメルティス隊は隊列ごとに並び空を飛んでいた。


「大丈夫か。もうすぐ着くぞ!気を引き締めろ!」

 メルティスが兵士たちを鼓舞する。


 しばらくすると前方から砂が激しく吹きつけてきた。


「これもゴーレムの仕業か…。全隊、まとまって飛行せよ!」

 メルティスが兵士たちに命令すると隊列が四角形のように組み変わった。


 ユキトたちも吹きつける砂に苦戦していた。


「くっ…これだと息がしにくいな…」

 ユキトは顔を手で覆って吹きつける砂を防いでいる。


「ぺっぺっ…砂が口に入ったー」

 ビャッコがわーわーと騒いでいる。


「ビャッコ、あんまり動かないで怖いから…!」

 メリザはビャッコに掴まったまま未だに縮こまっていた。


「わたくし、こんな砂嵐初めてです…。お姉様たちは大丈夫でしょうか?」

「姫様、お姉さんはすごい人なんだろ?人の心配よりまず自分の心配をした方が…」

「そうですね…きっと大丈夫ですね」

「あとどのぐらい?まだ着かないの?」

 ビャッコが口に入った砂を取りながら言った。


「もうすぐだと思います。この砂嵐も迷宮の近くに来たから起こっているんだと思います」


 メルティス隊は砂を避けるために左右に動きながら飛んでいる。ユキトも魔法エレベーターの杖のような棒を右に左に傾けて操縦している。


 砂嵐に耐えながら進むと、少しずつ迷宮が見え始めた。外観は遺跡のようで、かすんだ灰色に白い曲がった模様が入っていた。その様は迷宮さながらだった。

 メルティス隊とユキトたちは迷宮の前に整列した。


「ここからは二つのチームに分かれて迷宮を進む。一つ目のチームは私と剣士隊十人、魔法隊十二人、治療隊二人だ。二つ目のチームは剣士隊十人、魔法隊十三人、治療隊三人にユキト殿たちとメティアを加えたチームだ。もし万が一、迷ったとしても引き返さずに奥に進んでくれ。何としても巨大ゴーレムを討伐するぞ!」

『おー!!』


 兵士たちは腕を空に向けて突き出した。さすがはメルティスだ。人をまとめるのがうまい。色々な人が信頼する訳だ。

 それからメルティスはユキトたちの所に来た。


「チームを分けてしまってすまない。何があるか分からないからな。念には念をだ」

「いえ、大丈夫です。迷宮って言うくらいですからね」

「ああ。お互いに巨大ゴーレムの所へ行けるように健闘を祈るよ」

「お姉様…」


 メティアはメルティスに近付いて「また後で…」と告げた。

「後でな、メティア」


 メルティス隊が先に砂の迷宮に入り、その後ユキトたちとメティア、兵士たちが続けて入って行った。

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