第6話始まりの前兆
部室に置かれた1枚の手紙、送り主が分からない不思議な手紙、その手紙を手に持ちながら家に向かう。
この手紙に書かれた字を見て俺は、この手紙の送り主がなんとなく誰だか検討がついた。
確定ではなくなんとなく、ほぼ感覚のようなものだった。
「多分、これ柚葉の字だよな……」
だが俺と柚葉は兄妹だ、そう考えると、この手紙はもしかしたら柚葉じゃない?
それでも1度送り主が柚葉だと思うと、この送り主が柚葉だとしか思えなくなってくる。
字の太さや、大きさ、少し丸い女子独特の字、その手紙を形創る要素のすべてが柚葉のものに思えて仕方ない。
「まぁ、そんなこと考えても無駄だな、柚葉に聞けばすべて解決することだし……」
そう思いながら、手紙を持ち柚葉に手紙について聞くために、足早に家に向かう。
※ ※ ※
「よし!」家の玄関前に立って、自分の頬を両手でたたいて気を落ち着かせる。
「ただいまー」といつものように家に入る。
すると、「あっ、兄さんお帰り」と柚葉がリビングの扉からひょっこりと顔を出して言ってくる。
「あのさ……」
「ん? どうしたの兄さん、いつもより表情が少し暗いみたいだけど、何かあったの?」
と、手紙の件で動揺していたのが顔にでていたのを、柚葉に指摘されて気がつく。
時すでに遅しと言わんばかりに、柚葉に聞くチャンスを逃してしまった。
「い、いやなんでもない」
「そう? 何かあったら言ってね」
「分かった」
なんだか言いづらくなり、今手紙の件を柚葉に聞くのはやめておくことにして、部屋に向かう。
部屋に戻って、ベットに入り仰向けになりながら例の手紙を掲げる。
「はぁ~、何て言えばいいんだよ……」
いざ、聞くとなると内容も結構ハードなため、なんとなく言いだしにくい。
『なぁ、柚葉は兄さんのこと好きか?』
「いや、なんか違うな……」
『柚葉、この手紙知ってる?』
でも、もしこの手紙の送り主が柚葉じゃなかったら……。
頭の中で軽くシュミレーションしてみるが、なんだか変な感じになる。
なんてことを考えていると、ガチャっと扉が開かれた。
「ねぇ、祐斗君ちょっといいかな?」
「なっ!」
部屋に来たのが恵だと分かり、とっさに手にしていた手紙を隠す。
「ど、どうした?」
「もしかして、今入っちゃダメだった?」
と、恵が何かを察しったかのように気まずそうに目を逸らす。
「いや、問題ないよ」
「関係無いんだけど、なにその手紙」
「え……あっ!」
とっさに手紙を隠した事もあってか、恵からはその手紙が見えていた。
そして、運の悪いことに手紙が開いた状態で床に落ちていたため、内容も恵に見られていた。
こんなに運の悪いことが一気に来ることがあるとは……。
「初めて会った時から、あなたの事が好きでした……」
「声に出して読まないでもらっていいかな、すごい恥ずかしいんだけど!」
「へぇ~、ラブレターじゃん、誰からもらったの?」
「それが、分からないんだよ」
「なんで?」
恵が不思議そうに首をかしげる。
それは当然の反応だと思う、ラブレターなのに名前がないのは、はっきり言って俺もよく分からない。
「名前が書いてなかったんだよ」
「それ、誰かのいたずらとかじゃない?」
「それも考えた、でも多分それは無い……と思う……多分」
予想だが、この手紙の送り主は柚葉だ、だからこそこの手紙が誰かのいたずらだという可能性は低いはずだ。
「あっ、そうだ!」
何かを思い出したように、恵が声を上げる。
「どうしたんだよ」
「探してあげる」
恵が、唐突になぞな事を言ってきた。
「何を、探すんだよ」
「だからね、私がそのラブレターの送り主を探すの手伝ってあげる」
「どうやって?」
「知り合いにでも聞いてみる、女子同士だと話してくれるかもしれないし」
確かに恵の言っていることは正しい、女子同士の会話となればこの手紙の送り主が分かるかもしれない、ただ……」
「それはありがたいんだが、友達は出来たのか?」
家では割と明るい恵だが学校での恵は、家での姿とはまるで違うと言えるぐらいに似ても似つかない様子だ。
そんな恵が、友達と話しているのをあまり見たことがない気がする。
その瞬間、わずかながら空気が変わったような気がした。
そして、自分が恵の地雷を踏んだことをすぐに理解した。
恵の肩は小刻みに揺れて、少し頬を赤くしていた。
「い、いるもん!」
「そっか、ごめん」
「もう、じゃ私も手伝うけど、一応祐斗君も自分で心当たりがあったりしたら探してみてね」
「わ、分かった」
用が済んだかのように恵が部屋を出ていった。
「さて、どうやって柚葉に聞こうかな……」
これのままだと、恵に探してもらいっぱなしになるため、早めに柚葉に聞かなくてはいけない。
「よし、行くか……」
※ ※ ※
祐斗の部屋を出て、自分の部屋に入る。
祐斗がラブレターをもらったらしい。
それでも、誰が送り主かまでは分からなかった。
だから、私はその送り主を探すのを手伝うことにした。
「これでいいんだよ……」
これが、私の出した答えだ。
これで祐斗君に彼女が出来れば、私の心はそこで終了する。
悩む必要がなくなる、そのときの1度の悲しみで済むのだから。
「よし、行こっか!」
最後の決断を済ませて立ち上がる、あのラブレターの送り主のもとへ向かうために。
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