第5話 後輩
朝。いつものようにカーテンのすき間から差す太陽の光で目を覚ます。
朝は苦手だ、起きられないとかではないのだが、頭がしっかり働かない。少しボーッとしていたりすることがたまにあるからだ。
だが別に今まではそれでもよかったのだ朝はボーッと朝食を食べるような生活で。
でも最近はある1人の男の子が家にいるため、いままでのように朝食中にボーッとしていたりしてはいけないのだ。
最近の私の朝は今まで以上にしっかりした生活をしていると自分は思っている、6時前に起きて、洗面所に行って顔や髪を整える。
何で自分がこんな朝早くから見た目を気にしているのか分からない、無意識的な行動に近いと言っていいかもしれない。
「目、少し赤いな~」
昨日の一件の後、私はなぜか泣いていた。それは1時間も続かずすぐに止まって、その日は寝たのだが、今日起きて見ると私は少し泣いていた。
理由はなんとなく察しがつくのだが、泣いたって仕方ないことも分かっているつもりだ。
「私ってバカだな――」
そう分かっていても、ついなんとか直そうと、目立たないように、ばれないようにと赤くなった目を、少しでもマシにしようと顔を洗う。
効果がないかもしれない、そうだとしても何かしておきたい、そう思ってしまう。
こんなことしても無駄なのに、そう分かっていてもついやってしまう。
「まっ、なんとかこれでバレないでしょ」
スイッチを入れるように自分の頬を軽く叩く。
「よし、今日も頑張んなくちゃ」
と、働き始めてすぐのOLのような事をしている自分が少し不思議。
一体私は何を頑張るのだろうか......何を頑張ろうとしているのか......。
「あっ、おはようございます恵さん」
リビングに行くと、キッチンでいつものように猫の絵柄がついたかわいいエプロンを付けて朝ご飯を作っている柚葉がいた。
「おはよ、柚葉ちゃんいつも早いね」
「いえ、今までやってきた事なので慣れてるんですよ」
最近は、柚葉ちゃんとは割と喋るようになってきたと思う。
歳が近い女同士というのが1番の理由だろう。
それにしても本当に凄い、毎日朝早くに起きてご飯を作っているし、しっかりもので。
私より1ヶ月誕生日が遅かった事で、義理ではあるが私が姉ということになったのだが、正直柚葉ちゃんの方が姉っぽい。
こんな子と結婚できる人は幸せだろうな~。なんて事を最近よく思っている。
ふと、思い出したようにある男の子の顔が脳裏をよぎる。
なんで、この状況で祐斗君の事私考えてるんだろ……。
「はい、どうぞ恵さん」
そう言って、自分の世界に入り込んでいた私を解き放った。
目の前には、こんがりと焼かれたトーストと目玉焼き、サラダにコーンスープと洋食寄りのおいしそうな朝ご飯が並んでいた。
「恵さんって、目玉焼きの黄身は潰して焼く派でしたよね」
「うん、そうだよありがと」
そう、あまり関係ないが私は目玉焼きの黄身は焼くときに潰した状態で焼いてあるのが好きなのだ。
と、そんな事を覚えていてくれた柚葉ちゃんに少し感動する。
朝ご飯を食べていると、いつものように祐斗君が、寝癖が少しついた状態でリビングに来る。
「あっ、おはよお兄ちゃん」
「ん~おはよ」
まだ、眠たげな声で朝の挨拶を済ませながら朝食が置いてある椅子に座る。
何で、いつもと同じ感じなんだろう。昨日の出来事を考えれば、少しはいつもと違ってもいいんじゃないだろうか。
自分だけ、ドギマギしていたのは自分だけだったと考えるとなんだか怒りが沸いてくる。
「兄さん、今日は部活ある日?」
「うん、だから先に帰っていいぞ」
「分かったよ~」
※ ※ ※
長い長い学校の授業が終わって、クラスの生徒が個々に家に向かって帰ったり、部活に向かう生徒がいる中俺もこの流れに乗るように、自分が所属する天文部の部室に向かう。
