第7話 真実と嘘


「そろそろ、行くか……」


 手に持った1つの手紙、この手紙の真実を知るために妹の元へ向かわなくてはいけない。

 そもそも現実的にはあり得ないのだ、妹|柚葉|にラブレターの渡し主なのかと聞くこと自体。

 そんなあり得ない状況だが、この件に関しては柚葉に聞くしかない。


 そんな理由もあって、寝っ転がっていたベットから立ち上がる、鼓動がどんどん早くなるいつも軽々と開けているリビングへ繋がる扉は、いつもよりやけに重く感じた。


 『ガチャ』と扉を開けると、そこには柚葉がいつものように晩ご飯の準備をしていた。


「なぁ、柚葉ちょっといいか?」


「どうしたの、兄さん?」


 柚葉がこちらに振り向いて、何事かのように首をひねりながらこっちを見ていた。


「これ、何か分かるか……」


 右手に持っていた、例の手紙を柚葉に見せる。


「何それ?」


 あまり状況が掴めていない様な表情を見せる。

 この反応、もしかしてこの手紙は柚葉が渡したものじゃないのか?

 柚葉の何も理解していない様な表情がそう思わせる。


「え、柚葉知らないのか?」


 自分の予想が外れた、まだ柚葉から返事をされていないが、この反応からして俺の早とちりだったんだろうか、そう思ったとき早くなっていた鼓動が少し落ち着き始める。


「これ、ラブレター……?」


 何か考えるように、柚葉が手紙を見ながらそうつぶやいた。


「そうなんだ、でもよかった柚葉の字に似ていたからてっきり柚葉が兄さんに渡したのかと思ったよ、というか兄妹なんだからそんな事無いよな、あはは」


 自分の事がバカに思えて仕方なかった、どう考えたってそんな非現実的な展開が起こる訳がない、兄妹の恋愛なんて2次元の話にすぎないのだから。




「それ、私が兄さんに渡した手紙だよ、兄さんは間違ってないよ……」




「……え?」


 小さい声ではあったが生活音があまりしない今では、その小さい発言がしっかりと聞こえて。

 ほんの前まで自分の勘違いだったと笑い話で済ませれる様な状況だったが、聞こえてきた柚葉の発言からはそんな笑い話で済ませられない状況に戻ってしまった。

 まさかすぎる柚葉の発言に、言葉が思いつかなかった。


「ちょ、柚葉冗談だろ?」


 柚葉が、顔を少し下を向きながら顔を小さく横に振る。


「で、でもさ俺たちは兄妹だろ?」



「関係ないよ、関係……ないよ、私は好きなの、私は兄さんのことがずっと前から好きなの、でも兄さんは最初っから、私のことを妹としか見てくれない、だからっ!」



 初めて聞いた、柚葉の叫ぶ声。

 最後の言葉を言わずして、柚葉は走り出してリビングを出た。


 柚葉が走り去った後のリビングには、柚葉に何もしてあげられなかった不甲斐ない兄と静寂だけがリビングに残っていた。


「なんでっ、やっと俺も……」



 ※    ※    ※



「遅れてすいません……」


 学校近くの公園に着くと、呼んでいた人が先に到着していた。

 自分から呼んでいたのにまさか待たせてしまったなんて、言い訳はしたくないけど予想以上に時間がかかってしまった。


「別にいいのだけれど、どうしたのかしらこんな時間に?」


「いえ、一つ聞きたい事があって」


 何事かというような、顔をしていた。

 それもそうだろう、本人にからしたら言われる相手は私ではなく祐斗君なのだから。


「ラブレター……」


「っ!」


 そう言った瞬間、今までの状況をつかめていないという表情から、すべてを理解したような表情に変わる。


「海乃先輩ですよね、祐斗君にラブレターを渡したのって」


「ど、どうしてそう思ったの?」


「そうですね、字が先輩の字だったとかそんな探偵の様な感じだったらかっこよかったんでしょうけど、ただ先輩が部室に手紙を置いているのを見たんですよ」


「そう、周りはしっかりと確認したつもりだったのだけれど」


「ごめんなさい、見るつもりはなかったんですけど……」


「別にそれに関してはいいわ、ただ一つ聞きたいのだけれど、祐斗君が私の元に来るのなら分かるの、でもどうして恵さんが私の元に来たの?」


 当然の考えだと思う、海乃先輩からしたらはっきり言って全く関係の無い私がラブレター渡しましたよね、なんて聞いてくるなんてどう考えても意味が分からないと思う。


「先輩、ラブレターに名前書かなかったですよね」


「そうね」


「だから、祐斗君に先輩が送り主だって事を言わない方がいいのかなって思ったので今回先輩を呼んだんです」


 すると、海乃先輩が何かを考えているようだった。


「そういう事なのね、そして出来ればこのことは祐斗君には言わないでほしいの」


「分かりました、では祐斗君には黙っておきますね」


「ありがとう、用はそれだけでいいのかしら?」


「そうですね、それが聞きたかっただけですから、でも先輩が話してくれるのならどうして名前を書かなかったのかだけ聞きたいです」


「ごめんなさい、それはあまり言いたくないの」


 海乃先輩が申し訳なさそうに言う。


「いえいえ、気にしないで下さい、それではまた明日」


「えぇ、また」



 そう言って私は海乃先輩と別れる、海乃先輩が祐斗君にラブレターを渡したのだと知っていながら、祐斗君に隠しているのは申し訳ないけれど海野先輩に言われたのだから仕方がない。


「祐斗君は、もし海乃先輩に告白されたらどうするんだろう……やっぱり付き合ったりするのかな」



 ※  ※  ※



「こんな私じゃ……、駄目だよね」


 少し前のこと、兄さんが私に聞いてきたラブレターの話。


 そのときに、私は自分でも驚くぐらいに心が乱されて、思わず大声を出してしまった。


 それから私はずっと部屋の中にいる、あれからそろそろ数時間が経ったと思う、恵さんやお母さん、お父さん達がみんな家に帰ってきた。

 それから、お母さんや恵さんが「どうしたの、大丈夫?」なんて言いに来たが、そんなことほとんど気にもしていられなかった。

兄さんの前では、いい子でかわいく、誰よりも愛される様な妹でいようと私は昔から決めていた、実際今までそういう風に生活してきたと思っている。


「だけどっ、そんな急にラブレターなんて見せられら……」


 今まで積み重ねてきたものが少しずつ崩れていくような気がした。

 兄さんは、こんな私を許してくれるだろうか。

 それに、本当のラブレターの渡し主は誰なんだろう。

 そんなことが、ずっと頭の中で回転し、そのたびに私を悩ませる。


「兄さん、ごめん……」




「ゆー君……」

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幼馴染みとの再会は親の再婚だった 白風にろ @sirokaze

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