第34話 ビャッコのいたずら
王室がある二階の廊下を進むファルフォルテの姫、メティア。その後ろをユキト、メリザ、ビャッコが付いて行く。
「なあメティア姫様。まるで子供っぽく笑うよな」
「わたくしは十六です。もう立派な大人です!」
メティアはなぜか少し怒っていた。子供っぽく見られたくないのだろう。頬をぷくっと膨らませている。かわいいな…いやいや、抑えろ。今はそんなことを考えている場合じゃないだろ…。
十六って未成年じゃないのか。ここでは大人に入るんだな。
「ユキトさんたちは色々な場所を旅してきたのですか?」
「ああ。ちょっと危なかった時もあったけどな」
「そうなんですか。わたくしは生まれてからずっと、ここから出たことがないのです。外を見てみたいと何度思ったことか」
「そうか。お姫様も大変なんだな…」
王族の気持ちを考えたこともなかったな…。王族は何でもできると思っていたがそうではなかった。自由すぎるからこそ、それが不自由になってしまう。王族だからできないことが沢山あるということを。
「お姫様ではなくてメティアと呼んでください!わたくし、あなた方を気に入りました。お友達になってください!」
近いよ、顔が…。メティアの距離感がおかしい。王族がこんなに近い訳がない。少し前から思っていたが、メティアは王族っぽくない。
格好はきらっきらの王族なのだが言動や中身が違う。庶民的なにおいが感じられる。あまり王族に向かないのではないかとユキトは思ってしまった。
ところで、ビャッコはと言うとメティアの背中を見ていた。それの動きが気になって仕方がない。話しているときの感情で違う動きをするのが面白いようだ。
今メティアはユキトに近付いて止まっている。今がチャンスだ。今触るんだ。ビャッコの心に何かのささやきが聞こえる。
ビャッコは手を伸ばす。徐々にビャッコの手がそれに近付く。
あと二十センチ、心拍数が上がる。あと十センチ、急げ。あと五センチ、気付かれる前に。もうゼロセンチ、遂に。
ビャッコの手がそれに触れた。当然そういう反応になる。
「ふわぁっ!?な、何ですか!お、おやめください…!」
ビャッコはメティアのドレスから出ていた羽を触っていた。しかも何回も。
「ふわふわしてるね。良い触り心地!」
「び、ビャッコさん…!そこは…だめです!ち、力が抜けて…」
メティアは羽を触られてその場に座り込んでしまった。それでもなおやめないビャッコにメリザが近付く。
「えいっ」
そして、ビャッコの頭にチョップした。
「そこまでにしな。メティアが可哀そうでしょ」
「いてて…メリちゃん強いよ…」
「ほら謝りな」
「うー……ごめんね、ティアちゃん…」
ビャッコはお辞儀して謝った。
「羽は滅多に触られることがないので…びっくりしてしまいました…。もう、大丈夫です…!」
「本当に大丈夫?」
メリザがメティアの手を取って起き上がらせた。大丈夫と言っているが全然大丈夫そうに見えない。メリザの手に掴まり立ち上がっても、生まれたての小鹿のようによろよろしている。
「ごめんな、メティア姫様。うちのビャッコは興味があると色々触りたくなるらしい」
「いえ…で、では…引き続き案内を…」
ビャッコのせいで話が途切れたが、おれたちとは友達にならない方が身のためだとユキトは改めて感じた。
再び、きらびやかな廊下をメティアの案内で進む。少し長く感じたがそれももう終わる。
メティアが「こちらです」と指し示したのは豪華な装飾付きの扉だった。さすがはお城だ、と言った風に眩(まぶ)しさでいっぱいである。
メティアはその部屋の扉をいつものように開けた。部屋の中の方がより眩しかった。
天井には当然のようにシャンデリアが付いている。日本じゃこんなのあり得ない。せいぜいLED電球止まりだろう。LED電球は普通の電球と違って消耗品ではなくしばらく買う必要がない。だから電気代も安い、かどうかは定かではないが…。シャンデリアの電気代がどれほどか分からない(異世界だから電気代などない)が、王族ならどっちにしろ関係ない。