部室に向かう廊下を歩いていると、背中に急激な衝撃がかかる。
「なっ!?」
体勢が少し崩れるものの、なんとか足に力を入れて耐えきる。
「お久しぶりです、祐斗先輩!」
振り返ると、1人の少女が悪戯っ子のような表情をしながら立っていた。
小柄な体型と特徴的なクルッとした桃色の髪型をした少女は、天文部1年の後輩である
「どうしたんですか祐斗先輩? ぼーっと誰かに何か説明しているような表情して」
「風華ちゃんはエスパーかなんかなの!?」
「いえ、私は純人間ですよ」
腰に手を当てて、何かを自慢するような表情で立っていた。
まるで何かを伝えようとしている子供のようだった。
「じゃ、行こっか」
「そうですね、でも何でしょう今凄くさらっと流された気がして私は少し落ち込んでいますよ」
「…………」
「ちょっと先輩! どうして何も言わずに歩いて行くんですか~」
※ ※ ※
風華と2人で部室に入り、先に来ていた詩乃と3人で、特に何かある訳でもない時間をただ淡々と過ごしていた。
そんな時間を楽しんでいると、ガラガラっと部室の扉が開かれる。
「こんにちは」
恵が部室に入ってくると、風華が俺の腕の裾を引っ張ってくる。
「誰ですか、あの現役jkリア充みたいな美人さん」
「何だその偏見」
「いいですか祐斗先輩、金髪で綺麗な人はリア充なんですよ」
「そんなものなのか……?」
そんなことを言っている風華ちゃんだが実際クラスでは、割と人気な立ち位置だと聞いた事がある。
「そうだったわね舟見さんは恵さんの事知らなかったわね。神崎恵さんよ、最近入った新入部員よ」
「そうなんですね、よろしくお願いしますね神崎先輩」
「よろしく……」
相変わらず、外では少しおとなしい恵さんだった。
「それより、神崎先輩は祐斗先輩と同じ名字なんですね」
「兄妹らしいわよ」
「あれ? 祐斗先輩って妹は柚葉先輩だけでしたよね?」
柚葉の事を知っている、風華ちゃんにとっては、恵が妹と言われても戸惑うのは当然の反応だと思う。
「ま、いろいろあったんだよ」
「そうなんですね、まぁそういう事にしておきますね」
何かを納得したように、風華ちゃんはふんふんと顔を上下にしていた。
風華ちゃんと恵の初対面イベントが起きてからは特に何もなく、個々に好きなことをして時間が終わっていった。
「そろそろ、終わりにしましょうか」
「そうですね」
詩乃先輩が終わりを告げると、みんなが帰り始める。
部室から出て、職員室に部室の鍵を返しに行っている時にふと思い出した。
「あっ、すいません俺部室にノート忘れたので取りに行きますね」
「はい、鍵よ」と詩乃が鍵を渡してくれた。
「ありがとうございます、俺が返しておくので先に帰っていいですよ」
「そう、ありがとうそれじゃあまたね祐斗君」
「お疲れ様です祐斗先輩」
「じゃ……」
「はい、お疲れ様です」
3人と別れてから、部室に入り座っていた席に置いてあるノートを手に取る。
すると、ノートから1枚の紙が落ちてきた。
「なんだこれ……」
ノートに紙を入れた記憶が無かった、よく分からずにノートに挟まっていた紙を開く。
「えっ……これって……」
そう、ノートに挟まっていた紙には人生初の体験と言えるものだった。
『初めて会った時から、あなたの事が好きでした』
そう、ただそれだけ、その短い一言ですべてが分かる内容。
「ラブレターだ……」
今日俺は、人生初の体験をした。
男子全員の夢、ラブレターを今日僕は初めてもらった。
「来た! これで、始める俺の青春、初めての彼女!」
彼女いない歴=年齢の俺は、とうとうこの記録を止める日が近づいてきた。
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