第32話 魔法のエレベーターと

 冒険者が魔法のエレベーターに乗るには特別な許可が必要だという。まあユキトたちは旅人だが…そこまで大差はない。ユキトたちはちょうどよかったのかもしれない。

 王様が出しているおふれに従えば乗ることができるかもしれない。国の悩みを解決して本を見つければいい。ただそれだけだ。そして次の街へ行き、また本を探す。その繰り返しだ。


 街の中にある北の門だが、しっかりと作られている。石造りで魔法のエレベーターの周りを壁がぐるっと囲んでいる。

 門の前には門番が一人いた。ここで許可を取るのか…。


 ユキトたちが門の前に来ると門番が進み出てきた。


「何用か?」

「おれたちは王様のおふれを聞いてお城まで行きたいんです」

「そうか。王様の役に立ちたいんだな」

「――いや、そういう訳じゃ…」

 門番はユキトの話を聞いていない。


「ならば魔法のエレベーターに乗ることを許可しよう!くれぐれも気を付けてな!健闘を祈る」


 門番が意味深なことを言いつつ門の脇にあるハンドルを回し始めた。すると、門がゴゴゴゴと鈍い音を立てながら開いた。ユキトたちは門番に促され門の中に進み入った。


「その先にあるのがエレベーターだ。乗ると動き出すから気を付けてな。では…」

 そう言うと門番は、ハンドルを今度は逆に回して門を閉めた。


「何だか簡単に入れたな…」

「そうだね。それにしてもおふれは危険なのかな?気を付けてって念を押してたけど…」

「だいじょぶだよ!みんなで力を合わせればできないことはないからね!」


 ユキトは前を見た。エレベーターというか円盤か?そこには丸い円盤のようなものが石の床に模様みたいになっていた。


「この丸い所に乗ればいいのか」


 ユキトは円盤の上に車いすを進ませた。その後、メリザとビャッコも円盤の上に順に乗った。きーんという音が鳴ったかと思ったら、円盤の周りに柵が出て来て動き出した。


「うわっ、ほんとに動いた!すごーい!」

 ビャッコは目をキラキラさせている。


「こっ、これ落ちないよね!本当に大丈夫なの?」

 メリザはビャッコにしがみ付いている。こういう乗り物は苦手なのだろうか?ユキトはメリザの意外な所を知った。


 魔法のエレベーターは透明な筒のような所を斜めに上っていく。しばらく空の旅が続く。

 エレベーターというがそこまでエレベーターっぽくない。どちらかと言えば転移装置に近い。まあそんな装置はゲームでしか見たことないが…。


「ねえユキトっち。これも空を飛んでるって言えるんじゃない?」

「そうかもな。ある意味空を飛んでるな。メリザはどうだ?」

「こっちの方が本当に空を飛ぶよりはいいけど、やっぱりだめ…」


 メリザは縮こまって小さくなっている。誰にでも苦手なことはあるんだなとユキトは思った。


 そんなこんなで、魔法のエレベーターは空中都市の南側に到着した。乗っていた円盤型のエレベーターは再び門がある前に来て床にはまった。到着すると空中都市の南門が開きだした。連絡がいっていたのか準備が良い。