さらに、特大のベッドが二つあった。ちゃんときれいにされていた。きっとメイドか何かがいて、お城の全ての部屋を掃除しているのだろう。ご苦労様です。
後でメイド見れるといいけど…勉強のために。断じて勉強のために、社会勉強の。
「部屋はここと隣の部屋を使ってください。メリザさんとビャッコさんは一緒の方がいいと思うので二人で一部屋を、ユキトさん一人で一部屋をどうぞ。夕食までお時間がありますので後で呼びに来ますね。では…」
メティアはそそくさといった風に部屋を出て行った。
十中八九ビャッコのお触りのせいだろう。
特に何もなく時間は過ぎメティアが呼びに来た。
メティアに連れられて廊下を進む。王室の巨大な扉を通り過ぎ、王室の隣の広間のような場所に着いた。
横長のテーブルがいくつか置かれていて王や王女、メルティス姫は同じテーブルに座っていた。他のテーブルには兵士たちが座っていた。戦い前の決起集会的なものなのだろう。
王と王女は向かい合って座り、王の隣にメルティスが座っている。王女の隣にメティアが座りユキトはメティアの隣に来た。メリザとビャッコは順番にユキトの隣に座った。
全員が揃(そろ)ったところでメルティスが音頭を取った。
「皆の者、明日は砂のゴーレム討伐に行く日だ!今のうちに英気を養い備えるのだ!では、食事に戻ってくれ」
メルティスが座ってからみんなは食事をし始めた。
「まさかメティアが自分からゴーレム討伐を志願するとは…」
「わたくしもお姉様みたいに前に出られるようになりたいのです!」
メティアはメルティスの目をまっすぐ見つめて主張した。
「成長したな…。小さい頃はあんなに泣いていたのに」
「お姉様…!は、恥ずかしいので、やめてください…」
恥ずかしさでメティアの頬が桃色に染まった。
「意外だな、姫様。今は相当明るいのに」
「もう、ユキトさんまで…!」
メルティスはグラスに注がれた飲み物を飲んだ。
「メティア、明日はサポートを頼むぞ!」
「はい…!」
メティアは緊張した面持ちで期待に応えようとしているようだ。
食事は進み、ユキトたちは食べ終わるとそれぞれの部屋に戻ることにした。
「料理美味しかったな。じゃあ…また明日な。おやすみ」
ユキトは自分の寝る部屋の前でメリザたちにそう告げた。
「うん。おやすみユキト」
「ユキトっち、明日は頑張ろうね!」
メリザたちは隣の部屋に入って行った。
そして、ユキトも部屋のふかふかのベッドで眠りについた。
翌朝、ユキトは起きて部屋の水道で顔を洗った。
「よし、行くか!」
ユキトが顔を洗って気合いを入れていると扉を叩く音が聞こえた。
「入っていいよ」
ユキトが許可するとすぐさま入って来たのはやはりビャッコだった。
「ユキトっち、おはよー!」
「おはよう。メリザもな」
ビャッコの後ろからメリザがゆっくり入ってきた。
「おはよう、ユキト」
ユキトたち三人は揃って朝食を食べに、前日の夕食を食べた場所に向かった。
兵士たちは準備のためか、その部屋にはいなかった。代わりに王と王女、メルティスとメティアの姉妹が席についていた。
「おはようございます、ユキトさん。昨夜(ゆうべ)は寝られましたか?」
ユキトたちは前日と同じ場所に座った。
「おはよう、メティア姫様。まあまあ眠れたよ」
「それはよかったです!」
とその時、突然お城の中がゆっくり揺れ始めた。
同時に兵士の一人がユキトたちのいる部屋に飛び込んできた。
「王様大変です!」
「どうした?」
「窓の外を見てください!」
ユキトが窓の方に車いすをこいで行くと、すごい光景が目に飛び込んできた。
「なんだあれは…!?」
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