空中都市ファルフォルテ編
第31話 情報収集は人を選ぶ
グレメントでの戦いが終わり、ユキトたちは一つ目の本を手にした。
再びノスタル大国に戻り、次に向かうは西の空中都市ファルフォルテだ。ただ、ファルフォルテは空中にあるので、まず目指すのは地上にあるフォルテシオンの街になる。
フォルテシオン並びに空中都市ファルフォルテには天飛人(てんぴじん)と呼ばれる人種がいるらしい。彼らは背中に羽が生えていて自由自在に空を飛べるという。
「空って一度は飛んでみたいって思うよな」
「なんで?私はちょっと怖いと思うな…」
「あたしは飛んでみたいなー!それで雲の上まで行ってみたい!」
ビャッコは興味津々だ。
「ビャッコが空を飛んだら向かうところ敵なしだな!」
「だねっ!」
「いや、空を飛べたとしても力が強くなる訳じゃないから…」
メリザの正論が突き刺さった。
ユキトたちは砂と草が混ざった道を進んでいた。
「なんか暑くないか?」
「そうだね。暑くなってきたかも」
「えっ、暑い?あたしは感じないよ」
ビャッコはずっとすまし顔だ。
「その雷雪ビキニが冷たいのと、その格好だからか」
「それもあるけど、暑いの得意だからね!」
「本当に冷たいのか…」
「じゃあ、少し休もうか」
メリザの一声で少し休憩することにした。
メリザとビャッコが交代で水を飲んでいるとユキトが一人で何かをしていた。
「ユキト何してるの?」
ユキトは初めにメリザに買ってもらった、柄の部分に滑り止めが付いた短剣を持っていた。
「ああ。この短剣に魔法をかけようと思って」
「そんなことできるの?」
「実は身体強化魔法は人以外にもかけることができるんだ。おれはその魔法に挑戦してみようと思って」
「すごいね!新しい挑戦だね」
右手に短剣を持って集中するユキト。
あれ…物体の場合って魔力ないよな…?いや…この場合は自分の魔力を流し込めば上手くいくはずだ。
ユキトは自分の魔力の流れを感じ取る。水路に水が流れるような感じだ。ユキトの手から水路に水が流れ、その水が短剣の器に溜まっていく。
水が短剣の器に溜まっていくのが分かる。
「よし、いい感じだ!」
「上手くいくかな?ユキトっち」
「きっと上手くいくよ!」
ビャッコとメリザは勝手にしゃべっているがユキトは気にしない。
短剣の器の水がだいぶ溜まったところでユキトは呪文を唱えた。
「オブジェクトブースト!」
呪文を唱えても何も変化がない。どうやら失敗に終わったらしい。途中までは上手くいっていたはずだ。何が悪いんだ…。
ユキトが原因を考えているとメリザが話しかけてきていた。
「ユキト、だめだったの?」
「あ、ああ。まあすぐに上手くいくとは思わなかったけど…。でも、実際上手くいかないと虚無感に襲われるな」
「大丈夫だよ、ユキトっち!あたしも上手くいかないときはあったから」
「ビャッコに言われても説得力がな…」
「それは…でも気にしないで!」
ビャッコの笑顔で全てがリセットされた。
ユキトたちは休憩を終え、フォルテシオンへの代わり映えしない道を行く。
車いすをこぐユキトは腕の筋肉を使い同じ動作を繰り返す。
「歩くのがどんだけ楽か思い知らされるな…」
「ユキト押そうか?」
メリザが気を使って言ってくれた。
「大丈夫だ!自力で行ってみるよ」
「そう。分かった、疲れたらすぐ言ってね」
「ねえ見てあれ!なんか飛んでるよ!」
ビャッコが突然空の方を指差して言った。
ユキトが止まって見上げると点のような物体が空にあった。
「あれは…鳥じゃないか?羽みたいのが見えるし」
目を細めて見ても鳥にしか見えない。
ビャッコも両手を目の上に当ててよーく見た。
「うーん…そうかも。確かに鳥だ!」
「鳥以外ってことは滅多にないと思うぞ」
徐々に建物が見え、街をかたどり始めた。一つだけ高い塔のようなものがあった。おそらく時計台だろう。ユキトは目印にしやすいと感じた。
このフォルテシオンと言う街は東側に門があり、北側と南側が壁に囲まれている。街の向こう、西側は湖が隣接しており桟橋に船が何そうかある。
