第33話 メティアのわがまま

 お城と言えばシャンデリア、シャンデリアと言えばお城を連想する。

 威圧感を発揮していた扉が開かれ、きらびやかな広間、王室が現れる。王室が存在していることさえ珍しいというのに、ユキトは今そこにいる。しかも、王や王女がこれまたきらびやかないすに鎮座している。


「ファルフォルテ王、客人が到着されました!」


 兵士の一人が大声でユキトたちが来たことを報告する。何だか大げさで恥ずかしく感じたが姿勢を何とか保った。

 そして、ユキトたちは王の少し前まで進み出た。メリザだけは手と足が一緒に動いていたが…。


「おれはユキトです。こっちはメリザとビャッコです」

「そなたたちは冒険者であるか?」


 ファルフォルテ王は座りながら威厳を保ちつつ聞いた。


「冒険者って言うよりは旅人に近いです。でもゴーレムを倒しに来ました!」

 ユキトが代表してしゃべった。メリザは緊張で動けず、ビャッコは失礼を言いそうなのと、あまり内容を分かっていないので必然的に。


「そなたは見た所、足が不自由と見受けられるが、それでも倒すと言うのか」


 当然だ。車いすに乗っている人がガンガン前で戦っていると思うはずがない。目の前で見たことがない限りは。

 今は証拠がないので言葉で信用させるしかない。


「はい。今までも巨大な敵と渡り合って来ました。簡単にやられることはありません!」


 どうだ、この話術は。加えて、ファルフォルテ王の目の奥までしっかりと見据えた。これこそが証拠だ。ユキトがそう思っていると。


「その方たちなら大丈夫です!」


 聞き覚えのある声がした。だが思い出せない。その声の主はお姫様のようなドレスを着ていた。白地にピンクの差し色が入った清楚なドレスだった。肩にかかるくらいの髪の長さで、髪の毛の色は水色でつやつやしていた。その髪にはきれいな装飾品が付いていた。

 その少女が王女の横から断言した。


「メティア、知っている人か?」

 ファルフォルテ王が聞いた。


「はい。お会いしましたから」

「あのー…身に覚えが…」

 ユキトがそう言うと、メティアという少女が何かを取り出した。


「これに見覚えはありませんか?」

 と言ってフード付きのローブを身に付けてみせた。


「あっ、あの時の!」

 メリザは驚いて大声を出してしまった。そうか、メリザとぶつかったローブの子か!どうりで聞いたことがある声だ。


「あなた、王族の人だったのね!」

「はい。ファルフォルテの姫のメティア・ファルフォルテです。あの時はぶつかってしまい申し訳ありませんでした…」

「大丈夫だよ!」

「――それで、お父様。この方たちは信用しても良いと思います!」


 ファルフォルテ王は玉座に深く座り直した。


「うむ、ゴーレム討伐は許可しよう。だが一日準備の時間をくれないか?実は今までゴーレム討伐に行った者たちは一度も戻って来ていないのだ。だから今回は兵士を連れて行かせようと思う」

「分かりました」


 ユキトが答えるのと同じぐらいのタイミングで王室の巨大な扉が開いた。


「メルティス様が到着されました!」

 兵士の声が王室に響き渡った。


 王室に入って来たのは女の人だった。長髪で紺色の髪、白地に青の差し色が入ったドレス型の鎧を着ている。頭には銀のティアラが付いていた。さらに背中から立派な羽が生えていた。その光景はまさに天使のようだ。

 歩きからは威厳さえ感じられる。そのままユキトたちの隣、王の前で止まった。


「お父様、お呼びですか?」

「メルティス帰ったか。ちょうどいい、この者たちが砂のゴーレムを討伐しに来たので兵士と共に向かってほしい。一日準備の時間を取ってあるからな」

「分かりました、お父様」


 メルティスと呼ばれる女の人はユキトたちの方へ近付いた。


「私はメルティス・ファルフォルテ、ファルフォルテの姫だ。よろしく」

 メルティスは手を出して握手の構えだ。

「ユキトです。よろしくお願いします」

 ユキトはメルティスの手を取って握手をした。それからメルティスはまたファルフォルテ王の方に向き直った。


「ではお父様、私はすぐに準備に向かいます!」

 そう言うと颯爽(さっそう)と風のように去って行った。


「メルティスはいつも風のようだな…」

 ファルフォルテ王は呟いた。


「あ、あの…お父様。わたくしもユキトさんたちと一緒に行ってもいいですか?」

「――それは危険です、メティア」


 今まで黙っていた王女がメティアを制止した。


「討伐はメルティスに任せて、あなたはお城にいてください」

「わたくしは力になりたいのです!お母様。ですから行かせてください、お願いします!」

 メティアは頭を下げて懇願した。


「ですが…」

「まあ、待て。メティア、ユキト殿たちなら信用できると言うのだな?」

「はい、保証します!」

 メティアは力強く断言した。ファルフォルテ王はメティアの目を見て頷いた。


「分かった。メティア、絶対に無理はするな。それからユキト殿、メティアをくれぐれも危ない目に合わせないように頼むぞ!」

「はい!命に代えても守ります!」

 ユキトはまるでプロポーズのようなセリフを言った。だが、本人は緊張で気付いていない。


「これでいいな?」

 ファルフォルテ王は王女の方を見てうかがった。

「はい、分かりました…。ユキトさん、メティアをよろしくお願いしますね」

「はい」

 メティアは嬉しそうな顔で「ありがとうございます!お父様、お母様!」と、また頭を軽く下げた。


「では早速、ユキトさんたちが休める部屋に案内しますね!」


 メティアはユキトたちと共に王室を出ることにした。

 ユキトは頭を下げて王室を後にする。

 メティアとユキトたちが王室を出て行った後、王室の巨大な扉が閉まった。


「メティアには困ったものだ…。昔も同じようなことがあったな」

「そうですね。昔から困らせていましたね」


 王女は、ふふっと、昔のことを思い出して微笑んだ。


「まあ今回はメルティスがいるから心配はいらんだろう」

「はい。メルティスがいれば安心です!」

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