「よし行こう!」


 ユキトたちは門を抜けて外に出た。そこに一人の門番がいた。

「下の門番から話は聞いている。くれぐれも王様に失礼のないようにな」


 到着したあと街を見回してみた。一番に目についたものがあった。南門からでもその壮大さが分かる。やっぱりお城は大きいな…。

 ファルフォルテ城は遠くから見ても立派な城だった。


 フォルテシオンの街から上がって来て、少し進んだファルフォルテ城下街の中心部にはおふれの立て札が出ていた。

――西の砂の迷宮にいる巨大ゴーレムを倒した者に何でも好きな褒美を出す。ただし死んでも自己責任である ファルフォルテ王――


「これだ!これだよ」

「何でも好きな褒美…あの本をもらうってことだね」

「ああ!」

「ゴーレムを倒せばいいの?」

「まあ、簡単に言えばそういうことだな」


 ビャッコは早速ストレッチをし始めた。


「いや、まだ早いから…」

「それもそうだね!」


 ユキトたちは少しずつ進んだ。

 道は人通りも多く色々な店が軒を連ねている。武器、防具屋、食べ物屋などその他の店もある。


 装飾品を売っている店の物を見ている時だった。

 誰かが急ぐように歩いて来て、そのままメリザにぶつかった。メリザはよろけただけだが、ぶつかって来た相手は尻もちをついた。


「大丈夫?」

 メリザは手を差し出して言った。


「すみません…前を見てなくて…」


 相手は顔が隠れるローブを着ていたので誰だか分からなかった。ローブの人はメリザの手を取り起き上がった。


「わたくし、街に来たのは初めてなので少し調子に乗ってしまいました…」


 ローブの人の声は女の子だった。しかも、まるでお嬢様のような口調だった。


「私たちも初めてなの。じゃあ一緒だね!それにしても、この街はきれいだよね!」

「そうですよね!とっても素晴らしい街です!このような街に住めたらどんなに良いことか!」


 ローブで顔が見えなくても笑顔なのは分かる。


「あっ…すみません。取り乱してしまいました…」

「いいんだよ。あなたがこの街のことを好きなのが伝わってくる」

「メリザ、その人は?」


 ユキトが店の物を見終わってメリザたちの所へ来た。


「急いでたみたいでぶつかっちゃったの。この人もこの街に初めて来たんだって!」

「どうも」

 ローブの人はユキトに会釈した。


「そうだ!お互い初めてなら一緒に行かない?」

 メリザはダメもとで聞いてみた。


「すみません…わたくし、もう帰らないといけないので…。ぶつかってしまい申し訳ありませんでした…。失礼します」


 そう言うとローブの人は行ってしまった。


「ちょっとしつこかったかな?」

「そんなことはないんじゃないか?用事でもあったんだよ、きっと」


 ユキトはビャッコの所まで車いすをこいで行った。


「ビャッコ行くよ」


 ビャッコはずっと店の物とにらめっこしていた。


「えっ…待って」

 ビャッコは慌ててユキトについて行った。

 それからユキトたちは城に向かうのだった。


 ファルフォルテ城の前に来ると、壮大さと豪華さに圧倒された。城の門の前には門番が二人いた。なんちゃらクエストみたいなゲームでよく出てくるな。とユキトは思った。


「その者たちはこの城へ何しに来た」

「おれたちはおふれにあった巨大ゴーレムを倒しに来たんだ」

「そうか。それは失礼した。入っていいぞ」

 門番は許可を出して門を開けた。


 そして、ユキトたちは城の奥へ進んだ。

 城の一階の奥には魔法のエレベーターがあった。魔法のエレベーターの前にも兵士が二人立っていた。ユキトたちは二人の兵士にも城に来た経緯を説明して、円盤型のエレベーターに乗り込んだ。


「二人はお城に来たことはあるのか?」

「全くないよ!私なんかが呼ばれることは一生ないと思ったから…。でも今お城にいるんだもんね!考えられないよ」

 メリザは嬉しそうだ。まるで、わくわくしている子供のように。


「あたしもないよー!でもね、お姉ちゃんと一緒に壊れたお城に行ったことあるよ!」

「廃城か…。それにしてもビャッコはセイリュウさんと色んな所に行ってるな」

「うん!遠出していっぱい連れてってもらったよ!」

「やっぱり優しいお姉さんだな」

「優しいよ。たまに心配性だけどね」


 魔法のエレベーターは真上に動き二階に着いた。


「はぁー、緊張してきたなぁ…」

「そうだな。試験前みたいな感じだな…」

「試験って…?」

「あー…時間を計って学んだことを、紙に書く作業かな」

「へぇー、ユキトの世界ではそういうことするんだね」

「見て見て、ユキトっち、メリちゃん!」


 ユキトたちは魔法のエレベーターから降りて王室まで進んでいた。ビャッコが指差したのは王室の前の辺りだった。


 王室の前の巨大な扉が威圧感を発揮していた。

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