フォルテシオンの街に入る前に上を見上げると巨大な大陸が浮かんでいた。
あれが空中都市ファルフォルテか…。あんなに巨大な大陸がどうやって浮かんでるんだ?飛行石か何かで浮いてるのかな?きっと違うな…おそらく魔法か何かだろう。
あそこに本があるんだな。でもどうすれば行けるのか分からない。情報を集めよう。
フォルテシオンの街に難なく入り街の中央まで来た。街は住居やら店やらが互いに並んでいる。中央にはさっき見た時計台が堂々と建っていた。
「メリザ、ビャッコ、手分けして空中都市に行くための情報集めをしないか?」
「いいよー!」
「私も考えてたの。任せて!」
「じゃあ、二時間後にここの時計台に集合しよう!」
ユキトたち三人はばらばらになり情報を集めることにした。ユキトが道を進んでいると一人のおばあさんに出会った。
ユキトは早速、話を聞くことにした。
「すいません、ちょっといいですか?」
「ほえ…あんだって?なにか言いましたかえ…?」
どうやらおばあさんは耳が遠いみたいだ。
「ちょっと聞きたいことがあるんですけど…」
「あたしゃ最近、耳が遠くて聞こえにくいんですが…」
ユキトはおばあさんの耳元で大きな声で聞いた。
「あの!聞きたいことが!あるんですけど!」
「あんだって?あんだかよく聞こえねえよう」
「ですから、聞きたいことが!――」
「あんだって?」
ユキトがもう一度大きな声を出そうとした時、誰かがユキトとおばあさんのところに来た。
「おばあちゃん!こんなところにいたの?探したんだから…」
「探してたのはこっちだよぅおぅ」
走って来た女の子はどうやらこのおばあさんの孫らしい。
「あれ?あなたは?」
「おれは聞きたいことがあって、そこのおばあさんに話しかけたんだけど…」
「ごめんなさい…!うちのおばあちゃん耳が遠くて、慣れた人の声じゃないと聞き取れないんです…!」
「そういうことか」
「その代わりと言っては何ですが、わたしがお話を聞きます!」
ユキトはおばあさんの孫に空中都市への行き方を尋ねた。
「なるほど…上に上がりたいんですか…。ここから北に行った所の門の先に魔法のエレベーターがあるので、それに乗れば上がれます。この街の人だと簡単に行けますが、旅人さんは…難しいかもしれません。商人さんなら証明書があれば上がれますけど」
「そうなのか…」
「あっ、そう言えば!最近この近くで人々を困らせている魔物がいるとかで王様がおふれを出してましたよ!冒険者を集めているみたいで、あなたのような旅人も集めているかも」
「そうか。それは良い情報だ!ありがとう!感謝するよ」
「いえ、お役に立ててよかったです!」
おばあさんの孫の女の子は役に立てて嬉しかったのか笑顔になった。
「あっ!それと。この街の人たちは羽が小さいって聞いたんだけど、大きい人もいるんだな」
ユキトは気になったことを聞いた。
「それはですね。上に上がるかどうか選べるので自由なんです。羽が成長してもここに残る人もいるんです、おばあちゃんみたいに!ねっ!」
孫の女の子は突然おばあさんに向かって言った。
「あ?あたしゃ天才じゃないよ」
「この通りボケてますけど」
「なるほど…色々聞いてすいません、ありがとうな!」
「こちらこそ力になれてよかったです!さようなら!」
ユキトは二時間後に中央の時計台の所に戻った。そこにはメリザとビャッコも戻っていた。
「あっ!ユキトっち来た!」
「おかえりユキト」
「ああ。どうだった、二人は?」
二人は下を向いていた。どうやら何も情報を得られなかったみたいだ。
「だめだったよ…みんな知らないって」
「あたしもー」
「よかった…」
ユキトはほっと息をついた。
「おれは運がよかったらしい…。おれは情報を手に入れたよ!」
「本当に?すごい!」
「ユキトっちさすが!」
メリザとビャッコは自分のことのように嬉しそうだ。
「北に門があって、その先にある魔法のエレベーターで空中都市に上がれるらしい」
「そうなんだ!」
「さっそく北にいこっ!」
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